【日記】パラグライダー
誰が言い出したのか今となっては忘れてしまったけれど、短大時代の友人グループの全員が既婚者になったのを記念して、久しぶりに5人で集まって「これまでの人生で、やったことのないことをやってみよう」という話になった。
そして、どういうわけか、全員でパラグライダーをすることになった。
各々にひとりずつインストラクターがついていてくれて、ヘリから飛び降りてパラグライダーを使って飛行する。インストラクターがいるので安心である。
集合場所は、学生時代を過ごした京都にした。
グループの中でいちばん新婚の友人は、わざわざ白いドレスを着て京都まで来て「結婚記念じゃけん、張り切ってきたわ」と言って、一番にヘリに乗り込み、いとも簡単に宙を舞った。他の友人たちもそれに続いてどんどんとヘリを飛び出していった。私はヘリの中に一人取り残されて、浮遊する友人たちの4つのパラグライダーを見ていた。足がすくむ。誰だ。パラグライダー体験をしようと言ったのは。そしてなぜ、その時、私は強く反対しなかったのだろう。私、高所恐怖症っていう話、学生の時にしなかったっけ。歩道橋も怖いって言ったよね?たまに風で煽られてガンガン揺れたりする歩道橋。あれですら怖いのに、パラグライダーなんて絶対無理じゃん!無理!
友人たちが地上から手を振っている。私の後ろに控えているインストラクターに「どうしても難しいならやめておきますか?」と気遣われる。ヘリからのプロペラの風がすごくて聞き取るのもやっと。機体が揺れている。あとは私が勇気を出してヘリを飛び出せばインストラクターがなんとかしてくれるはず。でも、怖い。「…どうしよう、でも、皆が待ってる…」と言いかけた瞬間、足を滑らせて機体から押し出されてインストラクターとともに宙を舞った。そこに自分の意志はなかった。目の前がまっくらになった。気づいたときには私は地上にいて、役目を終えた虹色のパラグライダーが、萎んでそばに佇んでいた。ぐったりしている私の周りには4人の友人がいて「もも!やった!出来たじゃん!おつかれさま!」と駆け寄ってきて私のことをねぎらってくれた。「え?私ちゃんと飛べてた?」と聞くと「ばっちりだったよ」と皆が笑ってくれた。インストラクターと目が合うと、うんうん、と頷いてくれた。そこでやっと私は、自分がパラグライダーを使って宙を飛べたことを知った。力なく赤いヘルメットを脱ぐと、髪が激しく乱れていた。
怖かったけど、私にも出来たのか…よかった…と思ったけれど、やっぱり目を覚ましたとき、少しだけ疲れていた。
多分、今の私は、なんかちょっとだけ調子が悪いのだ。だから、友人たちが夢に出てきてくれて、こうやって励ましてくれている。友人たちは結婚して、皆、新幹線を使わないと会えない距離にいる。各々の場所で踏ん張って生活をしているはずである。皆で集まってパラグライダーを飛んだりなんて、本当はしていない。
正直なことを書こう。ちょっと自分の中で考えることが多くて疲れている。自分のことを認められずにいる。人より出来ないことがある。年々それが色濃くなってきて自分を苦しめている。何も考えたくないし、いま動くべきではなかったのかもしれない。友人に会いたい。会いたいけれど、いまの自分は元気な姿を見せれないだろうと思う。誰にも言えない秘密がある。仕事もうまくいってない。
最近、どうやったらパラグライダーをうまく飛べるのだろうと考える。最初は誰だって怖いのだろうか。生きていくのは、たまに、とても怖くなる。
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