スウェーデン産クトゥルフ神話TRPG『Kutulu』レビュー
【総評】
「スウェーデン産クトゥルフ」という単語に釣られて買いたいと思った人にはあまりオススメできない。
本当に「クトゥルフ」を知りたいなら、このルールブックを買うお金で、『ラヴクラフト全集』を買いましょう。とりあえず1巻だけでもいいから原作を読め。新訳クトゥルー神話もいいぞ。
『Kutulu』を買ってもクトゥルフについて何も知れないからだ。
お気づきでしょうが、今回のレビューは、Not for me7割、悪口2割、褒め要素1割に偏見100%を加えて書いています。
【書籍情報(奥付):まだ印刷されてないので日本語版クレジットから】
KUTULU 日本語版クレジット
Creative Advisor:Mikael Bergström(ミカエル・バリストレム)
企画:渡辺健(フロッグゲームズ)
翻訳:里村あかり
協力:森瀬繚、テストにご参加いただいた皆様
制作:株式会社エイシス
発売:株式会社viviON
【システムコンセプト】
ルールブックのはじめにで書いている通り、ロールプレイ、謎解き、探索活動を主軸にしたシステムだなという印象。システムは本当に軽く作られている。軽すぎてキャラクターデータが邪魔だなと思ってので、後述で理由を書いていきます。
【世界観】
(多分)1920年代イギリス、第一次世界大戦が終わった直後くらい。
プレイヤーは引用の通り、余裕のあるキャラクターです。浮浪者プレイはできないので少し悲しい……。
これは参考先のシステムが、第二次世界大戦の英国が舞台で上流階級の英国市民が主人公になりオカルトを主軸としたミステリーをお茶会までに解決していくというコンセプトのシステムだからかな?
【キャラクター】
上記の通り、このゲームのキャラクターは英国の上流階級や資産的余裕のある中流階級をプレイでき、そして段々とキャラ制作時のステータスから能力値が落ちていく事を重視してシステムが作られていると思う。(『時間からの影』の主人公とかイメージしやすいね)
【ルール】
ティズムさんの配信動画で説明されていたことが全てなので、そちらを見たらOK。
【狂気&ゲームマスタリング】
このシステムの推し部分である狂気システムの「受容段階&幻覚」はデータ的な管理は無く、あくまで概念として説明がある程度。狂気の描写に段階があり、受容段階と幻覚(に付随する狂気)が交互に描写していきましょうという一種のマスタリング指針が記述されてある程度。
Kutuluのシステム推し部分だから、データ的に何かあれば嬉しかったな~という感想。
同じ様にクトゥルフ神話をコンセプトにしたDnD5版をベースにした『サンディ・ピーターセンの暗黒神話体系クトゥルフの呼び声TRPG』では、このような記述があるらしい。
時代……だなと思いました。
【書籍の最後に】
これが『Kutulu』の全体レビューです。
一応補足資料として、アンゼリカ・ソサエティというグラブの設定資料が付いています。読みたい人は読めばいいかな~くらい。キャラクターの所属する組織として作られているので、ここからキャラクターシートを拝借して遊ぶのもいいかも。
【批判:ルールブックにシナリオ変換を入れるのはどうなの】
まず、『Kutulu』は『Kutulu』のルールブック一冊で遊べない。
これはデータが足りないとか、システムとして不完全とか、そういう理由ではなく
「じゃあ、『クトゥルフ神話TRPG』でよくね?!」
『Kutulu』ルールブックを読んで思ったのが、
・二次創作ガイドラインが明確かつ、かなり自由に使っていい利便性
・既存のクトゥルフ神話TRPGからシナリオをコンバートを提案
・かなーり簡素化したクトゥルフっぽいシステム
これは配信者を狙い撃ちしたTRPGルールブックですわ……。
「じゃあ、『エモクロア』でよくね?!」
『エモクロア』は産みの親の関係上、タイトルに「クトゥルフ」「クトゥルー」って付けられないもんね。配信者的には再生数落ちるね。クトゥルー、クトゥルフ、ク・リトル・リトル、クルウルウ、クスルウー……
エモクロア界隈で「クトゥルフ神話TRPGからシナリオをコンバート」は良いのか悪いのか? で問題になったからね……。
つまり、『Kutulu』とは
タイトルに「クトゥルー」関連の単語を付けれる!
クトゥルフ神話TRPGのシナリオをコンバートして遊べる!
ルールブックを読めない人も遊べるくらい単純なシステム!
という今のTRPGユーザーを狙い撃ちした完璧なTRPGである。なんてことや……素晴らしい商才を感じる……。
他の「ラヴクラフト系のRPG」におんぶに抱っこ状態で、武器データも無ければエネミーデータも無い、シナリオも他のシステムからダニのようにコンバートし、日本ではそれを補うようにファンメイドシナリオを量産しているこの状況に、なにか胸から込み上げてくるものがあるが産まれたての赤ん坊の歩みを馬鹿にするほど愚かなことは無い。歴代のシステムも何かにインスパイアされた(丸パクリ)システムが多いし、明らかにこの用語はあのドラマから拝借した用語や設定も多々見られる。「学ぶ」という言葉は「真似ぶ」と同じ語源であると言われているように、何かを真似してクリエイティブな活動をするのは至極当然の行為だ。だからクリエイターは誰も「真似ぶ」途中の作品に石を投げてはいけないのだ。
(だって元のPDFの希望価格 $1.00だし……コピ本程度の値段設定だと思うと、イベント会場で気まぐれに買ってもいいレベル)
興味があったら買ってあげてください。ちなみに私は『Kutulu』の制作に一切関わってないのです。本当です。
【批判:スウェーデン要素は!?】
スウェーデン産のクトゥルー! と宣伝されていたので、IKEAの家具のような洗練された新入居者の若いカップルが初給与でとりあえず家具を揃えるために揃えたダイニング・キッチンのような要素を期待してルールブックを読んでみたらキャラクターはイギリス上流階級のクラブ通いのキャラクターのみ……。
スウェーデン要素は!? スウェーデン要素は!? 北欧のベネチアと呼ばれたストックホルムからウネウネと職種が伸び、登場人物がほぼ金髪碧眼で高身長なキャラクター達が蹂躙される姿はどこ? どうして持ち味を生かさない!?
参考文献に載っていた書籍は『Fallen Reich』以外読んでいたので、『Fallen Reich』をチェック。
面白そうじゃん! 円安になったら買おう!(2022年9月9日現在 143円)
このルールブックにスウェーデン要素はあるのか? もしかしたら脳まルミアッキをキメて行間を読めるようになったらスウェーデン要素はあるのかもしれない。
【批判:GM負担が大きい】
何度も書いたように、このルールブックにはデータと呼べるものがほぼ無い。つまりGMがプレイヤーキャラクター以外のほぼ全てを準備しなければならない。神話生物のデータも説明もない。武器のデータも説明もない。イギリスの銃刀法の説明も無ければ、イギリスの階級社会や貴族社会の説明も無い。GMのリアル知識技能に世界観設定を依存しすぎている。
やはり『クトゥルフ神話TRPG』や『暗黒神話TRPG トレイル・オブ・クトゥルー』では当時の世情やアメリカの歴史&オカルト史を記載したり、円とドルの為替レート変換やヤード・ポンド法とメートルの変換などが記述されてあり親切心を感じる。
ここまで極限にデータを削っているのならば、いっそのことパッシブ能力値以外の能力値は削ったほうが負担が軽くなるのでは? と思った。俺たちは雰囲気でKutuluをやっている。
【褒め要素】
GMを経験したらこの言葉は痛いほど刺さる。プレイヤーが急に
PL「KP、この屋敷の見取り図もしくは設計図ってありますか? 持ち家なら必ず建築時に持ち主に提示して保管させると思うので、そこから隠し部屋を調べます」
GM「いま金庫を燃やしたわ」
即興で対応する対応力を求められることは多々あります。引用のようにプレイヤーはGMであるあなたに”期待”しているので無理のない範囲で対応するのは素晴らしいことだと思います。
(だからルールブックに遊ぶ世界観の資料を付けて欲しいってのがGMする側の意見なんだけどね)
【まとめ】
Q「動画とか配信でよく見るTRPG遊んでみたい!」
A「『クトゥルフ神話TRPG』を買え」
Q「クトゥルフ神話TRPGで配信したいけど、SPLL面倒くさい……」
A「『エモクロア』を読め」
Q「クトゥルフ神話TRPGで配信したいけど、エモクロアタイトルの関係上だと再生数が……でもやっぱりSPLLにお金は払いたくない……」
A「『Kutulu』をDriveThrurpで買って機械翻訳で読め」
Q「クトゥルフ神話TRPGで配信したいけど、エモクロアタイトルの関係上だと再生数が……でもやっぱりSPLLにお金は払いたくない……英語読めない」
A「『Kutulu』日本語版をDLsiteで買え」
【あとがき】
この文章を読みたいって言ったフォロワーさんが居たので公開しました。著作権については問題ないと思います。その部分で問題があれば記事を非公開にします。