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時々の再読─「越境者 松田優作」

生きていれば今日で75歳
どんな俳優さんになっていたのだろうか

松田優作は
いつまでも色褪せない不世出の俳優だ

優作ファンの末席を汚す者として
その思いはいつまでも変わることはない

私たちは遊園地の楽しいアトラクションのようにしか松田優作を見ることが出来ないし
俳優という仕事はそういうものだろうと思う

最初の奥さんである著者の松田美智子さんが
関係者や友人など色々な方に
取材やインタビューをして書かれたこの作品には
過剰に褒め称えたり貶めることもなく
愛や憎しみも交えながら
私たちの知り得ない松田優作が描かれている

自分勝手だったり
芝居にのめり込むあまり周りの人を傷つけたり
出自に苦悩したり
子煩悩だったり
ものすごく寂しがり屋だったり



スターダムを駆け上がっていく俳優松田優作を映し出すスクリーン

色々なものを抱えながら生きることに苦悩する人間松田優作を映し出すスクリーン


2つのスクリーンを観ているような感覚で読める一冊だ

晩年、病の悪化と比例するように傾倒した新興宗教のくだりは、こんなに要るのかとも思えたけれど、それも含めて等身大の松田優作を書きたいという著者の気概が感じられる

本の最後に記されている「大都会・闘いの日々」でゲスト出演した「協力者」の回を11年振りに観たという著者の思いがグッと来るものがあったので引用させてもらう

下関の在日コリアンが集住する路地裏から出発し、下積みの時代を経て、スターへの道を歩き出したばかりの優作がそこにいた。彼は輝きを失っていないどころか、燃えさかるマグマを抱え、血がたぎるような憤怒を全身で表現できる俳優として、屹立していた。

松田美智子・著「越境者 松田優作」より


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