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『木綿のハンカチーフ』がエモエモのエモすぎて泣ける

深夜25:30。いつも通りベッドの上で「明日の仕事サボろうかな〜」などとうだうだと夜更かしをしていると、『乃木坂スター誕生!』が始まって、遠藤さくらが『木綿のハンカチーフ』をカバーして歌い出した。
可愛い女の子とその甘い声が堪らなく好きなので「おっ」とうきうきしながら可愛い遠藤さくらの歌唱を眺めていたが、気付けば目は画面の下部に表示される歌詞を追っていた。

「えっ」

遠藤さくらが可愛らしく歌い上げてステージから降りた後、Appleミュージックで『木綿のハンカチーフ』を検索して、歌詞を表示させながら最初から聴いた。

太田裕美の甘い声に合わせて少しずつ進む歌詞。頭の中はずっと「えっ」だった。
最後のフレーズが流れ、歌が終わり、ぽろっと涙が出た。

「えっ?」

太田裕美『木綿のハンカチーフ』

1975年のリリースからおよそ45年が経ち、実際に頭から最後まで聞いたことのある人は少なくなってきているかもしれない本曲。

甘い声の乗った軽快なメロディは一度聴けば忘れませんが、その歌詞まで意識してよく聴いたことはありますか?

今とはおそらく全く違う光景が広がっていただろう45年前の日本。
そんな時代のヒットナンバーがいまだにカバーされ続け、2021年現代を生きる人間の心をこんなにも叩く。

その理由は秀逸なメロディと太田裕美氏の素晴らしい歌唱、そしてそこからは想像もつかない程切ない歌詞にあります。

(聴いたことのない方向けへ カバーになりますが橋下愛さんが『THE FIRST TAKE』で歌唱している動画がYouTubeにありましたのでリンクを貼っておきます)

橋本愛 – 木綿のハンカチーフ / THE FIRST TAKE


「もの」を贈ろうとする彼と「約束」を欲しがる彼女

恋人よ ぼくは旅立つ
東へと向う列車で
はなやいだ街で 君への贈りもの
探す 探すつもりだ
いいえ あなた 私は
欲しいものはないのよ
ただ都会の絵の具に
染まらないで帰って
染まらないで帰って
出典: 木綿のハンカチーフ/作詞:松本隆 作曲:筒美京平


仕事で上京する彼と地元に残る彼女の別れから歌は始まります。
歌詞はここから物語のように続いていきます。
(ここでは都会を東京として進めていきます)

「東京に行っても忘れない、離れ離れは少しの間だけだから。すぐに帰ってくるつもりだよ。プレゼントを贈るよ、東京にはいろんなものがある。きっと君の気に入るものがあるから」

「何もいらないよ。でも、東京に染まらないで。私の好きな貴方のままで帰ってきてくれたらそれでいいよ」

「プレゼントを贈る」という目に見える短期的な行動と「もの」で彼女を忘れないことを示そうとする彼に対し、「東京に染まらないで帰って」という目に見えず、そして長期的な「約束」を欲しがる彼女。

彼が提示したのはすぐに達成できる「ものを贈る」ことでしたが、彼女はそんなものは欲しがりませんでした。
金銭的には価値がつかない、けれども彼女にとっては何よりも大切な「とても難しい約束」だけに価値があったからです。

この時点で二人の間には小さなずれがありました。

ぼくはすごい人間になったよ 君は?

恋人よ いまも素顔で
くち紅も つけないままか
見間違うような スーツ着たぼくの
写真 写真を見てくれ
いいえ 草にねころぶ
あなたが好きだったの
でも 木枯らしのビル街
からだに気をつけてね
からだに気をつけてね
出典: 木綿のハンカチーフ/作詞:松本隆 作曲:筒美京平

3番の歌詞です。2番で半年が過ぎ、男は変わらず指輪などのものをプレゼントしようとしますが、彼女にはやはり「いいえ」と言われてしまいます。
それから上記の歌詞が続きます。

「君はまだメイクもしてないのかな? 僕は立派なスーツを着て仕事を頑張ってるよ」

「草むらで寝転んでた貴方の方が好きだったよ。でも、身体には気をつけてね」

上京してきた方であれば分かるのではないかなと思うのですが、地元から東京に出てきてそこで生活を続けてくると少しの優越感が芽生え始めます。

地元に残って出てこない同級生たちを田舎者と嘲笑い、見下します。
ただ東京に来ただけなのに自分がすごい人間だと錯覚し出すのです。

実家に戻り地元に残った友人たちと会うと、自分は友人たちよりも先を行っているとか、そんなことを思います。彼らに比べて自分が何かすごい存在になった気がしてしまうのです。実際は自身が地元で過ごした時間が上京したことで止まっているだけだということに気付けず勘違いしているだけなのですが。

歌詞からは彼のそういう自意識が漏れているように感じます。
「メイクもせず、口紅も塗ってないの?」「ぼくは見間違うようなスーツを着てるよ」と地元と東京を対比させる彼の言葉に、東京にいるという優越感と地元に対する少しの嘲りが見え隠れします。

それに対して彼女は「草むらで寝転んでいる貴方が好きだった」と返します。

この彼女の言葉で3番は終わりますが、歌詞には書かれていないこの後、彼は何を思ったのでしょうか。

ここからは想像になりますが、おそらく彼は苛立ちや羞恥を感じたのではないかと思います。

彼は自分が東京の人間になったと思って喜んでいます。
地元の人間たちよりもすごいものになったのだと。
その差を見せつけ、自分はすごいと認めてもらいたかったのです。
けれども彼女は「今のすごい自分」を認めてはくれません。
彼女から返ってきた「昔の貴方が好きだった」という言葉に、彼はみっともない田舎者だった自分のことを突きつけられているとすら感じたのではないでしょうか。
それはとても鬱陶しく、恥ずかしいものでしょう。

だって、昔の田舎者の自分とは違ってすごい人間になったんですから。

所謂「黒歴史」です。

「私は貴方の恥ずかしい田舎者だった過去を知ってるよ。草むらで寝たりしてたじゃん。そのくせ、東京に出たってだけで何はしゃいでるの。生まれは東京じゃなくて、私たちと同じ田舎者のくせに」
被害妄想が激しければこれぐらいに感じたかもしれません。

「都会の絵の具に 染まらないで帰って」

彼女が一番欲しかったものは失われようとしていました。

君を忘れて 変わってく ぼくを許して

人は変わります。

世界は変わります。

東京は特に人が集まるので、そのために新しいものが生まれやすく、飽きない楽しい街です。

東京で過ごす間に感じる時の流れは地元のそれとは比べものにならない程速く感じるでしょう。
活力のみなぎる若者が東京に慣れて楽しむようになれば、もう地元には戻れなくなるのは当たり前ではないでしょうか。

そんなさよならはどこでも聞く、とてもありふれた別れ話です。
それがここまで切なく感じるのは、最後の最後に彼の誠実な本心が率直に出たからです。

恋人よ 君を忘れて
変わってく ぼくを許して
毎日愉快に 過ごす街角
ぼくは ぼくは帰れない
あなた 最後のわがまま
贈りものをねだるわ
ねえ 涙拭く 木綿の
ハンカチーフ下さい
ハンカチーフ下さい
出典: 木綿のハンカチーフ/作詞:松本隆 作曲:筒美京平

最もらしい言い訳をすることもできたでしょう。嘘をつくことも、連絡せずにフェードアウトしてしまうこともできたでしょう。
けれども、彼は「東京は楽しくて、君を忘れてしまう。でも帰れない」と本心を述べ、許しを乞います。

真実なのがわかるこそ胸が痛みます。

軽快な音楽に乗った甘い声は歌詞にはもはや似合いません、だからこそここまで惹きつけられます。
世界が変わり、選択肢が増え、現代では最早変わり続けなくては生き抜けないような世の中です。
彼の生き方は間違っていません。

そして彼女のように、変わらないものを求めるのも間違っていないと思います。
贈り物という彼なりの心遣いに「いいえ」と言い続け、彼と一緒に生きるために東京に行って寄り添うという行動も起こさなかった彼女は努力が足りないと責められるかもしれません。
けれども、彼女が求めていたのは「彼との地元での時間の続きを過ごす」ことだったのでしょう。
彼も少し東京に行って、帰ってきた後はそうするつもりで、でも、変わってしまいました。

二人の求める未来はすれ違ってしまいました。

最後に彼女は今まで求めなかった「もの」を欲しがります。
それがタイトル「木綿のハンカチーフ」です。

これで歌は終わります。

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蛇足になるだろうなぁと思いつつ、述べるとすれば最後の最後で彼女は彼に寄せました。
約束ではなく、「もの」に。
もしかすると、彼女は彼を失うと分かっていれば彼にもっと寄り添ったのかもしれないなぁと思います。
お別れを迎えるぐらいであれば、変わる彼についていくと。
最後に約束ではなく、彼が提示した「もの」を選んだから。
勿論、最後「だけ」だからそうしたのかもしれませんが。

彼とのお別れを悲しむ涙を拭くためのハンカチはずっと彼女の手元に残ります。
彼とのお別れの思い出として。
残る形として欲しいと思うほど彼のことが好きだったとも取れないこともありません。

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『木綿のハンカチーフ』 エモエモのエモ

あまりにも思っていた内容と歌詞がかけ離れていて(いい意味で)ショックを受けました。

ただ甘ったるいだけの恋愛ソングではなく、ただ暗く悲しいお別れの歌というわけでもない。

個人的には三番のスーツのくだりが刺さります。
少しのえぐみというか、ほろ苦さを感じるんですよね。
私自身の解釈はあの超絶被害妄想の効いたものなので(笑)
そこまで酷いことを彼が考えているとは思っていないのですが、もしもそれに近しいものを彼が考えている設定で、その上であの歌詞でメロディなら凄まじいと思います。

明るいメロディと声が、恋、男と女のすれ違い、都会と田舎、自意識の増長、別れを流れるように歌います。
何かに偏って、ノスタルジーやメランコリーに浸った一方的なものではなく、ただありのままを素朴に描き出しています。

だからこそ、あの曲の全てがストレートに胸に届くように思います。

最後の最後でめちゃくちゃアレな見出しを持ってきましたが、ここまでそこそこ丁寧に歌詞の「エモ」を書き連ねてきたつもりなので許してもらえると嬉しいです……

個人的には上白石萌音ちゃんのカバーがかなり好きだったりするので、しばらく無限リピートする予定です。

さて、記事はここまでとなります。

ご覧くださりありがとうございました!
またよろしくお願いします!

Um🍈


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