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【本の感想】始まりの木 夏川草介

読書の秋ですね。
年末も近づき、忙しい頃ですが、本を読んでゆっくりする時間は大事ですよね。

今月は、神様のカルテでお馴染みの夏川草介作の「始まりの木」を読みましたので、感想を記載します。

この本を一言で言うと、

やさしく釘を刺してくれる本です。


まだ読まれていない方はなんのことだかわからないと思いますので、簡単に内容の説明をしますと、これは民俗学の准教授と学生がフィールドワークを行なっていくストーリーで、通常の小説とは違い、大きな展開はなく、淡々と描写や所感が描かれていきます。

推理小説好きの私にとっては、はじめ、津波のような大展開を期待するところがありましたが、さざなみのような展開でもじわりじわりと胸にくるものがあり、今では何度も読み返しております。

民俗学というと印象としては、なんの役に立つかわからない、就職に使えるか?等の声を聞くことがあり、主人公である古屋准教授も「迷走している」と評する描写があります。

しかし、物語を読み進めていくと、様々な心象的風景や賢人の考え方に触れていくことができ、目には見えない、指標にできないけど、捨ててはいけない大事な価値観があるのだということを、教えてくれます。

個人的な解釈では「道徳」、「もののあはれ」、「心の豊かさ」という表現が近いかなと思います。(よりしっくりくる言葉があると思いますが、現在の私の語彙力では思いつきません。)

利益を上げることや成績等は確かに重要ですが、そういった成果重視で物事を進めてしまうと、なんというか、虚しい、という感覚に辿り着いてしまうことがありますよね。
それを心が痩せ細るという表現で描かれていきます。


私もサラリーマンの端くれなので成果重視のためにより効率的な仕事を提案したりしていますが、あまりに効率を求めすぎると楽しみがなくなり上記のような虚しい感覚になるのがわかります。

そう言ったことを淡々とやさしく教え諭してくれるのが、この「始まりの木」です。

道徳的価値観を全面に押し出して仕事するわけにはいきませんが、一度仕事ぶり、いや私生活においても一度立ち止まって考えてみても良いのかなと思いました。



後は古屋准教授と旅を共にする院生の藤崎とのやりとりが毒がありつつも、お互いの信頼感を感じさせるものがあり、読んでいて小気味が良いです。
私は古屋准教授と藤崎のやりとりをテンポの良い毒のラリーと呼んでいます笑



今は忙しい時でありますが、機会があればお手に取って読んでいただくと良いと思います。
大事な価値観を少し思い起こしてくれるかもしれません。

始まりの木
夏川草介
小学館文庫

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