[あれから10年も]| 青ブラ文学部
#青ブラ文学部
#あれから10年も
山根あきらさんの企画に参加させてもらいます
(本文約837字)
母の逝った年になるまでは頑張ろう。
それが私に出来る唯一の親孝行だ。
あれから10年も。
私は母と同い年になった。
もういい頃合いだろう。
小さい子どもや大人、性別も年齢も多種多様な人がたくさんいる。
ここはどこだろう。
「晶、あんた何か老けたねぇ。」
そりゃそうだよ、もう還暦も過ぎたんだから。
でも知らない人に言われるなんて。
それよりなぜ私の名前を知っているのだろうか。
「お母さん?!えっ!ここは天国?」
「そうよ。」
そうか。私は死んだのか。
こんなもんなのか。
10年振りに見る母はやけに若く見えた。
「お母さんさ、クルクルのくせっ毛だったよね?何でそんなサラサラのストレート髪なの?」
感動の再会のはずなのに真っ先にそこが気になった。
「ずっとサラサラの長い髪に憧れてたのよ。それでお願いしたらね、これ、ほら、してもらったのよ。」
サラサラのロングヘアを指にクルクルと巻きつけていじりながらご満悦の様子だ。
「じゃあ私も後藤久美子みたいな顔にしてくださいってお願いしたらしてもらえるかな?」
「あんたね、遺伝子レベルの話はダメよ。そこはすごく議論して決めてるとこなんだからさ。ドラフトで1位指名した子を翌年に戦力外に出来ないでしょ?それくらい重いのよ。」
は、はぁ…
何でもお願いできるわけじゃないことは理解した。
「ここにいる子どもは幼くして亡くなった子なの?」
「そういう子もいるけど、ここへ来た時に望む年齢の姿にしてもらえるの。」
「それなら、お母さんももっと若い姿にしてもらったら良かったんじゃないの?」
「そうだねぇ。でも皆のお母さんでいた時が一番好きだったから。」
──前にも聞いた言葉だ
「あんた、もう帰んなさいよ。そろそろ門が閉まるから。じゃあね。」
──門?門から入った覚えはないんだけど
──帰りたくないよ
──待って
気付くと読みかけの本のページが目の前にあった。
寝てたのか。
ポトリと涙染みのついたページに挟まる一本の長い髪。
私はショートヘア。
栞代わりにパタンと本を閉じた。
(終)