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自分しか入れない一番奥の部屋とソウルメイト

答えはきっと奥の方
心のずっと奥の方

ザ・ブルーハーツ「情熱の薔薇」

どんなに親しい友人や家族にも、立ち入られたくない領域が心の中にある。誰しもあるだろう。私はかなり強固な鍵をかけている。

自分しか入れない一番奥の部屋。

時々悪気なく入ってくる人がいる。
笑ってやり過ごすが「この人は閉店ガラガラ」と扉を二度と開けない。
逆にごく自然に入ってくる人もいる。
✳✳✳
10年以上前、父が他界した。
父は独り暮らしをしていた。
亡くなる前日電話で話した時、熱があったようで「しんどい」と言っていた。
明日様子を見に行こう、そうするつもりだった。
でも明日はなかった。
後にも先にもこれ以上の後悔はないだろう。
自分が見殺しにしたんだ、と思ったこともあった。
その頃、ネットで募った有志で企画していたイベントのノベルティグッズが丁度出来上がってきたところだった。
イベントに参加するのは無理だ、よそうと思った。身内に不幸があったのに不謹慎すぎる。気力も湧いてこなかった。

「ウメちゃん、いま電話いい?」
イベントを仕切っていた仲間からのメールだった。彼女とはまだ会ったこともなかったので正直驚いた。

「グッズが上がってきてね。不謹慎だと思ったけど、一番にウメちゃんに言いたくて。」

不思議なことに不謹慎とは毛ほども思わなかった。

元気だして─
彼女はそんなことは一言も言わなかった。
泣いていて何を話したか覚えていないが、うんうんとずっと聞いていた。
近しい友人に逆に話しづらいことってあるように思う。
会ったこともないのに、彼女になら何故か何でも話せる気がした。

結局イベントには参加した。
不謹慎に思えたが、どうしても彼女に会いたかった。あなたのしてくれたことでどれ程救われたか伝えたかった。
✳✳✳

知らないうちに彼女は一番奥の部屋に入ってきた。ごく自然に。
これをソウルメイトと呼ぶのではなかろうか。何があっても「閉店ガラガラ」は絶対にしない。
彼女は遠方にいるため、しょっちゅう会ったりは出来ないし、頻繁に連絡するわけでもない。
お互いの「一番奥の部屋」は出入り自由だ。