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アフリカに古着を送るべき?送るべきでない?古着をめぐるさまざまな視点

先進国で使用済みとなった古着の一部は、アフリカなどいわゆる途上国に輸出されています。寄付として送ったはずの古着が、環境破壊をもたらしたり現地産業の成長を阻害しているのではないかという意見や、大量に生産してはすぐに廃棄され他所の国で処理されることになるアパレル産業の慣行への批判もあります。

アフリカの中でも、さまざまな意見があります。古着を巡ってどんな意見があるのか、テーブルの上に並べてみたいと思います。


先進国から途上国への古着の流通の実際

そもそも、古着はどのようなルートを辿ってアフリカにたどり着くのでしょうか。

人々が寄付したり、回収ボックスにいれた古着は、回収業者が引き取ります。次に仕分け業者が衣料として再販できるものとそうでないものに分別します。家庭からでた古着のうち半分程度が再販可能となり、残りはウエスとなったり、断熱材や詰め物用の繊維にリサイクルされたり、捨てられたりします。人が着る前に店舗や工場で売れ残りや廃棄となる衣料も、同じ流通に乗ります。

再販可能な衣料は等級付けされ、圧縮梱包され、コンテナで輸出されていきます。左が古着の輸出国、右が輸入国です。世界で52億ドルが動いており、米国、中国、英国、ドイツ、韓国が輸出大国、ガーナやケニアが輸入大国です。

2021年

最終目的地に直接輸出されるものの他、多くの古着が仕分け拠点のある国を経由します。パキスタンやUAE、ポーランド、カナダは中継地で、回収・仕分け業者はこれらの国に倉庫を持ち、英国や米国から仕入れた衣料を仕分けて、アフリカやアジア、東欧に再輸出しています。よって、図の左にあるこれら中継国から輸出される古着の実際の輸出国は、英国や米国です。

こういった事情を含め精査すると、アフリカに向けてもっとも古着を輸出しているのは、英国、米国、中国となりそうです。ガーナは英国から、ケニアは中国からの輸入がとくに多いです。ナイジェリアは韓国からも輸入しています。

古着の貿易額は、45億ドル水準で増加傾向で推移していましたが、2020年にコロナで落ち込んだあと、2021年にはいっきに52億ドルまで増えています。

環境に悪いのは古着か、新品か

ガーナのアクラにあるカンタマントは、古着のマーケットとして有名です。輸出された古着の塊はここでバラされ、売り手から売り手へと卸されていきます。古着マーケットは個人も買うことができますが、どちらかというと卸市場の役割を果たしています。

コンテナから積み出される古着の圧縮梱包(MRIC)

アフリカでも地域や国により違いがありますが、ガーナやケニアでは、人々は古着を買うのがごく一般的です。カンタマントのような大きなマーケットから古着を仕入れた人たちは、自分の店で売ったり、店を持たずに売り歩いたり、地方に転売したりします。売り手はいわばセレクトショップのように、自分の目利きで服を選んで仕入れ、値付けします。

買い手となる消費者は店舗をまわり、好きな服を選び、組み合わせて着ます。衣料や靴への消費は人々の可処分所得に占める割合も高く、仕方なく古着を買っているというよりはもう少しポジティブに、多様な古着を選ぶのを楽しんでいるように見えます。

「アフリカに古着を寄付」というと、食うや食わずの人たちになんでもよいから着るものを無償提供するイメージがあるかもしれませんが、特定の受け取り手を指定した寄付でない限り、アフリカに到着した古着はこうやって普通の人向けの衣料として販売されます。

この記事のサムネイルは、ケニアのナイロビでの街角スナップです。みなが一点ものの古着を着ているがゆえに、新品を買う日本のように、その年の流行にあわせて街でみる服装が似通ってくることはありません。

しかし、古着の売れ残りがゴミになって環境を破壊しているとする意見があります。Or Foundation Ghanaによると、カンタマントに流入する衣料の40%は廃棄物になっており、捨てられ、川や海を汚染しているとしています。先進国のファッション業界はアフリカを古着のゴミ箱にしており、「廃棄物植民地主義」だとして、対策と補償を求めています。

ケニアにも、ギコンバという大きな古着マーケットがあります。ここで活動するMitumba Institute & Research Centerは、古着の輸入を抑制するべきでなく、古着産業をむしろ活性化させるべきだとしています。

彼らの主張は、第1に、古着の販売は一大産業であり、多くの雇用を生んでいるというものです。別の調査によると、ケニアのみで古着輸入業者は200ほど存在し、ブローカーやそこから仕入れて売る個人、間接的に関わる人々をあわせて、15万人程度が古着産業に関与すると推計されています。

古着をマーケットで仕入れて販売する仕事は、仕事がない人、地方からやってきた人、子育てと両立させる必要があるお母さんたちがすぐに収入を得られる仕事です。古着を運んだり、古着をリメイクするミシン仕事などの職も生んでいます。

第2に、アフリカの人たちには、古着のような安い価格帯の衣料へのアクセスが必要だとしています。

また、新品の衣料を生産するのに比べれば、古着を流通させる方が環境に適っているとしています。綿花の栽培や染色には大量の水を使用し、1キロの生地を作るのに温室効果ガスを23キロ排出する上、縫製などの工程でも大量の廃棄物がでるとして、新品の衣料に比べると古着は環境負荷が少ないという主張です。

古着がゴミとなる問題については、回収と仕分け、リサイクルのレベルを上げて廃棄率を下げればよいとしています。彼らによると、先進国において新品の衣料が古着として回収される比率は20%しかなく、そのうちの40%が自国内で再販され、残りが輸出されます。回収率をもっと上げ、選別をしっかり行い、古着の輸出を増やして産業を拡大するべきだとしています。

ギコンバマーケットの映像です。


ファストファッションは悪か、救世主か

古着の流通が増えているのは、ファストファッションのように、安く、ライフサイクルが短いアパレルが興隆したからとされます。店頭に並ぶ期間も短いため、売れ残りも古着となります。大量生産・大量販売はサスティナブルでなく、縫製工場の待遇や環境も向上させません。

このような意見に真っ向反対するように、ファストファッションの中からでてきた、さらに超高速・超安価なウルトラファストファッションがSHEIN(シーイン)です。同社はオンライン上に毎日3,000~5,000の新作を発表しており、この数はファストファッションの代表格であるZaraの1年分に該当するそうです。

日本含め、サスティナビリティに敏感なZ世代においても人気が急上昇したシーインですが、たとえば環境団体グリーンピースは「人にも環境にも有害」であるとして、シーインを始めとしたファストファッションの生産・販売を大幅に減少させるべきだとしています。

ところがこのシーイン、アフリカでも人気がでています。中間層の層が厚く、オンラインで衣料を買うことが普及している南アフリカで、安く、トレンドに即応し、早く配達されることから人気がでて、アプリのダウンロード数が急増しているといいます。

SHEINの南アフリカサイト

シーインがサービスインしていない他のアフリカの国でも、アリババを通じて、中国からファストファッションや安い衣料を直輸入するのが人気です。

世界中でそうであるように、安く衣料が手に入ること、さまざまなファッションを手軽に楽しめることへのニーズは、アフリカにもあります。

ちなみに、アフリカの消費者に人気のブランドを調査した結果でも、シーインは2022年に初めて100以内にランクインしました。

ファストファッションは、早いサイクルを実現するために、常に新しい生産地を探しており、また分散させています。実はこのことが、アフリカの製造業へのチャンスも生んでいます。

自国で作るべきか、輸入するべきか

アフリカ各国の政策においては、古着は、国内製造業の成長を妨げるとして問題視されることが多いです。元手が無料の古着は安価で、国内の縫製工場は太刀打ちできないためです。

アフリカでも90年代までは、縫製工場や生地工場が多くありました。東レやユニチカもアフリカに工場をもっていました。しかしその後の貿易自由化によって、古着や安価な衣料が流れ込み、アフリカの縫製業は壊滅したという経緯があります。

いまでもアフリカに縫製工場はありますが、南アフリカやエジプトなどを除いて、ほぼすべてが自国向けでなく輸出向けです。そしてそれら工場で作られている多くは、ファストファッションです。H&MやZaraといったファストファッションが、アフリカの縫製産業と技術をなんとか支えており、工場を継続させています。

私はこれまで、アフリカで100を超える縫製工場を訪問しました。訪問先は、ケニアやエチオピア、ナイジェリアやコートジボワール、エジプトにチュニジア、マダガスカルに南アフリカなど、アフリカ全域にまたがります。国により輸出国や縫製の水準はさまざまですが、功罪あれど、ファストファッションや大手ジーンズメーカーからの受注がある工場とそうでない工場では、経営の安定度や雇用人数が違います。

ケニアの縫製工場(ABP撮影)

2016年、ケニアを含む東アフリカ共同体は、古着輸入の段階的禁止と関税の引き上げを決めました。国内の工場でつくった衣料を国内で流通させ、衣料の自給自足を実現するためです。ところが、これに猛反発したのが、古着輸出大国である米国です。

古着の回収・輸出業者からなる米国の業界団体は、撤回を求めて当時のトランプ政権にロビー活動を行い、政権はAGOAの取り上げを示唆しました。AGOAとは、アフリカの国々が米国に輸出をする際に関税が免除になる制度で、ケニアやウガンダ、タンザニアの縫製工場はこれを利用することで米国向けに競争力をもった輸出を行っていたのです。つまり、古着の輸入を禁止するなら、新品の衣料を安く輸出させないと脅されたわけです。

アジアの国々は、都市の若年労働者を縫製工場のような軽工業に吸収し、輸出して外貨を得ることで経済発展してきました。輸入を抑制し、国内生産を促すことは、工業化を達成するためのセオリーです。もっと直接的には、古着の輸入に用いる外貨が減少することは、外貨保有高や為替相場の維持に苦労するアフリカの国々にとって恩恵があります。

自国の縫製産業を発展させるために古着の輸入を禁止しようとしたのに、縫製産業の輸出先がなくなるのでは本末転倒となるため、ルワンダを除く東アフリカ共同体の国々はこれを撤回しました。その後も古着の禁止や関税引き上げはなんどもトピックスとして上がりますが、実行には至っていません。

一方米国は、アフリカの縫製産業は自国の消費者向けに安い衣料を生産できるほどの力がないのだから、所得が低い人に衣料を供給するためには古着は必要なのだと主張しています。

鶏が先か卵が先かという話ですが、実際のところ、アフリカで一生懸命アパレルを生産しても、コストをまかない利益を生むにはアフリカ以外で高値で売るしかないのが現状であるのも、事実です。

米国はまた、古着を禁止したとしても、代わりに中国から安価な衣料が(SHEINにみられるように)合法、非合法含め流入するだけなのだから、中国衣料への輸入割当の方を行うべきだと主張しています。古着の輸入を禁止して果実を得るのは、アフリカでなく中国だと強く警告しています。


なお、アフリカのなかでも、今回とりあげたガーナやケニアのような英語圏と違って、フランス語圏アフリカでは、先進国から輸入される古着でなく、いわゆるアフリカ布を仕立てて着る人が多いです。冒頭にとりあげた古着の輸入国で、西アフリカの国が上位に位置していない理由です。

マーケットで生地を買い、好きなパターンを仕立てやさんに依頼します。仕立て代を含めると決して安価ではありませんが、人々はおしゃれと身だしなみに熱心で、その装いはとても素敵だ、ということを、以下で書きました。

ただし、残念なことに、こうやって「アフリカ布」として売られている生地も、アフリカで生産されているものはほぼありません。中国やオランダなどで作られた生地がアフリカに輸入されています。

アフリカは、綿花の産地でもあります。しかしアフリカの綿花は、原材料として他国に輸出されるだけで、現地で糸や生地になっているわけではありません。ここでも付加価値の取りこぼしがあります。

アフリカの政府も手をこまねいているわけではなく、糸や生地の工場を再生させたり、縫製工場向けの工業団地を作って法人税などの減免を行うなどして、縫製産業の復興と競争力強化に取り組んでいます。

アフリカにとって古着やファストファッションは、プラスの面もマイナスの面もありますが、どの立場でもきっと一致するのは、アフリカで生地や縫製品がもっと作られるようになった方が望ましいということだと思います。古着輸出国である米国のAGOAも理念として、アフリカの工業化や経済の付加価値化支援を謳っています。アフリカ側は、日本や世界のアパレル産業が、アフリカで生産を行ったり縫製を注文したりすることを、喉から手が出るほど望んでいます。

以前、日本のアパレルのエチオピアでの生産を支援した事例です。

アフリカのどの国で縫製産業がおこっているのか、簡単に説明した記事です。



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