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多羽(オオバ)くんへの手紙 ─15─
翌朝、黒板に教室の間取り図のようなものが貼ってあった。
教卓、後ろの物入れ、前と後の扉。
座席には青と赤の数字が隣同士で振ってある。
「おはようさん。みんなー、席着いてー。」
箱を2つ抱えた野口先生が入ってきた。
「この箱の中に番号書いた紙が入ってるからみんな1枚引いてな。こっちの箱は男子。青い数字で書いてるからな。こっちは女子。赤で書いてる。黒板に貼ってる紙に赤と青の数字あるやろ。そこへ移動するように。1限目何や?え?国語か。木本先生やな。先生には言うとくから、速やかに引っ越しするように。」
昨日と同じように皆から「わぁ」の声が挙がる。
私も昨日よりは「わぁ」の気分になっていた。
先に引いた子たちが何番だ、などとワイワイやっている最中、
私は完全に出遅れた。
箱に手を入れると、クジはだいぶと少なくなっていたが
何となくゴソゴソと掻き回して引いた。
赤い字で「14」。津田恒実。
─大人になっても数字で背番号を思い浮かべるのは野球好きのクセかもしれない─
津田の席は教室のほぼ真ん中辺り、前から3列目だった。
この席って先生とよく目が合いそうでイヤやなぁ。
荷物の整理をしていると戸澤が隣にやってきた。
「どうも。」
一応戸澤に挨拶してみる。
「お前か。まぁえっか。」
何が「まぁえっか」なのか分からないが私も戸澤には「まぁえっか」だった。
お鈴はどこだろう。
「ミスミーン」
だいぶ離れた前の方の席から手を振っている。
あそこは赤の2番。
高橋慶彦。私の憧れの選手だ。
「あんな前の方イヤやわ。端っこやからまだマシやけど。」
私の席まで喋りに来たお鈴が、ついでに戸澤と話し出した。
「お鈴、戸澤の隣の方がいいやろ?代ったろか?」
「ミスミン。代らんでいい。戸澤の隣とかどうでもええし。」
お鈴の視線が私を飛び越えた向こうにある。
お鈴の視線の先
私の右側の通路を挟んだ隣に、いつの間にか多羽が座っていた。
こちらをチラリと見た多羽の「ども」という
小さな声が聞こえた。
私は多羽にどんな顔をしただろう。
エヘヘと気持ち悪く引き攣った顔で笑ったのではなかっただろうか。
後ろから背中を眺めるのがあれほど好きだったのが記憶の彼方へ飛んでいったようだ。
やっぱりお隣さんって素晴らしい。
憧れの高橋慶彦様。
今日だけは津田のファンになることを許してください。
ミーハーで現金な少女はフワフワのクッションに座っているように落ち着かなかった。