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ひとり出版社1年目日記⑧束見本をめくり、本の紙を思う

今年3月にできた出版社 Studio K。年内に1冊、木下晃希さんの画集「KOKI ZOO」を出版することを目指し、着々と準備中です。その記録を残す「1年目日記」、今日は本に使う紙のことを。



紙は何を使う? デザイナーさんと印刷会社さんに相談


紙の本が好きな人は、紙そのものも好きではないでしょうか。見た目とか、手触りとか、めくった時の音とか、紙って、何かとじわじわくるものですよね。

私自身もかなりの紙好きを自負しています。写真や製本をやっているので、この目的にはこれ、と決めている紙もあります。

でも、出版社として作る本に、どの紙を使うかについては、正直なところ、ほとんどわかっていませんでした。

希望としては、ある程度の厚みがあって、裏うつりがなくて、発色がいい紙。でも、目に眩しいほど白くないほうがいい。

印刷をお願いしている藤原印刷さんにうかがって、紙と印刷サンプルを見せてもらい、値段も聞きながら、デザイナーさんと一緒に考えてもらいました。

選んだのは、ラフで優しい風合いの「モンテルキア」という紙です。

いい紙が見つかってよかった、よかった。

その時は、それ以上、何も考えませんでした。


『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』


本の紙については、その程度の認識でしたが、ある日、まさにその目をさまさせてくれる本に出会います。

佐々涼子さんの『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』です。

きっかけは、フォローしているnoterさん、Y2K☮さんの記事でした(素敵な本のご紹介ありがとうございます!)

じつは、佐々涼子さんのことは、お名前しか知りませんでした。でも、この記事で著者とこの本のことを知り、気持ちがにわかにザワザワしました。

これは読まなければ……!

この本には、サブタイトルにもあるとおり、東日本大震災で被災した日本製紙石巻工場が再生するまでの過程が、その様子が目の前に立ちあらわれるように描かれています。

レビューについては、Y2K☮さんのご投稿をお読みいただいた方がいいと思うのですが、私も長く本を読んでいながら、読んでいる本の紙がどこでつくられているか、どのような人たちが、どのような思いでつくっているのかということに考えをめぐらせたことはありませんでした。

それが、この本で、「彼らが本の紙を造っている」ことを知り、震災後の、文字通りの「奮闘」に対してはもちろんのこと、それまでも綿々と受け継がれてきた紙つくりへの思いに、ただただ頭が下がりました。


モンテルキアの誕生の地


読み終わってから、もちろんのこと、気になりました。

出版社を立ち上げてからの第1作、その本に使うつもりの紙「モンテルキア」は、どこで生まれたのだろう?

調べてみると、なんと……!

「モンテシオン」、「モンテルキア」は日本製紙(株)石巻工場の東日本大震災復興支援商品として、発売以来順調に推移してまいりました。

東京洋紙協同組合ウェブサイト

東日本大震災は、私が写真家として長く関わっているテーマでもあります。それもあいまって、石巻工場にルーツを持つ紙を使うことになるとは、なんだか、めぐりあわせのようにも思われてきます。


束見本が届いた!


製本をお願いしている美篶堂さんから、束見本(つかみほん)が届きました。束見本というのは、実際に使う紙、製本手法(機械製本の場合は機械)で作られた、中身のない白い本のことです。ノートみたいな感じです。厚みや重さ、仕上がりのイメージをつかむために作られます。

手で背中を貼り合わせた本。180度開いて、見開きが切れない、ドイツ装というつくりです。縦175mm x 横126mm、手におさまりがいい、かわいいサイズ、

……(小声)などと、うんちくを言っていますが、出版社として第1冊目、束見本というものがあることは知っていましたが、手にするのは初めてです。

……(さらに小声)ついでに、もうひとつ、去年、製本の勉強をして初めて知ったことを書いておくと、「束」というのは、本の「厚み」のことです。

届いたばかりの束見本をめくると、何も書かれていない状態だからこそ、紙そのものの存在が直接的に感じられます。

ふっくらさらさらの紙を一枚一枚めくりながら、言葉にならない、いろいろな思いが胸にこみあげます。

いい本を作ります。

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