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『東京トイボクシーズ』の作り方

大抵の漫画は、1話目から描くものだけれど、トイボクシーズは、少し変わった順序で描いた。その経緯をまとめてみる。

はじめはハーレムものの小説だった?

実は、これ、某WEB小説サイトに依頼されて、小説として書き始めたものだったりする。最初に書いたのは、1話目の白郷で行われた会議のシーン。ただ先方の求めていたのは、性別はともかく主人公のまわりに、いろんなタイプの異性がわんさかよってくる、いわゆるハーレムものだったことが後から判明。数回の調整と試行錯誤をしたけれど、やはりそのコンセプトをウチに頼むのは、ラーメン屋に行って、パンはないのか、って言うようなもんですかねー、と白紙撤回となった。

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ただこの会議のシーンをはじめ、いくつかのシーンはたいへん楽しく書けたので、じゃあマンガにしようか、とバンチ編集部に企画を持ち込んだ。これが『東京トイボクシーズ』の原型である。当時はまだ名前がなくて『eスポーツもの』と呼ばれてた。

1話目より先に完成した3話目

最初に出来たネームは、現在の3話目。実は、これが最初は第1話だった。細部の違いはあるけれど、3話目の冒頭に、現1話目の蓮の海外での試合シーン、白郷の会議シーンが入った形だと思ってもらえれば、いい。要するに、真代が主人公だったわけである。ゲーム初心者の真代が、ゲームの才能を持つ蓮に出会って、人生が変わっていく、という構成である。そういう意味では、ちょっとハーレムものだったころの名残があると言えなくもない。

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無事、編集部のOKも出ていざ原稿、という段になった。だけど、なんか引っかかる。ペンが進まない。先にちょっと2話目のネームを描いてみようかな、と手を動かしたところ、まったく動かない。あー。

キャラがまったく動かない

小説家でも漫画家でも、よく「キャラが勝手に動く」という言い方をする人がいる。もちろんそういうこともあるのだけれど、個人的な感覚だと「キャラが勝手に動く」というよりは、「キャラがまったく動かなくなる」という方がはるかに多い。散歩中、犬が座り込んでしまって、押しても引いても動かない、みたいな感じだ。いや、犬は飼ったことないのだけどね。
こういうときは、経験則では、作者の都合に合わせて、キャラクタを動かそうとして、あれこれ無理が来ている状態だと理解している。しかし編集部のOKは出ている。困った。

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何はともあれ、原因をバラして探っていく。シーンごと、セリフごとに自分の感覚を頼りに違和感を探っていく。すると1話目のラストの方、現状のネームでは、カットしてしまった真代と蓮が、初めて直接、会話をするシーンに違和感がある。たしかにほんとうはもう数ページかけて描きたかったシーンだったのだけれど、ページ数の制限もあり(この時点で既に38Pだった)、ちょっと早送り感はあるシーンだった。本当だったら、何が描きたかったんだろう、とページ数の制約を無視して、ネームの続きを描いてみる。

トイボクシーズのモデルは朝ドラ

そこで下校途中の人混みをかき分け、蓮と真代の間に割って出てきたのが、ソヨンだった。「え、誰?」と思ったけれど、物語を描いているとそういうことは、ままある。(実は『大東京トイボックス』のアデナウアーもそうやって生まれた)

そのシーンを描いてみてわかったのは、蓮とソヨンの関係を先に描くべきだということ。じゃあ描いちゃえ。ここ数年、『あまちゃん』はじめいくつかの朝ドラを見たこともあり、地方から上京する展開というのを描いてみたかった。ちょうどそれがハマるかもしれない。

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そうしてできたのが、現在の1、2話目である。編集部に見せたところ「こっちのほうがいいですね! 差しかえましょう!」と言ってもらった。編集部からの唯一のリクエストは「白郷の会議シーンだけ、eスポーツのわかりやすい解説になっているので、これだけ、新1話に持ってきませんか」というもの。たしかにその通りである。こうして現状の1、2、3話目のネームが完成して、連載がスタートした。
一度OK出したものをこちらの思いつきで勝手に変えたにもかかわらず快諾という編集部の懐の広さがありがたい。

仕様を一部変更なんてしたくない! けど!

そして0話である。新年度に合わせた、新連載をしたいという編集部の意向。とはいえ、そんな経緯もあって、微妙に時間を食ってしまった。1話目って特に作画に時間がかかる。じゃあ、なにか短いページ数でプロローグを描きましょう、いっそ仙水さんに出てもらいましょうか、あの人なら、何とかしてくれるでしょ、と謎の信頼感で、仙水の登場となった。ありがとう、仙水。

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まとめると
3話 → 1話 → 2話 → 0話
の順で、この物語は完成した。
新連載のたびにこんなことをしているような気がする。もっとスマートに描きたい! 仕様を一部変更するのは、マンガの中だけにしておきたい! と思うのだけれど、なかなかうまくいかない。
漫画を描くのは、楽しくて難しい。


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