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うましき台所帖 第7回 「風土が育んだ知恵を今に。五十嵐麻美さんと楽しむ保存食」レポート

うましき台所帖とは?

2022年7月より、秋田市文化創造館の1階キッチンスペースを拠点に開催している料理教室。毎月、講師が代えて開催しています。(2023 年3月までの全9回)ここで学ぶのは料理の手順やコツだけではありません。ともに手を動かし、味わいながら、講師と参加者がともに語り、学び合い、この土地の魅力や生き方をあらためて考える場です。


第7回「風土が育んだ知恵を今に。五十嵐麻美さんと楽しむ保存食」
■講師:五十嵐麻美さん(秋田市)
■ 日時:2023年1月9日(月・祝)
■ 場所:秋田市文化創造館 1階 コミュニティスペース


寒さで山々や畑、心も閉ざされがちな土地で、それでも豊かに生きていくために編み出された“保存食”の知恵。 講師の五十嵐麻美さんは、秋田市の「マザー食堂 savu.(ヴー)」で、野菜や調味料、焼き菓子などを販売しながら、この秋からは調味料や保存食の手作りキット「ひとしお」の販売を始めるなど、食材と向き合い、食べる人に伝えることを続けています。
スーパーに行けば何でも買える時代ですが、五十嵐さんと一緒に、今の暮らしに生きる保存食のあり方を考え、暮らしに取り入れてみませんか?


保存食を、作る・使う

前半は、五十嵐さんに教わりながら、
「切り干し大根のピクルス」「きのこのオイル漬け」を作ります。
「保存食」と聞くとハードルが高い印象ですが、ここでは身近な食材で、少量ずつ作っていきます。

(手前)きのこのオイル漬け(奥)切り干し大根のピクルス

作り終えてからは、五十嵐さんお手製の「梅干しと大根のスープ」を試食。

梅干しと大根のスープ

実践を通して、保存食を「作ること」「使うこと」が想像以上に簡単にできることに、みなさん驚きの様子です。


トークの時間

【食を人まかせにはできない】

私は宮城県角田市の出身で、進学で福島、就職で東京へ行き、転職先の仙台で結婚。長女が生まれる直前に夫の転勤で秋田に来ました。

実家では、梅干しや味噌を作ったり、母が家庭菜園をやったりしていたので、元々、食には馴染みがありましたが、自分で作ることはしていなくて、食べる専門。
食とは全く関係ない仕事をしていましたし、長女が生まれてからも仕事の関係で盛岡と秋田を行ったり来たりする生活だったので、ご飯の時間がとにかくない。なので、スーパーのお惣菜で済ませたり、外食することも多かったです。

この日は、五十嵐さんお手製の保存食も試食。(上)大根の皮のかつお節の醤油漬け(下)いぶりがっこのオイル漬け(左)五十嵐さんのお婆さんによる18年前の梅干し!

その後、第二子出産のために里帰りした際、東日本大震災に遭いました。
実家は半壊してしまって、妹の家に居候させてもらいながらなんとか出産して秋田に戻ってきたんですが、震災を機に、今、手元にある野菜がどういうものなのかとか、土地と作物の繋がりを考えるほどに、「食を人まかせにはできない」って考えるようになって……。そこで、オーガニック弁当屋として「マザー食堂」をオープンしました。
 
とっても急で、無謀ですよね(笑)。当時は、このまま会社員をしていても何も変わらないと思ったし、自分のペースで働きたい、食のことをやりたいとも思っていて。夫が転勤する可能性もあったので、店舗を構えずにできる宅配弁当屋として始めたんですが、注文が多くなってくると継続が難しくなっていきました。

でも、お弁当屋を通して関わった農家さんの作られているものが本当に素晴らしくて、「農家さんとお客さんを仲介する役割を担いたい」と思うようになったんです。そこで、2015年からは店舗を構え、今のマザー食堂の形に変化していきます。店頭では、今も焼き菓子などを入り口にしながら、調味料、野菜など厳選したものを並べていて、店を通して、作られた方や場所の背景も伝える場になるよう、営業しています。

【ひとしお】

去年から、マザー食堂とは別のプロジェクトとして始めたのが「ひとしお」です。これは、今日作っていただいたような保存食や調味料の、手作りキットで、例えば「ジンジャーシロップ」だったら、生姜、砂糖、スパイス、レモンとレシピが一箱に収まったものをお送りして、ご自身で作ってもらう、というものです。

 https://shop.hito-shio.com/

農産物って、旬があって、ある時期にたくさん採れますよね。それをいかに長く食べるか、いかにいろんな食べ方をしようかと思った先人たちが、工夫して加工して、保存食にしてきたんだと思うんです。
それに、農家さんたちは、たくさんできた野菜を全てを売り切ることができなかったりする。それをこのキットを通して各家庭に託して、調理、保存してもらうことが、農産物の流通の仕方の一つになるなんじゃないかと思ったんです。

【保存食は未来への贈り物】

昔はどこの家でも1年分の味噌を家族みんなで作ったりしていましたよね。でも、それを今やろうとするには、大きな樽が必要になるし、材料にもお金がかかってハードルが高くなってしまうんですが、思いついたときに「今回は2kgだけ作ろう」とか、気軽にできるものなら、今の暮らしにも取り入れやすいですよね。

手を動かす人がいなくなってしまうとそこで文化が止まってしまうという危機感もありますが、多少作り方が変わっても、みなさんのやれる方法で続いていけばそれでいいんじゃないかな、と思うんです。
「ひとしお」は、個々にご自宅で作るものですが、例えばインスタ上でみなさんが作ったものが上がってきて、「あの人のはこんなふうになってる」とか「これでいいんだ」というふうに楽しんでいけたらいいですよね。

 以前、あるライターさんが「保存食は未来への贈り物だ」とおっしゃっていて。かつての保存食は、食材を長持ちさせるためのものだったかもしれないけれど、今の暮らしの中では、忙しくて、ご飯を作るのも嫌だなっていうときに、台所におかずの瓶があったりすると、それに助けられて「あの時の私、ありがとう!」って思えたりする。
意味合いが変わっても、保存食というのは、その時代その時代の暮らし生き抜くための、まさに贈り物なんだと思います。


参加者の声

●保存食があれば未来の自分の助けになる、ということに納得。保存食って、ハードルが高いイメージでしたが、こんなに簡単でいいんだ!と思えました。
 
●今日教わったことを、今から生活に取り入れていけば、子どもたちが大きくなってから、思い出してもらえるんじゃないかなと思いました。
 
●久々に癒しの時間を過ごすことができました。
 
●ズボラな私にとっては、家族に作るごはんは修行のようなものですらあるんですが(笑)、今日、みんなで作った時間がとても楽しかったです。
 
●母からたくさん送られてくる梅干しを、どうしたらいいかなあ……と毎年思っていましたが、大根のスープがとっても美味しくて、こういう食べ方があるのは発見でした。
 
●「いつか使おう」と思って家にため込んでいる瓶の活躍の場がこれでできるな、と思いました!
 
●未来のこと、環境のことを考えると、近くで採れたものを意識的に取るようにしてきましたが、とれたものを最後まで美味しく食べるためにも、保存というのはいい方法だと思いました。

うましき 台所帖の詳細・今後の開催については、こちらでご確認ください!
https://www.facebook.com/umashiki.kitchen


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