どうする文化祭 〜2組の場合〜 【#2000字のドラマ】
〇F高校・3年2組の教室(夕方)
ガランとした放課後の教室に、文化祭実行委員の畠山いずみと外山花が机を挟んで向かい合い座っている。机にはメモが数枚置いてある。
畠山「あ〜〜もう分からん」
ペンを持ったままだるそうに伸びをする畠山。
花「いやそれな…難しすぎるよね」
畠山「てか俺あと10分で出なきゃなんだけど」
花「えっ」
畠山「バイト」
花「あぁ、そっか」
畠山「はぁ〜だりぃ〜〜!!なんで実行委員なんかなったんだろ、文化祭とか正直どーーーでもいい」
花「…ね」
畠山「てか『オリジナル劇』ってまじで何なん?桃太郎とかじゃだめ〜〜?!」
花「まぁ…でも今のままはマズいって」
畠山「えっ」
花「あ、いや、」
教室のドアが開き、教育実習生の広川美咲が入ってくる。
美咲「お?不思議な組み合わせ…あ、考えてんのか、クラス劇」
花「うちのクラス何やるか全然決まってなくて」
美咲「えっ?!だって文化祭って3週間後…」
畠山「(食い気味)助けてよ美咲ちゃん〜〜!」
美咲「先生のこと呼び捨てしない!」
畠山「だってまだ先生じゃないじゃん」
美咲「いちいちムカつくなぁ」
花「まじでなんかアイデアないですかぁ〜」
美咲「少しでも考えてるのはないの?」
花「一応2人で考えたやつは…」
花、美咲にメモを渡す。
メモを読む美咲。
美咲「(爆笑)……!!」
花「台本作るとか無理だよ…」
美咲「(笑いながら)…斬新、というか、なんというか…『ほうれん草伯爵と湯葉夫人の復讐劇』…アッハハハ!!」
花「美咲ちゃんってこんな笑うんだね…」
美咲「逆にこんな発想どこから出てくるの!」
花「いや〜、正直…(畠山と目配せする)ふざけちゃいましたよね〜…」
畠山「だってさー、劇なんて知らんし…そんなん見たこともねぇしさ〜…」
美咲「そんなこと言ったってしょうがないでしょ…実行委員なんだから決めなきゃ」
畠山「いや〜むずいっしょ〜…(スマホを見る)てかそろそろ行かなきゃ」
花「えっ早くない?」
畠山「うん、ごめん今日バイト前に用あって」
花「えっ…ちょっと!」
畠山「(駆け足で手を振りながら)どうにかするする〜!」
教室を出て行く畠山。
少しの沈黙。校庭から運動部の声が響く。
美咲「イマドキの高校生は忙しいねぇ」
花「そいえば美咲ちゃんうち出身だよね?劇どんなのやったの?」
美咲「あ〜、私の時、無かった」
花「え?でもクラス劇ってF高の伝統行事じゃないの?」
美咲「中止になっちゃったんよ〜…」
花「あ、そっか、先生高校の時ってそん時か」
美咲「ねーほんと、まじ最悪!って思ったけど、その時は私らなんかよりも大変な人沢山いたから文句とか言えなくて」
花「小学校のときみんなマスクだから友達の顔覚えられないまま卒業しちゃった(笑)」
美咲「いや待って、そうか、そうだよね、ジェネレーションギャップ…くうう…」
花「でも中止になって『まじ最悪!』なんだね、」
美咲「まぁ、楽しみにしてたからね」
花「…ふーん」
美咲「外山ちゃんはめんどくさいか」
花「うん…強いて言えば…出るのは興味なくもないけど、話考えんのは無理」
美咲「えっ?!出るの興味あるの?!」
花「いや、でもごめん、恥ずいわ、やっぱやめ!キャラじゃない」
美咲「ふーーん、キャラってほんと、いる?必要?そんなの」
花「いや〜…話すんじゃなかった…」
美咲「台本は畠山に任せてもいいからさ」
花「……それは一番不安(笑)」
美咲「確かに……」
〇同・翌日(朝)
ヒソヒソと話す畠山と花。クリップ止めされた分厚いプリントをパラパラとめくっている。
畠山「これでどうよ」
花「まさか本当にどうにかするとは…」
畠山「もっと信用してくれてもいいんですよ」
花「(めくりながら)あれ?これ……」
〇職員室(夕方)
畠山と花が美咲を尋ねる。
畠山「美咲ちゃん」
分厚いプリント束を美咲の机に置く畠山。
花「文化祭、これ、やろ」
美咲「(プリント束を見て)えっ、なんでこれを…」
畠山「実はーーー」
× × ×
フラッシューー昨日・畠山のバイト先休憩室。畠山とバイト先の先輩・東が話している。
畠山「すんません東さん」
東「んもうしゃーないなぁ…美咲頑張ってる?(カバンの中からプリントの束を取り出して)はい、これかな、台本」
畠山「(台本を受け取り)あざます!」
東「本当にいいの〜?これ持ってんのうちだけだからね?犯人特定できちゃうよ??勝手に渡したってばれたら絶対なんか言われるよ…」
畠山「大丈夫っす大丈夫っす!」
× × ×
美咲「(小声で)東コノヤロー…」
畠山「だいじょばなかった(笑)」
花「美咲ちゃん台本とか書いてたんだね」
美咲「なんで勝手にバラすかなー…」
畠山「いいじゃん!美咲ちゃんの高校時代の話とかめっちゃ聞いてるよ!」
美咲「東…覚えとけよ…」
花「ただ、これ台本途中までで終わってるんだけど…」
美咲「あ〜…書いてる途中で中止になって、文化祭。書くのやめちゃったんだよね確か」
畠山「そういうことか」
花「この続き、書いてよ」
美咲「…いやぁ…えぇー…今更台本書くとか恥ずかしすぎて…」
畠山「確かにちょっとビックリした」
美咲「…でしよ?柄じゃないというか…ねぇ」
花「わたしこの役やりたいんで」
畠山「えっ」
美咲「えっ」
花「先生じゃん、キャラとか気にすんなって言ったの」
畠山「(花に)え、お前出んの?」
花「…出たい」
畠山「ふーん、まぁいいんじゃね」
花「何その上から目線」
畠山「は?褒めてんだけどウッザ!」
美咲「はーっ、アッハハハ!!」
大声で笑う美咲。
畠山と花、驚いて美咲を見る。
美咲「やってやるか」
〇美咲自宅・リビング(夜)
パソコンに向かう美咲。カタカタと台本を書いている。一旦手を止める。
美咲「あ…やばもう2時間経ってる」
部屋には風が吹き込み、カーテンがゆれる。少し悩み、再び手を動かし始める美咲。
美咲「…ま、あとちょっとやるか、」