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[透明の果て]| 青ブラ文学部

#青ブラ文学部
#放伐と禅譲
山根あきらさんの企画に参加させてもらいます

(本文約1,504字)



本村と東原は高校で知り合った。
アルバイトをいくつも掛け持ち、家計を支える東原。
自営業の父親には商才がなく、貧乏暮らしの本村。

──いつか会社を起ち上げよう

お互いの家庭の貧しさが、2人の絆を固くした。
最初に起ち上げたのは、食糧品や雑貨、衣料品など様々な商品を輸入する小さな会社だった。
2人にビジネスの才能があったのか、上手く時流に乗ったのか、会社は吸収合併を繰り返し、どんどん大きくなっていった。

ビジネスは綺麗事だけでは成り立たない。
企業の合併や吸収、人材の引き抜き。
時には汚い手を使うこともあった。
計画を立てるのは主に本村、実際に動くのは東原。
会社の成長とは裏腹に、高校生の頃の透明な理想はいつしか汚濁にまみれ、対等だった関係はいつの間にかぼんやりとした上下関係へと変わっていった。



(株)本東商事

本村と東原は完成したばかりの自社ビルを見上げていた。
本東商事は今や世界のあらゆる物を取り扱う一大商社だ。

「やっとだな。」
本村が感慨深げに呟いた。
「そうだな。」
東原も呟く。

「本村、2人で祝杯でも上げようぜ。」
東原が言った。
「いいな。会社の応接室なんてどうだ?せっかくだし。」
本村の提案で、応接室で2人だけの祝賀会が始まった。

アルコールが程よく回ってきた頃、本村が話し出した。
「東原、近いうちにN社に買収を仕掛けようと考えてる。」
「本村、それは賛成しかねるな。N社の事業は魅力だが、もっと平和的な方法でやらないと。事業提携か対等合併でいいだろ。」

「お前は甘すぎる」
本村の目は冷たく暗い光を放って東原を凝視していた。

──何だ、この眠気と怠さは
東原は本村を睨みつけた。

「本村、貴様。酒か。クソッ!何故だ。」

──お前は色々知り過ぎた。これからの本東商事にお前がいると何かと困るんだよ、東原。じゃあな。

薄れゆく意識の中で本村の声が遠くに響いていた。




東原の目がゆっくりと開いた。
──俺はまだ生きているのか

「東原さん、意識が戻ったようですね。」
本村の懐刀フトコロガタナと言われている山上という男が東原の顔を覗き込んでいた。

「お前、本村の側近じゃないのか。」
「表向きはそうですが、本村を快く思っていない者は大勢います。東原さんに同情する者も。私は本村の不満分子のまとめ役をしています。」

本村を引きずり下ろし、東原をトップに。
山上がリーダーとなり、社内クーデターは水面下で進められていた。

「私は東原さんを始末するように命じられています。」
「俺の死体を確認するだろう、アイツなら。」
「大丈夫です。精巧に作らせた人形を確認させました。素人目にはまず見破ることはできません。買収した医者に死亡診断書も書かせました。」




山上たちのクーデターは成功した。
本村がビジネスのためにやってきた過去の行いは全て暴露され、会社から追放された。

「東原さん、晴れてあなたを本東商事のトップとしてお迎えしたい。」
山上があらためて挨拶にやって来た。

殺されかけたとはいえ、本村を放伐したことが東原には消えないしこりとなっていた。

「山上、本東商事は本村と大きくした会社だ。俺だけ残るわけにはいかない。会社はお前が引き継ぐんだ。」

東原は全権を山上に禅譲し、本東商事を去った。




東原は都会を離れ、山上の手配してくれた、南洋に浮かぶ小さな島にある家で何不自由ない生活をしていた。

「すみません。そこのダンナ。お慈悲を。」

東原は、わずかながらも紙幣を渡そうと物乞いの顔を見た。
随分痩せこけてやつれてはいたが、紛れもなくあの本村だった。

「本村。」
「東原。」

──また2人で何か始めようか

山上が分かってこの家を東原に手配したのかもしれない。
本東商事の未来は明るいな、と東原は思った。


山根さま、これで大丈夫でしょうか😅
長くなってすみません。
よろしくお願いします🙇‍♀️