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<UMA遺産 第16回>これほどまでに姿形を変え、現代に息づく妖怪/UMAの変遷を追う!「ぬらりひょん」~日本全国各地

UMA(未確認生物)出現が噂されるミステリアスなエリアを、UMAゆかりの聖地として、「UMA CREW PROJECT」が独断と偏見で選定、紹介する「シリーズUMA遺産」。第16回目は・・・・。

「ぬらりひょん」

「ぬらりひょん」~ 一度聞いたら忘れられない語感であるせいか、その正体は知らなくとも、どこかで聞いたことのある名前だろう。一説によると妖怪の総大将とも言われているようでもあり、妖怪も広義のUMAと捉え、未確認な存在でありながら、これほどまでに日本各地に伝承され、しかも現代では、漫画から映画、テレビ番組などに至るまで、色々な「ぬらりひょん」が登場していることから、今回は様々な「ぬらりひょん」の姿や形を整理してみる回としたい。

「ぬらりひょん」というと、江戸時代の妖怪を思い出す人もいれば、テレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する、鬼太郎のライバルだった敵妖怪の存在を想起する人もいたり、最近では大ヒットゲーム「妖怪ウォッチ」の映画版に登場するイケメンなキャラクターや、大人気漫画「GANTZ」に登場するボスキャラクターなど、これほどに一言で何種類ものビジュアルを思い起こさせる存在も少ないだろう。

そんな古来伝承の妖怪から、漫画や映画の登場人物やキャラクターまで、様々な存在になり切っている「ぬらりひょん」を整理してみよう。

佐脇嵩之『百怪図巻』より「ぬらりひょん」 1737年
※Wikipediaより

室町時代に描かれた「瓢鮎図(ひょうねんず)」がルーツ?

「ぬらりひょん」は、瓢箪鯰ひょうたんなまずに例えられることが多かったようだ。瓢箪鯰ひょうたんなまずとは、「瓢箪ひょうたんなまずを押さえる。」ことから捉えどころのない、要領を得ない様子、また、そのような人や化物を指すという。

瓢箪鯰ひょうたんなまずは、室町時代の禅問答に端を発するという。禅に関心が深かった第4代将軍足利義持が「丸く、すべすべした瓢箪ひょうたんで、ねばねばした鯰《なまず》を押さえることはできるか。」という何とも捉えようのない禅問答に、謎めいた禅画でその答を描いた絵師の如拙じょせつによる「瓢鮎図ひょうねんず」は、禅画の傑作とされ、国宝にもなっている。

この禅問答の中に「ぬらりひょん」という名称は出てこないが、そのルーツは室町時代の禅問答にあるのかもしれない。

如拙筆「瓢鮎図」 国宝、京都・退蔵院蔵
※Wikipediaより

「ぬらりひょん」の名称が見られるのは、江戸時代に入ってからとなる。1737年、江戸時代中期の画家、佐脇嵩之さわき すうしによる『百怪図巻』、1832年、絵師、尾田淑太郎(尾田郷澄)による『百鬼夜行絵巻』など多くの絵巻物に、その姿が描かれている。見た目は、特徴的な形のハゲ頭をした老人の姿が描かれている。着物か袈裟を着ており、人間に近い形での妖怪を意図して描かれていたのか、その意図については不明とされている。

また、「ぬらりひょん」を名称ではなく、形容詞として使用された例もある。江戸時代に出版された浮世草子では、「その形“ぬらりひょん”として、たとえばなまずに目口もないようなもの、あれこそ嘘の精なれ。」という表現もされており、“のっぺらぼうのような”を意味する形容詞としても使われていたようだ。

それから、1776年、江戸時代中期の画家、浮世絵師で、妖怪画を多く描いた鳥山石燕とりやま せきえんにより敢行された『画図百鬼夜行がずひゃっきやこう』では、駕籠から下りる「ぬらりひょん」の姿が描かれている。

鳥山石燕『画図百鬼夜行』より
「ぬうりひょん(ぬらりひょん)」
※Wikipediaより

全国各地での伝承説

江戸時代の妖怪画等で、全国的に知られる存在になったのか、「ぬらりひょん」に関する記述や伝承が各地で見られるようになった。主なものを見てみよう。

◆岡山県
岡山県の伝承によると、「ぬらりひょん」は海坊主に似たものとされ、瀬戸内海に浮かぶ、人の頭ほどの大きさの球状の妖怪で、捕まえようとすると「ぬらり」と手をすり抜け、「ひょん」と浮いてくることを繰り返すことから、この名をつけられたとされている。実際には、クラゲやタコを妖怪に見立てたものではないかと考えられており、妖怪画に描かれた老人の姿をした「ぬらりひょん」とは別物であるとも指摘されている。

◆秋田県
江戸時代の旅行随筆家、菅江真澄による1814年に刊行された「菅江真澄遊覧記」の中の『雪の出羽路』の章に「ぬらりひょん」が登場する。

此さへの神坂を雲深くあるは小雨そぼる夕ぐれなんど通れば、男は女に逢ひ女は男に往き会う事あり、又“ぬらりひょん”、おとろし、野槌なんど百鬼夜行することありと、化物坂といふ人あり

『雪の出羽路』より

という記述が見られる。同書で「さへの神坂」(さえのかみざか、道祖ノ神坂)とは、現在の秋田県湯沢市稲庭町を指す。

◆和歌山県
和歌山県にも、「ぬらりひょん」が現われたとされる物語もある。これは、小説家で詩人である、山田野理夫の著書『おばけ文庫2 ぬらりひょん』に収録の「ぬらりひょん」という話が原話であり、創作であろうとされている。

『おばけ文庫2 ぬらりひょん』
作/山田野理夫 絵/石橋三宣 1976年初版 太平出版社

現代にさまざまな姿・形で登場する「ぬらりひょん」


さて、その特異な姿・形で江戸時代からの妖怪画や全国での言い伝えもあり、現代でもよく耳にする「ぬらりひょん」の存在だが、昭和・平成に入っての妖怪関連の書籍や子供向けの妖怪図鑑では、家の者が忙しくしている夕方時などに、どこからともなく家に入り、茶を飲み煙草を吸い、自分の家のようにふるまい、家の者が目撃しても「この人は、この家の主だ」と思ってしまうため、追い出すことはできない、またはその存在に気づかないとされている。また「妖怪の総大将」であると形容されることも多い。

そして、「ぬらりひょん」を最もメジャーにしてくれたのは何と言っても「ゲゲゲの鬼太郎」を始めとした、数々の漫画や映画、テレビ番組だろう。「ぬらりひょん」が様々な姿・形で登場する作品群の一部を見てみよう。

◆『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する「ぬらりひょん」
ご存じ、水木しげるによる漫画「ゲゲゲの鬼太郎」のテレビアニメ版第3作(1985年放送開始)に、主人公の鬼太郎を宿敵とみなす敵役として「ぬらりひょん」が登場。作品の中で「妖怪の総大将」と、自ら名乗ったことなどが「総大将」としてのイメージを植えつけていったとされている。

「ゲゲゲの鬼太郎」にも描かれた
「ぬらりひょん」の境港市水木しげるロードに
設置されたブロンズ像 ※Wikipediaより

◆ゲームタイトル・映画・テレビアニメ『妖怪ウォッチ』にに登場する「ぬらりひょん」
人気ゲームタイトル『妖怪ウォッチ』の、映画版となる「妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!」、および「妖怪ウォッチバスターズ月兎組」に登場する、妖怪にしてラスボスの役割を担うキャラクター。
長身で白い長髪、黒い和服を着たイケメン男性という設定。妖怪ウォッチの妖怪キャラクターの中でも、正統かつ異様なビジュアルとなっている。その容姿のためか某片翼の天使を連想する人も多いが、後に本人と共演する事となる。また、「結界杖けっかいじょう」と呼ばれる髑髏どくろをあしらった杖を持っており、これによって結界を発生させる。
役職は、エンマ大王の側近兼妖怪評議会議長。部下として犬まろ・猫きよという2匹の妖怪がいる。また先代閻魔大王の側近でもあった。

©LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト

◆漫画・アニメ『ぬらりひょんの孫』に登場する「ぬらりひょん」
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奴良組《ぬらぐみ》初代総大将。主人公、リクオの祖父で、妖怪の主。二代目となった息子・鯉伴が早逝した為、隠居の身でありながら総大将代理を務めていた。
飄々とした好々爺だが、昔は悪行の限りを尽くし「闇世界の主」と言われていた。現在はその妖術を無銭飲食などの、せこい手段に使ったりしている。

「ぬらりひょんの孫」に登場する「ぬらりひょん」
©椎橋寛/集英社・奴良魔京


◆漫画・アニメ『地獄先生ぬ~べ~』に登場する「ぬらりひょん」
『地獄先生ぬ~べ~』は、原作・真倉翔まくらしょう、絵・岡野剛おかのたけしによる漫画が原作。アニメは1996年に放送、2014年にはテレビドラマ化もされている。主人公、鵺野鳴介ぬえのめいすけは、「ぬ~べ~」の愛称で、生徒たちからの人気も高い小学校教師。彼はなぜかいつも、左手だけ手袋をしていた。その左手は鬼の力を封じた「鬼の手」となっており、彼には霊能力者としての一面があった。彼は教え子たちを守りながらも、彼らと共に悪霊たちと戦っていく。
本作に登場する「ぬらりひょん」は、神棚のある家を転々と渡り歩く客人神まろうどがみ。自身を主人と思い込ませる力を使って、好き勝手にものを買っていた。
「ぬらりひょん」らしい力を持っていましたが、妖怪ではなく神という点が他説とは異なる。

『地獄先生ぬ~べ~』に登場するぬらりひょん
※正体は客人神まろうどがみ Ⓒ1993 真倉翔/岡野剛/集英社


◆漫画『GANTZ』に登場する「ぬらりひょん」
GANTZ大阪のミッションで登場した星人。同じミッションの下、誕生した妖怪をテーマにした星人たちの大ボスであり、両脇に天狗と犬神を従え道頓堀川付近で身構えていた。
持ちうる点数は、なんとこれまでの星人の点数を遥かに凌駕する100点。その強さも桁違いであり、様々な姿に変形する能力、高い戦闘能力に加え驚異的な再生能力を持っており、体が吹っ飛ぼうが、潰されようが瞬時に再生してしまう。作中ではなんと10回も変形しており、そのたびに姿も攻撃方法も全く違ったものになる。
「総大将」や「ボス」的な意味合いは共通しているものの、頭の形のいびつなおじいさんとは、180°イメージの異なる、もはや新キャラクターにまで昇華している、まさに現代の「ぬらりひょん」なのかもしれない。

『GANTZ』に登場するぬらりひょん
 © 奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

さて、お届けしてきた「ぬらりひょん」いかがだっただろう…
これほどまで様々に姿・形を変えながら、全国各地で伝承され、漫画・映画・テレビ・ゲームなどで、それぞれのキャラクターが見事に昇華され、活躍している妖怪/UMAも珍しいだろう。
特異なネーミングやビジュアルが古くから現代に、それぞれの時代のニーズに合わせて変化してきたのだろう。

「ぬらりひょん」が伝承されたすべての地域、「ぬらりひょん」が登場するすべての漫画・映画・テレビ等のエンタテインメント作品を、UMA遺産群と勝手に認定させて頂きたい。



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