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孫力(まごりょく)ってなんだろう?「おいしい」記事をつくるための取材と企画のつくりかた 梅田の!ローカルメディア座談会、第2回レポート!
さまざまな人や情報が行き交う梅田。筆者も大学時代からよく行っている街だが、大きく変わったところと、意外と変わらないところがある。例えば、未だに待ち合わせはビッグマン前だし、阪神の大阪梅田駅改札近くにある「MINGUS」にカレーを食べに行く。大阪第二ビルには行きつけの場所もある。ちなみに高校生の時には、いかにだらしない格好(普段着のスウェット)で梅田という都会を歩けるか、みたいな粋がった遊びをしたこともある。そうした「変わらない」梅田も好きだし、新しくなる梅田にもなんらかの刺激をもらっているのだと思う。
そうしたさまざまな思い出と想いが梅田という街に蓄積している。いや、ぼくと梅田との関わりの中に保存されている。梅田という街のローカル性、梅田とわたしの個人的な関わり。今回の梅田という街におけるローカルメディアを模索していくプロジェクトでは、梅田の独自性についてしっかりと深掘りをしていければと考えているし、その過程で知らなかった梅田に出会うことができればと思っている。それはとりもなおさず、知らなかった自分とまた出会い直すことであるのかもしれない、とも期待している。
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第1回に引き続き、阪急大阪梅田駅の周辺で開催された「梅田の!ローカルメディア座談会」。前回は、藤本智士(ふじもと・さとし)さんと田中輝美(たなか・てるみ)さんにゲストとしてお越しいただきました。話題提供では、情報を発信するだけではなく、相手の中にあるなにかを掘り起こしていくことが大切なんだという「文化資本」に関する話や、ともにつくっていく環境を常にデザインしながら制作している「みんなでつくる中国山地」の話題が展開されました。今回は「孫力(まごりょく)」というキーワードを手がかりに、愛される前にどう愛するのか、そのような取材や関係性づくりの方法やテクニックとはどんなものなのか、などについて深掘りしていく回となりました。
前回はグランフロント「うめきたSHIPホール」が会場でしたが、今回の会場は「新阪急ホテル」。新阪急ホテルは、今回のローカルメディアを模索するプロジェクトにも関連した施設になっているので、なんだか感慨深いですね。
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入り口をくぐり、すぐにあるエスカレーターを上がると出迎えてくれるのは「本日のご宴会」の案内。この雰囲気の中で「梅田の!ローカルメディア座談会 記事作成は大喜利?孫力(まごりょく)とは」というシュールなタイトルがより一層イベントへの興味を掻き立てます。いや、掻き立てないか。
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イベントは、星の間という厳かな会場で執り行われました。いや、実施されました。これまで、筆者もさまざまな場所での企画に携わってきましたが(銭湯やお寺、歴史的な文化財やスーパーの中など)、なかなかこのようなラグジュアリーな空間でのイベントは多くないので、開始が近づくにつれ緊張感が高まります。と思ったところ、なぜか「オールナイトニッポン」のテーマソング、「Bitter Sweet Samba」から場がスタート。なんでやねん。
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まず、前回の内容の振り返りから場がスタートします。「梅田の!ローカルメディア座談会」では、いわゆる模造紙やタブレットにペンで描くグラフィックレコーディングという形式ではなく、デザイナーさんがイラストレーターというソフトを使って、ピクトグラムなどを活用しながら内容をビジュアライズしていきます。
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※関係人口:「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉(総務省サイトより引用)
前回の振り返りと参加者同士での自己紹介などを終え、いよいよゲストの活動紹介がはじまります。
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プロフィール
島田 彩(しまだ・あや)さん エッセイスト/作家
エッセイの執筆を中心に、企画やMCなど。1987年大阪生まれ。関西大学卒業後「HELLOlife」にて教育・就活分野のソーシャルデザインに10年間取り組んだのち、独立。note「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」や「7日後に死ぬカニ」等が、SNSで話題となり、作家活動スタートのきっかけに。現在、自宅の94%を10〜20代に開放しながら暮らしたり、知人宅の空室に自室の一部を移殖してシェア書斎化したりと、いろんな生活を実験中。夢は大好きな阪急電車の座席生地を使ったズボンを作ること。
今井 夕華(いまい・ゆか)さん 編集者/バックヤードウォッチャー
編集者、バックヤードウォッチャー。1993年群馬県生まれ。多摩美術大学在学中から、フリーマガジンの編集や舞台の企画運営、多数の工場見学を経験。2016年-「日本仕事百貨」編集、イベントスペース「リトルトーキョー」の企画運営を担当。2020年フリーランスに。近年は、マニアが集まるイベント「マニアフェスタ」の企画運営や「るるぶkids」「デザインのひきだし」での編集執筆など。店舗や企業の「バックヤード」を見るのが好きで、webメディア「ニューワールド」で「今井夕華のバックヤード探訪」を連載。
一人目のゲストの島田さんは、大学卒業後に就業支援を行う大阪のNPOでクリエイティブや司会、企画などを担い、10年ほどの勤務を経て独立。作家業・ライター業をスタートさせます。実は作家・物書きになったのもたまたまの縁だそうで、前職を辞めた後にいろいろな仕事を短期で体験していた際に、最も重宝されたというのがはじまりとのこと。ほかにも自宅の94%を開放する活動をしていたり、ZOZOの前澤さんの次に読まれているnote記事(全ての記事の中で2番目に読まれているそう!)を書いていたりする彼女。なぜか今回はChatGPTを活用して自己紹介をしていました。
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もう一人のゲストの今井さんは、日本仕事百貨という求人・人材系のメディア運営会社を経て、その後独立。現在は、東京と群馬をベースに取材・編集の仕事をしています。その傍らで「バックヤードウォッチャー」を名乗り、工場や施設の裏側を見学し、記事や媒体にするという活動も行っています。
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特に、いつもはあまり会話をしない工場のおじさんの取材や、普段見れない部分を見ることでグッとくると語る今井さん。一番売り上げのあるクリスマスにとある商業施設のバックヤード(ゴミ捨て場)を見た時にとても感動したそう。
「年間で一番忙しい時期なのに、めちゃくちゃ整頓されていたんですよね。これはすごいなと思いました」
今井さんは裏表をどちらも見ることで、より立体的に対象や物事を捉えようとしているのかもしれません。それは、対象物や人に対しての愛のようなものなのかもしれない、筆者であるぼくはそう思いました。
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書くことは「償い」であり「言い訳」である
司会の白川も交えた3人のセッションは、当然タイトルになっている「孫力」からはじまります。「孫力」は、事前の打ち合わせの際に出ていたキーワードで、今回、たまたま生まれた造語。なんとなく言葉から理解できる部分もあるとは思いますが、人の懐に入る力、相手や対象に関心を持つ力、なんとなく他人から可愛がられてしまう力、そういうものを総称して「孫力」という言葉を当てています。今回のゲストのお二人にとって、まさに!なフレーズのように思います。
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孫力ってなんだ、普段はどうやって取材をしているのかという話から続き、今井さんは「実は、書くことが本当にやりたいことではないんだ」と語ります。
「そもそも、裏側にすごく興味があるんですよね。好奇心が旺盛で。取材の際は『なんでなんで星人』になっていると思います。ほぼ、職務質問みたいなものですよ(笑)。だから普段話さないようなことも含めて、いろんな話を聞かせてもらえるんです。わたしが書いているのは、こんなに聞かせてもらったんだからなにか恩返しというか、借りを返さないといけないという気持ちがあるからで。だから書くことは、償いのようなものなんです」
それを受けて、島田さんも応えます。
「わたしも、書くことより友達になって一緒に遊びたい、という気持ちが強いんです。でも大人なので、なにかお返しは大事だなと。ダンスが得意だったらダンスで返すと思うし、絵が得意だったら絵で。自分の場合はたまたま文章がちょっと書けた、だからそれでお返ししている、という感じですね。書くことは、友達になるきっかけのための言い訳のようなものでもあるかも」
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ローカルメディア、あるいはメディアを考えるにあたって、どう書くか、どう発信するかは避けて通れない道です。しかし、その前にいかなる素材に出会えるか、どんな材料を手にするかも同じくらい重要かもしれません。そして、島田さんと今井さんの対象へのまなざしから感じるに、彼女らはそのものを好きになるところからはじめているように思えます。さらには、その対象としっかりつながろうと試みているように思えます。そんな「取材」の仕方(関わり)から生まれた素材は、ほかにはない輝きがあるものなのかもしれません。
そんな今井さんは、たまに取材で「心を開いてもらえなかった」と感じた時に、オフレコにしていろいろと別の話をしてみるそう。それはきっと取材のためというよりは、その人ときちんと関わりたいというスタンスのあらわれなのだと思います。
愛される前に、愛する?
「お二人はどうやってその愛するスキルというか、対象への関わり方のようなものを学んだんですか?」
司会の白川の質問を受けて、話題はその視点の獲得方法や具体的なマインドセットのありように進んでいきます。二人とも共通点はありながらも、大きく違う部分もあるようです。
「わたしは高校の頃から美術を専攻していたことが影響しているかもしれませんね。ある程度明確な基準みたいなものが自分の中にあったというか。でも、ほかに自分よりも美術的なセンスや能力の高い人をたくさん見てきたので、彼らとは違うやり方を見つけないといけないというか、そういう部分はあったと思います」
と語るのは今井さん。自分の中に美的な基準を持ちながら、他の人とは違う関わり方や役割を見出していった先に、今のような「クリエイティブ」があった。ど真ん中だけで勝負しない、さまざまなものをつなぎ合わせて全体を見せる表現の方法のような。
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「とてもわかる。私も子どもの頃の図工で、そんなに上手くは描けないんだけど、みんなが描かないようなものを描いたりしてて。そのとき、着眼点を褒められて嬉しかった思い出が根底にあるかもしれません。あとは、就業支援の仕事をしていた際に、一日に何十人という人の話を聞いていたんですよね。その中でいろんな人が自分の中にインストールされていった感覚があります。奈良でしている『家を開放する』という暮らし方もそうかもしれません。いろんな他人と関わることで自分の中にたくさんのメガネができる。そうすると『あの人はあれを楽しいと思うかな?』みたいに新しい視点が生まれるんです。脳内に町内会をつくる、とわたしは言っているのですが」
新しい視点を得た自分として、また地域や社会を眺めていく。そうすると、いろんなものに対しての関心や興味があらたに芽吹くのかもしれません。これまでの自分は関心を持っていなかったけれど、あの人と知り合ってから、関わってからは関心を持ってしまうようになった、みたいなことが起こる。それは、好奇心という一言だけでは片付けられません。自分の視点や興味を常に揺さぶりながら、あるいは拡張しながら対象や他者と関わっていく。その中で新しい良さや面白さを常に見出していく。島田さんは、そういうことを繰り返してきたのだと思います。
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愛するか、愛されるか。その方法論はなにか。そういう二者択一的なもの、記述可能なものではなく、自分と向き合い、相手との関わり方と向き合った結果としての二人のありようなのだな、とぼくには思えました。
文章を書くときに、あるいは、メディアやなんらかの媒体で記事を書くときに、どうやって活かすべきその素材を見つけるのか。記述するスキルや表現方法はもちろんだけれど、新鮮な食材があってはじめておいしい料理ができるように、隠された原材料に出会うためにできることとはなんなのか。行ったり来たりしながらそんなテーマについてみんなで考えた2時間だったように思います。
あ、もちろん大喜利風にいろんな記事や企画のアイデアをみなさんにも出していただきました。
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思わず関わってしまうようなものはなんなのか。自分の心がつながりたいと思うものはなんなのか。まずは、そこから考えはじめてもいいのかもしれませんね。
そのほか、今井さんの「文章はまず、音やリズムとして捉えている」という話や、島田さんの「Googleなどで辛口コメントをしているユーザーを辿って、その人が高評価をしているところに行く」など、非常に興味深い話もありましたが、それはまたの機会に。
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「梅田の!ローカルメディア座談会」も残すところあと少し。第3回もぜひたくさんの方にお越しいただきたいと思っておりますので、関心のある方はぜひどうぞ。3月末には別途セミクローズドな意見交換会・企画編集会議も企画しています。こちらは参加いただいた方にご案内していますが、関心のある方は「株式会社ここにある」の会社サイトや各種SNSよりお問い合わせください。
▼申し込みはこちらから!!
https://forms.gle/zju5mczShy8NCNfa6
第3回(最終回)は、3月10日(日)14時から「OSAKA FOOD LAB」にて。ゲストは株式会社Huuuu代表の徳谷柿次郎さんと、合同会社千十一編集室代表の影山裕樹さん。さまざまなローカルメディアを手がけてきたお二人に「わたしのローカルはどこにある?」というテーマでお話を伺います。
▼イベントページ
https://fb.me/e/6CUSrgSz6
筆者プロフィール
藤本 遼(ふじもと・りょう)株式会社ここにある代表取締役/場を編む人
1990年4月生まれ。兵庫県尼崎市出身在住。「すべての人が楽しみながら、わたしとしての人生をまっとうできる社会」を目指し、さまざまなプロジェクトや活動を進める。「いかしあう生態系の編み直し」がキーワード。現在は、多様な主体や個人が関わり合いながら進める地域イベントのプロデュース、共創的な場づくりやローカルデザインに関するコンサルティングやプロジェクトマネジメントなどを行う。最近では行政のみならず、企業と連携しながら進めるプロジェクトも多い。代表的なものに「ミーツ・ザ・福祉」「カリー寺」「おつかいチャレンジ」「グッド!ネイバー!ミーティング!」「武庫之のうえん」などがある。『場づくりという冒険 いかしあうつながりを編み直す』(グリーンズ出版)著。たべっ子どうぶつとカレーが好き。