【芸術祭参加記】「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川2022」をふりかえって
こんにちは。UMA(ゆま)です。3回目の投稿です。note を始めてから、いろいろな方の記事を読んでいると、目的意識がはっきりしていてすごいなあ、と思ってしまいます。ふわふわっと書ける人は、またそれはそれですごいなあ、と。そんな中で身の置きどころがない感じですが、でもまた1回、書くだけ書こうと思います。
今日は今年3月に参加した芸術祭「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川2022」(2022年2月25日(金)〜3月21日(月)、静岡県川根本町・島田市にて開催)のお話をさせてください。
この芸術祭は2018年から毎年、大井川鐵道の無人駅や沿線集落で開催されています。大井川鐵道は鉄道ファンにはSLや古い電気機関車が走ることで人気です。
「UNMANNED 無人駅の芸術祭/大井川」の名称は、大井川鐵道の20駅のうち16 駅が無人であることに由来しています。過疎化が進む地域に、アーティストが作品で息吹を吹き込み、埋もれつつある地域の魅力を再発見することが、この芸術祭の目指すところです。
歴史も浅く、それほど大規模でもない芸術祭ながら(主催者の方、読んでいらしたらすみません)これまでの取り組みは高く評価されており、昨年は「日本ふるさとイベント大賞ふるさとキラリ賞」(一般財団法人 地域活性化センター)を受賞しています。
今年度は、ウェブ版美術手帖にも「2022年度注目の国際芸術祭ベスト6」のひとつに取り上げられました。(私は単純に、あの「瀬戸内国際芸術祭」に並ぶなんてすごいー!と思ってしまいましたの)
今回は15人/組のアーティストが参加。私は、小林由佳さん(着ぐるみアイドルユニット「しでかすおともだち」主宰)、安部泰輔さん(布を使ったオブジェを製作する現代美術作家)と一緒に、今回のために結成されたアートユニット「しでかすなかまたち」のメンバーとして参加しました。
作品名は「くもうきはし」。設置エリアである抜里(ぬくり)を見守る八幡神社の神様のきぐるみ「タカカミサマ」を制作、タカカミサマが里に降りてきて、地域の人たちと楽しい一日を過ごしたことを想定して、写真に残しました。
ちなみに抜里は、大井川鐵道では金谷駅から30分くらいの場所。一面に茶畑が広がる美しい集落で、今年度、「ふじのくに美しく品格ある邑の令和3年度知事顕彰」を受賞しています。茶畑の先にレトロな電車が走るのは、まさに時を忘れる風情。
この集落の中にB0(1m x 1.5 m) に伸ばしたモノクロ写真12点を展示しました。写真を見ながら地域を散策、最後は「さとはちのブリキ屋」と呼ばれる金物屋跡でタカカミサマを感じていただこうという企画です。八幡神社にはタカカミサマの写真をプリントした大きな幟もあげました。
ここからは、散歩気分で展示風景をご覧ください。山以外の緑は全てお茶であることにもご注目を。
この芸術祭の大きな特徴の一つは、地域の方の力が非常に大きいこと。参加するアーティストは間違いなく全員、地域の方に助けていただいています。それも、ほんとうにさまざまな形で。
私たちも大変お世話になりました。着ぐるみに使う古着を提供していただいたり、写真の被写体になっていただいたり、写真を掲出する場所を提供していただいたり。設営に際しても、「妖精」と呼ばれるおじさまたち(読んでいらしたらすみません)が軽トラを連ねてどこからともなく現れて、トンテンカンテンやってくださるというありがたさ。本当に妖精。
「こんなことまでやってもらっては……」と遠慮しながらも、力を貸していただかなければならない場面が想像以上に多く発生して「すみません」を連発する私に「なんもー」みたいな感じの静岡弁で返してくださる皆さん。
元々、他人を頼るのが下手で、しかも東京で何かと遠慮癖がついている私にとっては「どうしてここまでやってくれるんだろう」と信じられない気持ちの方が大きかったです。
皆さんにお話を聞くと、回を重ねるたびに、地域の方もだんだん慣れてきて、楽しめるようになってきているとのこと。自然に支援の輪が広がっているのですね。もはや生き方がアートな人たち。(もちろん、作家がそれに甘えたり、依存したりしてはいけないのは当然のこととして←猛反省中)
その背景には、主催者サイドに、どこまでも地域との結びつきを大事にする姿勢、地域に対する愛が貫かれていることが大きいでしょう。主催者はこの地域出身で、地域を知り尽くしている方。「妖精」をまとめてくださっているのは、そのご家族。そのはじまりこそが永遠の核。
その周囲に、地域、作家、来訪者が、有機的に結びついて、優しくふんわり立ち上っている。作品はその結節点。それが私が感じた、この芸術祭の尊さです。
そんな雰囲気に包まれて、私も次第に地域の方と親しくなり、いろいろなお話をうかがうことができました。家に鍵がかかっていなくて、ピンポンを鳴らすのではなく、ガラガラと扉を開けて「こんにちはー」と呼びかけるのも、だんだん自然にできるようになりました。
ここは誰もが知り合いで、そのうちの何割かは親戚という濃密な関わりの中で暮らしが成り立っています。その中で、気を遣ったり、おせっかいをしたりしながら、地域の暮らしを維持している。それが普通。
もちろん、ほんの短期間滞在しただけで、何がわかるものでもありませんが、日ごろ、隣に住む人の顔も名前も知らない生活をしている身からすると、人間味というのはこういうことかなと思わずにはいられませんでした。
どこまでものどかに広がる茶畑に囲まれて、ゆったりと流れる時間の中で優しい人たちに出会い、幸せな生き方、豊かな心、そんなことを振り返ることができた芸術祭でした。ここで醸し出される空気感から、来訪者の皆さんも似たようなことを感じてくださったのではないかと思います。私たちの展示も、その一端を担えていればうれしいです。
参加者の立場からも素敵な芸術祭でした。できればこれからも、地域に密着して、あまり観光イベント化せずに、小さくてもきらりと光る珠玉の芸術祭であってほしいなと思います。
来年も開催されるので、アートイベントに興味のある方はぜひ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。ちょっとでも何か引っかかるところがあれば、うれしいです。