トカゲになるせなけいこ

こんにちは。ゆりりうすです。
何だろう?このタイトルは?
無理もないです。おかしなタイトルです。
天才漫画家、萩尾望都先生の「イグアナの娘」みたいなこと?
そうではありません。
まあ、家の娘の手は、毎冬荒れて、まるで爬虫類のような手触りをしているけど。
あっ、怒られる。娘は、このブログを全く読んでいないけど、かなり娘を使っている。
せなけいこさんがトカゲ化するのは、そういうことではないんですよ。
絵を描かれる人は、まず知っているトレース台というのがあります。今は、違うのかな?
まあ、知っているという体で、お話します。
簡単に言えば、磨りガラスが張ってあリ、下から蛍光灯を当てて、絵を写す台です。
昔、家に古いトレース台があって、たぶん母が使っていたんだと思うんだけど。
見たこと無いけど(笑)
ある日、小学一年生の頃かな?私が部屋の中で風船で遊んでいたら、手から離れて風船が天井に行ったきりになってしまいました。
困っていたら、兄が来て取ろうとしてくれたのですが、天井なもので兄も何かに乗る必要があったんですね。彼は、そっと椅子に乗って、それでも届かないので、うっかりトレース台の上に体重をかけて乗ってしまいました。
「メリッ」と嫌な音がして、トレース台にひびが入ってしまいました。
もちろん、後で兄は母からも、父からも怒られたのですが、彼の偉いところは、決して言い訳をしなかったんです。私の為に取ろうとしたことは、一言も言わずに、ただ「ごめんなさい。」と頭を下げていました。私は黙って見ていたけど、かなり気まずいです。正直に「本当は、私がお兄ちゃんに頼んだ。」が言えませんでした。
それは、今でも心のどこかに残っています。
で、話が本筋から大きくずれた(笑)
それで、母は新しいトレース台を買ったんです。
その頃の、わりと最新式なもので、トレース台に蓋はあるは、下に絵を入れる戸棚があるは、かなり良いものです。
しかし、私は母がそれを使って、絵を写しているのを見たことがありません。
いや、一回くらいはあるかな?
とにかく、ほとんど使わなかった。
では、母はどうやっていたのか?
まず母の絵の作り方から知ってもらわなくてはなりませんね。
母は張り絵の人なので、まずラフコンテを下書きします。それから絵が決まったら、別の紙に大きく鉛筆で描きます。それから細目のマジックで本番の線を描きます。そしてトレーシングペーパーを下書きの絵に当てて、絵を写します。その後、それぞれのパーツの紙をトレーシングペーパーに当てて、強く線を描き出します。そして、それぞれのパーツを切って台紙に貼っていきます。
この説明で分かるかな?
だから、トレース台を使うのは、初めのトレーシングペーパーに絵を写すことと、パーツの紙に絵を写す時に使うはずなのです。
ところが、母はせっかくのトレース台を使わずに居間のガラス戸に寄りかかって、紙をガラス戸に当てて、太陽の光の元で、絵を写しているんです。
その時の姿が、まるでトカゲが、あるいはヤモリが、ガラス戸にはっているみたいで、何なら片足を上げていたかも知れない。
いや、さすがにそれは無いか(笑)
「どうして、トレース台を使わないの?」
と聞いたら、
「だって、この方が早いし、良く見える。」
と答えました。
なんですと?
それでは、トレース台は要らないのですか?
じゃあ、兄の謝罪は何であったのか?
そこから、母がトレース台を使っているのを見たことがありません。いつもトカゲのように、ガラス戸に寄りかかって、張り付いて絵を写して描いていました。
可哀想なのは、兄だけではなく、もちろんトレース台もそうで、ほとんど使われること無く、トレース台の上には書類や紙が山のように積まれ、下の戸棚にもギュウギュウに紙類が入れられ、本来の使い方をされること無く、今に至る。
だから、母のトレース台とはガラス戸のことで、晩年までずっとトカゲになって作品を作っていました。
もちろん、子供の頃の家からわざわざ神奈川の家に持って来た、トレース台は静かに文句を言いたげな顔をして、母の部屋に鎮座ましまし、していました。
今もある、トレース台はどうしたら良いものか?
今に、母の仕事部屋の再現をどこかでする時に、一緒に飾るのか?
全然、使わなかったのに?
うーん、と悩めるゆりりうすです。

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