あの時これがあったなら
昔、友達のレイ子(仮)の大失恋の場に居合わせた私。
レイ子は私の知る中ではダントツの美人。
片想いや、実るかどうか分からない恋のモヤモヤや辛さとは無縁のような女。
コロコロとボールのように転がってくる男の中からテキトーに選んでいるようで、ホントにこの人のことが好きなんだろうか?という風に見えた。
簡単に手に入ってしまうと、物でも情報でも男でも有難みに欠けるのかも、と。
そんなレイ子が唯一ベタ惚れした男がいた。
私たちとは別の大学に通うその男は、スポーツ推薦で入学し寮で生活していた。
まだスマホの無い時代。
連絡手段は寮への電話。
寮の電話は4回生のその人が取ることはなく、いつも下級生から取り次いでもらっていた。
たまには向こうから連絡してきてもいいのにと私などは思っていたが、男からの雑な扱いもレイ子には新鮮で、どうしても手離したくない恋だったのだろう。
一応付き合ってはいたのだが、寮に連絡しても不在でなかなか掴まらないことが増えた。
「寮に行ってみるわ。車出すからついてきてくれる?」
ある時、いい加減耐えきれなくなったレイ子が言った。イヤな予感しかしない。
それって居留守使われてんのちゃう?とはさすがに言えなかった。
山奥にある寮までの距離は長かった。
─行きはヨイヨイ帰りはコワイ
行きも既にコワかった。
寮の入口から出てきた下級生らしき男の子に
「◯◯(レイ子の彼)さん居てますか?」
レイ子が慌てるでも焦るでもなく尋ねた。
「◯◯さん、田舎帰りましたよ。」
無になるレイ子。
この下級生から別の人へ、など何か手段はあったのかもしれないけれど、本人が黙っていなくなったことが推して知るべしというやつだ。
何もない山奥に来て数分。
レイ子のハートが粉々にブロークンした。
今思えば、その男は「気軽な女」が良かったのだと思う。重い男を嫌っていたレイ子がまさか「重い女」になる日が来るとは。
人生ってビターでスイート。
二人きりの車内は、泣きながら運転する女(レイ子)とドリカムの「悲しいキス」が流れる地獄のような空間。
もしあの時この曲があったなら。
「カマキリ選ぶわ!」と笑い泣きの車内だったろうな。
今朝のネリケシさんの(急にスミマセン)岡崎体育で思い出しました。
ではまた〜