ETV特集 『忘れられたひろしま 8万8000人が演じた"あの日"』を見ての感想
今から約70年前、広島で実際に原爆により被爆した市民8万8千人が参加し、"あの日"を描いた映画『ひろしま』。
私はこの作品をこの特集があるまで知らなかったのですが、昨日やっと撮り溜めていたETV特集のこの回を見て、考えることが沢山ありました。
そもそもなぜ日本の人々に忘れ去られていたのか?「もう2度と子どもたちを戦争に行かせてはならない」と言う信念のもと、全国の日教組の組合員の教師たちが1人50円のカンパをして、今の価値で五億円もの製作費を投じて、当時一流の映画人に作られたのにも関わらず。
完成した映画は配給予定の大手の制作会社が"反米的"だとして公開することが叶いませんでした。
また出演した少年は学校でアカだと陰口を叩かれ、自分はイデオロギーに加担させられ、政治利用させられたのではないかと次第に葛藤するようになり、高校入学と共に広島から離れたことなどのインタビューがありました。
数年前からこの作品は日本各地で再上映される動きが活発化し、北米でデジタルリマスターされ、カナダでも上映されたそうです。
この作品は政治的なイデオロギーを代弁するようなものだったのでしょうか。当時、教え子たちを戦争に行かせてはならないという日教組の考えは、朝鮮戦争などの米ソの緊張関係の中で、学校で政治活動を行ってはならない。反米感情をもたせるようなことを学校で教えることは公安に反すると言う政権と激しく対立していたそうです。
どんな作品も背後に政治的なイデオロギーを感じてしまうと陳腐になることはあると思います。でも、この作品はそのような政治感情を表現するだけの映画ではなかったのではないかと。
原爆が落とされて、突然生活が一変する。沢山の人が人為的な行為で一瞬で死ぬ。実際に被爆したその当事者8万8千人の1人1人が演じるということそのものに、まず大きな意義があります。
ひろしまに出演した女性は「人間が人の姿をしてないのだけど、川にたくさんいる。それは映画でもとても表現できない」「あのシーンを演じた時に実際にはそこはセットなんだけど、本当に"あの日"の感覚が蘇り、混ざるような異様な感じ」と言うようなことを言っていました。
また私が特に印象的だったのは-----ある時たくさんのエキストラのいる中で女性の泣き声が響いた。その被爆者でありエキストラの女性は「この、同じ場所で自分の子どもが亡くなった」と言った-----そうです。
そのような被爆者一人一人の思いを、伝えること。8万八千人の、実際には亡くなった人も含めて、もっともっと沢山の人の生きた、生々しい声を後世に伝えること。
この作品を観たと言うオリバー・ストーン監督が「人間は忘れてしまうから、記憶との戦い」と言っていました。
私もその通りだと思います。人間はこんな痛ましいことも忘れてしまうから。常に戦わなければいけません。残酷なことや、目を背けたい現実と向き合うことを避けてはいけません。
私たちには知性があります。常に考えていなければなりません。もう2度と悲しみを繰り返してはいけないのです。
今、コロナウイルスで世界中がパニックになっていますが、それさえも過去から学ぶことがあったはずです。
マンゾーニの『いいなづけ』31章の冒頭に「保険局が恐れていたことが現実になった。ドイツのアラマン人たちがミラノにペストを持ち込んだのだ。感染はイタリア中に拡大している」という一説があります。1630年ミラノを襲ったペストの流行について書かれたもので、他にも、外国人を危険だと思い込んだり、当局間の激しい衝突や「ゼロ患者の捜索」、専門家の軽視、根拠のない噂や馬鹿げた治療法、必需品を買いあさり医療危機を招く様子などが描かれているそうです。
まるで現代の世界のようです。
私たちは常に考えていなければなりません。過去から学び、決して思考停止をしてはいけないのです。
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