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[いつか選んだ私]| シロクマ文芸部

#初めての
#シロクマ文芸部
小牧幸助さんの企画に参加させてもらいます
(本文1,212字)



初めての方はコチラ
【転生相談カウンター】


ひどく真っ赤な夕焼けの眩しい
ある秋の日に
私は私の体とオサラバした。

─魔が差す
この表現がピッタリかもしれない。

まるで血の色のような夕焼け。
あれは夕陽の血だ。
私の中にも同じ真っ赤な血が流れているんだ。

─同じじゃないか


気がつくと【転生相談カウンター】に並んでいた。
病院の会計待ちのように大勢の人が座って待っている。

「草野莉加さん、どうぞ。」
私の祖母にそっくりな、品の良い綺麗なおばあさんから名前を呼ばれた。

「草野さん、初めての転生の時だけ何に成りたいか選ぶことができるの。」
おばあさんの声は高齢とは思えないほど、思わずうっとりしてしまうような透き通った声だった。

「ただねぇ、あなた自死だから、本来なら初めてでも選べないのよ。でもね、特例で選んでいいことになったの。」

そう、私は自分の人生を自分で終えたのだ。
次は◯◯でお願いしますなどと言える立場ではなかったが、「特例」という言葉が気になった。

「特例って何ですか?」
「その前にまず言っておくことがあるわ。」



勤め先の経費がなぜか足りなくなっていた。
何度計算しても合わない。足りない。
経理を担当していた私は真っ先に疑われた。

─草野さんが横領したんじゃない
─普段から何考えてるか分からなかったもんな

口に出す者はいなかったが、私が犯人だという空気が蔓延していた。
結局冤罪だったのだが、血の夕焼けの日に
私は仕事も自分も手放した。




「厳しいことを言うようだけれど、自分が消えた後のことを想像できないのが自死なの。でも、あなた冤罪だった。そこが特例なの。」

両親はどうしているだろう。
ただあの場から逃げたかった。
血の夕焼けの中で溺死したかった。
なんて自分勝手だったのだろう。

「仰るとおりです。転生することさえ贅沢なのに。何でも良いなら花になりたいです。サギ草って花。」
「あら、お花?人間じゃなくて良いの?」

「人生はもういいです。花生を生きてみたい。でも花屋さんに並んでいるような花じゃないのがいいです。」
「そう。あなたの名前、草かんむりが2つもあるからピッタリかもしれないわね。分かったわ。サギ草ね。」



土の中でどれくらい過ごしただろう。
久しぶりに明るい光の下へ出た気がした。
小さな鉢に入れられ、店先に並べられた私を誰かが買って育ててくれた。
地上から消えても、小さな球根になった私は、ある時は花を咲かせ、ある時は地中で過ごした。

何度も四季を過ごし、私はどこかの家の庭で暮らすようになっていた。

「おばあちゃん、この白いお花、何てお花?」
小さい女の子の声が聞こえた。
サギ草ってお花よ。白い鷺って鳥さんに形が似てるでしょう?キレイねぇ。おばあちゃんこのお花大好きなの。」

【転生相談カウンター】のおばあさんの声だ。
あの小さい女の子は私なのかな。
やっぱり私のお祖母さんだったのかも。

透き通った声にうっとりしているうちに
私はまた眠ってしまった。

(終)