アフリカの日系スタートアップ、注目すべき7社(下)
アフリカで日本人が個人で立ち上げた企業は約100社ほど存在します。そのうち、これまで累計1億円以上を調達したスタートアップ7社をご紹介します。
この記事は、7社のうち3社を取り上げた「アフリカで立ち上げられた日系スタートアップ、注目すべき7社(上)」からの続きです。残る4社を取り上げます。
この7社の情報は、弊社が作成した「アフリカビジネスに関わる日本企業リスト(2024年・最新版)」がもとになっています。個人が立ち上げた約100社の企業名は、すべてこちらからご覧になれます。
アフリカの日系スタートアップ7選
(上)では、WASSHA、Degas、Hakki Africaを取り上げました。(下)では次の4社を取り上げます。
4. Dodai-ガソリン自動車の輸入を禁止したクレイジーなエチオピアで、電動バイクを組み立て販売
Dodaiは創業2020年の比較的新しいスタートアップで、エチオピアで商用二輪ライダー向けの電動二輪の組み立て、販売を行っています。
エチオピアをはじめアフリカでは、二輪は個人用途でなく商業用途で使われています。バイクタクシーや宅配などで、男性にとっては困ったときに始めやすい職業となっています。
こういった商用ユーザ向けに、エンジンバイクでなく電動バイクを販売しようといのがDodaiの事業です。この、内燃機関車か電動か、どちらが普及するかという議論は、政府の政策によるものが大きいです。電動自動車・電動バイクは、そのままでは現時点では従来の自動車・バイクより割高で、さらにチャージをするための設備も要します。ただし、政府が税制や補助金、または輸入規制などを行えば、ゲームのルールが変わってきます。
エチオピアはなんといま、気候変動対応として、内燃機関車の輸入を禁止しています。世界初らしいですが、そりゃこんな大胆な政策は世界初でしょう。さらに完成EVの関税率は低く設定し、部品の輸入はゼロ関税としています。
うちのエチオピアスタッフによると、電動自動車の普及以前に、いま国内にある在庫が値上がりして車を買うのが大変になっただけらしいですが・・・。
エチオピアに電気があるのか?と思う人もいるかもしれませんが、この国にはルネッサンスダムというナイル川に設置した巨大水力発電所があり(そのせいで下流の国々と揉めています)、その電力が国中に安価に行き渡っているというわけではありませんが、少なくとも電気は近隣国に輸出するほどあるのです。さらに、エチオピアではガソリンやディーゼルは輸入品で、とくにこの数年は世界的な原油高やドル安により燃料価格は高騰しているため、相対的に電力にも分があります。
Dodaiにとっては、大きなチャンスのときですね。2024年シリーズAラウンドで4.5億円調達しており、累計の調達額は7.5億円です。
5. Peach Cars-中古車売買のサプライチェーン構築、ケニアを走る自動車の8割は日本車
Peach Cars(Cordia Directions)は、ケニアで中古車の個人間売買のマーケットプレイス事業を行っています。2番目のHakki Africaで述べたように、ケニアには日本から多くの日本車が輸入されています。日本の中古車輸出会社がオンラインで売っている車を、個人で買っている人もいますが、多くは業者が買っており、それがまた国内で販売されていきます。
また、当然ながら、国内で使われたあとの中古車も売買されています。中古車売買マーケットはかなり活発なのです。
ただし、中古車が相対で売買される際には査定が行われないことが多く、車体の品質の評価や整備を行う基準が確立していません。開けてみたらエンジンが取り替えられていたり、非純正部品が使われていたりということも実際あり、買った方は泣き寝入りです。中古車は質に応じて価格が決まっているわけで、買った車両がその価格で適切なのかの判断も難しくなります。
中古車を評価する基準や査定・検査の方法が整えば、相対で売買される中古車の品質が明らかになるため、金融機関は融資がつけやすくなります。ケニアでは公道を走る車はすべて自動車保険への加入が義務付けられていますが、保険会社の査定にも役立ちます。
査定・検査、整備、融資、保険、売買は全部同じ線上にあります。Peach Carsはこのうち査定・検査、整備と売買を行い、サプライチェーンを標準化しているということですね。類似の中古車プラットフォームで、Uberのような配車アプリと提携しドライバー向けにプラットフォームを通じて車両を供給している例もみられます。
Peach Carsは2020年創業。2023年にシードラウンドで7億円を調達しています。
6. SENRI-アフリカ消費財ビジネスの最大の課題であるサプライチェーンの効率化に10年以上挑む
SENRIが対象としているのは、サプライチェーンの非効率です。商品がメーカーからエンドユーザーまで到達するには、日本だと大手卸や問屋が存在しほぼ決まったルートで商品は流通していきます。しかしアフリカにおいては卸や問屋のカバレッジが低いため、また最終小売がいわゆるパパママショップであって近代化・規模化されていないため、サプライチェーンは長く、複層的で、多数の人間が関わり手から手を介して運ばれていきます。
メーカーからすると、自社の製品がどこで販売されているか、いくらで売られているか管理できない状況です。これを可視化、効率化するために、メーカーは自社で人を雇って最終小売店に卸そうとしているのですが、いかんせん上記のようなカオスのサプライチェーンなので人間とモノ・売上の管理は非常に煩雑です。SENRIはこの課題をデジタル化し、解決しようとしています。
SENRIは2015年創業の日系スタートアップの老舗。まずウガンダで開始したのちケニアへと拡大し、いまはナイジェリア、そしてインドネシアでも事業を行っています。いろんな人から話を聞くに、インドネシアはパパママショップが主流なところや卸の役割などが、アフリカに似ているようですね。
この消費財のサプライチェーンの効率化に取り組む企業は、アフリカでも現れはするのですが消えていく領域で、SENRIのように息長く10年続けている企業は少ないはずです。2019年にシリーズAラウンドで2億円を調達しており、累計調達額は3.6億円です。
7. Dots for-農村・地方にこだわり、ベナンで通信事業
日系スタートアップは英語圏アフリカをメインとすることが多いですが、Dots forの主戦場はベナン、フランス語圏の西アフリカです。日本では、ベナン出身のゾマホンさんがテレビに出ていたおかげでよく知られていますね。
Dots forはさらに、農村・地方で事業をすることを会社の目的に挙げているスタートアップです。アフリカでも、都市部が経済発展しても農村・地方は取り残されていることが多く、都市と比べて得られる情報や得られる機会も限られています。
情報や機会の不足は、通信アクセスが不十分であることも理由のひとつです。基地局や通信塔などの大きな投資に見合う利益が得られないため、通信会社も農村・地方での投資には及び腰です。Dots forはここに分散型のネットワーク技術を用いることで、通信サービスを提供しています。通信だけあってもデバイスがないと受信できないので、スマホの割賦販売も行っています。
アフリカの国々ではとくに、経済面に限っていえば、国と国の違いよりも、同じ国での都市と地方の格差の方が大きいといってもいいかもしれません。地方・農村は国を超えて同じ課題を抱えています。
Dots forの創業者は、(上)でとりあげたWASSHAで働いていたことがあります。WASSHAの創業は2013年で、Dots forは2021年。アフリカの日系スタートアップもひとまわりし、WASSHAマフィアがアフリカでさらにスタートアップを立ち上げるという展開となっています。今回紹介した7番目のDots forと1番目のWASSHAがつながりました。
Dots forは2023年にシードラウンドで1億円を調達し、累計調達額は1.4億円となっています。
1億円未満/日本から進出したスタートアップ
1億円未満を調達した日系スタートアップ(公表ベース)としては、セネガルの電力スタートアップSUCRECUBE Japon、ルワンダで分娩管理装置の導入を目指すSpiker、臨床検査ラボを運営するケニアのConnect Afya、ウガンダで日本食レストランや農産物輸出を手掛けるCOTS COTSなどが存在しています。
アフリカで立ち上げたのでなく、日本のスタートアップがアフリカに進出した例もあります。たとえばヘルスケアテックのAllmは、2021年ケニアに進出しました。AI開発におけるアノテーションをナイジェリアに発注しているのがDaijobuです。ドローン空撮とAIによってマラリア発生地を検知するドローンスタートアップであるSORA Technologyは、シエラレオネなどで実証を行っています。
他のスタートアップや個人が立ち上げた企業100社について、詳しくは、こちらからご覧ください。取り上げたすべての企業と、それ以外の企業が国別にリスト化されています。スタートアップをまとめてみるには、ダウンロード資料を入手ください。
日系だけでなく、アフリカで事業を行うスタートアップについての包括的な情報をまとめた「アフリカスタートアップ白書」も発行しています。2012年からの10年間に渡ってアフリカスタートアップへの投資案件をすべて記録したデータベースを元に作成しています。