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【書評】罪と祈り
重い、あまりにも重い作品であった。
本作は貫井徳郎著の推理小説であるが、推理小説というよりは人間ドラマの要素が強く反映されている。
物語は親友である亮輔と堅剛が主人公の現代とその親世代である辰司と智士が主人公のバブル世代の2つの時代で展開していく。
亮輔は父辰司の死に事件性があることを契機に父の過去を調べ始める。
並行して堅剛も刑事として捜査を進めていく。
2人の捜査が進むにつれて、昭和から平成に移る最中に起こった未解決誘拐事件等とも密接に絡まっていることがわかり、物語の深みが一気に増していく。
辰司と智士の時代では、バブル期を迎えていて、辰司、智士の地域では深刻な地上げが起こっていた。
暴力団関係者のソレもあり、死者も出るほどであったが遅々として警察は動かないことから時代への不信感が高まっていた。
その不信感の高まりから辰司、智士らのとある凶行に発展し、読者はことの真相を知ることになる。
こうした時代背景と人間模様が複雑に絡まり合い、一つの真実に辿り着くこの物語は推理小説を超えた群像劇であると思う。
この本を読み終えた皆さんは、彼らはどうすればよかったのか、杓子定規に彼らを裁いて良いのか、考えさせられた作品であった。
まだ読んだことのない方は、当時の時代背景を思いながら読んでほしい。
罪と祈り
貫井徳郎
実業之日本社文庫