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チョガッポで宝石を表現せよ --- HANJIHEE CLASSICが臨んだある顧客からの要望


世界に名を馳せる企業からも受注する韓国のローカルブランド

韓国・釜山に工房を構えるチョガッポブランドHANJIHEE CLASSIC(ハンジヒクラシック)。外国人観光客で賑わう繁華街から車で20分ほど、比較的落ち着いた静かなエリアに位置するその工房は、決して大規模な事業所ではありません。数人の職人で運営されるこじんまりとした作業場ですが、世界に名を馳せる企業からも制作依頼が来ます。

韓国・釜山 ハンジヒクラシックの工房の一角にて 薄絹でチョガッポ制作に取り掛かる職人さん

ハイエンドなジュエリーブランドからの受注

当店梅と木もれ日は、ハンジヒクラシックの商品を販売する小売店ですので、日頃からその商品デザインには関心を持っているため、ハン・ジヒ代表からは、受注制作したチョガッポのデザインを、参考までにと写真で見せていただくことが、折に触れてあるんです。
 
昨年、私が釜山で代表とお会いした際にも、ある国の企業から注文が入ったというお話を耳にしました。その時点では確かまだ実際に制作に入る前段階にあって、なかなか難しい注文で、というようなことだけさらっと伺ってその話題は終わりました。具体的な内容は明かされないままでしたが、ハイエンドなジュエリーブランドからの依頼ということだったので、その受注案件が結局どうなったのか、私自身、実はずっと気になっていました。

インスタグラムに投稿された完成品がこれだ

そしてこのほど、ハン・ジヒ代表のインスタグラムでその完成品写真が投稿されました。オンラインショップ梅と木もれ日をオープンして以来、ハンジヒクラシックの作品を数多く見てきた私ですが、そのデザイン力と美的センスに改めて魅了されたのでした。

ミッションは、”チョガッポで宝石を表現せよ”

ハンジヒクラシックが受注したのは、ラグジュアリーウォッチ&ジュエリーの世界的なハイブランドとして知られるP社から、チョガッポのテーブルランナーの制作依頼でした。創業150周年の記念にVVIPに贈るギフトにするということだったそうです。P社から送られてきたのは、当該ブランド150周年を記念して発表されたコレクションの中から、デコルテを艶やかに飾る極上のV字型ロングネックレスの写真で、煌びやかに輝く宝石が何とも贅沢にちりばめられたもの。ハン・ジヒ代表が臨んだのは、そのネックレスのデザインをチョガッポで具現化してほしいという、高難度の要望だったそうです。

果たしてその表現方法は?

宝石は鉱物、チョガッポは布です。性質も質感も色相も異なるものを、ハン・ジヒ代表はどのように表現したのでしょうか?

サファイア、オパール、ターコイズ、ゴールド等、いくつかの異なる宝石を用いて作られたネックレスであるだけに、私もその色彩と光沢を表現するため、モボンダン、菊花ミョンジュ、ホンドゥッケミョンジュ、センチョ、スッコサをミックスして作ることにした

ハン・ジヒ代表のインスタグラム投稿より(筆者翻訳)

インスタグラムの投稿によると、P社から提示されたそのネックレスの写真を何度も何度も見て確認しながら、チョガッポの生地をひとつひとつ選んだそうです。
 
ちなみに、代表がミックスしてつくることにしたとして、上の引用で列挙されているのは、すべてシルクの種類です。一口にシルクと言っても、韓国シルクには様々な種類があり、例えばモボンダンというのは、私たちがシルクと聞いて真っ先に思い浮かべるような、サテン織りの光沢のある絹織物です。サテンシルクの中でも絵柄入りのものをモボンダンと称します。また、韓国では平織りのシルクも数多く、サテン織りのような光沢のない絹織物も珍しくありません。上の引用中では、菊花ミョンジュホンドゥッケミョンジュセンチョスッコサがそれにあたります。これらは麻のようなざらっとした質感だったり、向こう側が透けて見えるほどの薄絹だったりします。
特にホンドゥッケミョンジュは、韓国シルクの中でも最高級クラスの絹織物で、独特の風合いと上品な艶があり、ハンジヒクラシックが特にこだわってプロデュースしている生地でもあります。

質感の異なるシルク素材を複数取り入れることで、ネックレスに贅沢にあしらわれた異なるタイプの宝石を表現したんですね。
 
パッチワークのデザインを見ると斜線がふんだんに取り入れられており、当該ネックレスの全体的なデザインや宝石のカットがシンプルながらもよく表現されていますよね。
 
投稿によると、宝石の輝きを表現するために、モボンダンの絵柄を生かしたとのこと。サテン織りの光沢のある生地の絵柄は、光の当たり具合でキラキラと見えたりもします。それを宝石の輝きに見立てたようです。
 
インスタの投稿を見る限り、テーブルランナーの数か所にかなり濃いネイビーがアクセントで入っています。おそらくP社のシグニチャーカラーに近い色を採り入れたのではと推察できるのと、ダークな色彩を配置して陰影を表現することで、宝石のような輝きを引き立たせようとしたのかなと、勝手な想像をしながら、私はその投稿写真にしばし見入ってしまいました。

生地素材と色にこだわるチョガッポブランド

ハン・ジヒ代表はもともとチマチョゴリのデザイナーでした。それだけに、生地に関してはかなりのこだわりを持っていらっしゃいます。ハンジヒクラシックで販売されている生地も良質なものを取り揃えています。そして、ハンジヒクラシックと言えば、やはりセンスの光るモダンな色彩感覚ですよね。シルクや麻の生地を染色する際には、ハンジヒクラシックのブランドが求める色を指定するなど、色調の管理には非常に強いこだわりを持っています。

ジュエリーからインスピレーションを得たチョガッポのテーブルランナーは、そんなハンジヒクラシックのこだわりが凝縮されたまさに珠玉の逸品だと、私はこの代表の投稿を拝見して、その技術と感性に感動を覚えました。

チョガッポは韓国の伝統的なパッチワークです。
しかしながら、ハンジヒクラシックは伝統の枠に留まることなく、想像を超えて感動を生む素晴らしい作品をプロデュースするブランドであることを、私は常日頃からハンジヒクラシックの商品を通じて実感しています。

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