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ドッヂボール大のメンチボール

小学校の頃から大学時代にかけて「黄昏流星群」を読んでいた。

「黄昏流星群」とは、島耕作シリーズで知られる漫画家の弘兼憲史が隔週漫画雑誌・ビッグコミックオリジナルで執筆している漫画である。
中年から老年、即ち人生の黄昏に差し掛かった年代の恋愛模様、その煌めきを描いたオムニバス形式の漫画であり、島耕作のイメージに漏れずこの漫画も熟年や老年に差し掛かった男女のセックスシーンが克明に描かれている。

我が家では父が毎月2回の発売日になるとビッグコミックオリジナル(以下、ビッコミ)を買ってきており、エロさに関する制限も特になかったことから当時の僕はジャンプ感覚でビッコミを読んでいた。
ちなみに当時好きだった作品は玄人のひとりごとと最強伝説黒沢である。

無論、黄昏流星群も読んでいたのだが、黄昏流星群の中で一際印象に残っているエピソードがある。

サブタイトルは覚えていないのだがあらすじを箇条書きにすると
・主人公は建築会社に勤める派遣社員、芸術家として活動する妹と一人暮らしの高齢な父がいる
・父が亡くなったとの報せを受け久々に郷里へ戻ると実家はゴミ屋敷と化していた
・片付けと遺品整理を進める傍らで入った小料理屋ではかつての同級生が女将として店を切り盛りしていた
・父の訃報を女将に伝えると女将は涙を流し、女将はかつて主人公の父と不倫関係にあったことを告白した
・そして女将は主人公にとある事実を伝える、亡くなった主人公の父には莫大なタンス預金があったはずだと…

正直あんまりこの後の展開は覚えていないのだが(主人公と女将がねんごろになったり芸術家の妹が一山当てていた気がする)、その中のとある描写が妙に印象に残っている。

作中にて主人公が初めて小料理屋を訪れるシーンで主人公が腹ごしらえをするのだが、そこで提供されていた料理が「ドッヂボール大のメンチボール」だったのだ。
メンチボールである、球型に成形して揚げたメンチカツことメンチボールである。
主人公はそのドッヂボール大のメンチボールを箸で徐に半分に割ると、大きな口で頬張り「うーん、シャクシャク!」とか宣うのだ。

急にアホ過ぎる。
なんだ、ドッヂボール大のメンチボールって。
黄昏流星群の世界観にそぐわなさ過ぎる。
別にそれまでの内容がコメディチックだった訳でもない。父の死をきっかけに家族間の軋轢が浮き彫りになったり老人の孤独死について触れたりとそこそこシリアスな展開だった覚えがあるのだが、亜空間から顕現したが如くメンチボールがポンと現れたのだ。

そもそも小料理屋が出すメニューだろうか。
いいとこ居酒屋か洋食屋のデカ盛りメニューだろうに、それを女将が「うちの目玉商品なの!」とか嬉しそうにぬかすのだ。
もう少し小料理屋としてのポリシーを持て。顔に向かって投げつけたら顔面セーフとか言われそうなサイズのメンチボールを目玉にするな。

このメンチボールについては作中において何かしらの伏線にされることもなく一描写として消化されるのだが、その後の展開として女将が銀行を訪れるシーンがあり、そこでローンの返済を待ってもらうよう銀行員にお願いしている。
どうやらそれなりの長期間に渡り滞納しているらしく、小料理屋の経営も立ちいかない状況であることが窺える。

このシーンを見て、当時の僕は
「そりゃデカメンチボールが目玉の小料理屋が繁盛する訳ないよなぁ…」
としみじみ思ったりしていた。

この話がきっかけで、僕は黄昏流星群の、ひいては弘兼憲史作品の解像度の高さに対して信頼を置くようになったのであった。
普段の生活で意識することはないが、お笑いのネタを考える時にネタ中に出てくる小道具や設定に違和感が無いかどうかについて、この「ドッヂボール大のメンチボール」を指標にして考えている部分があるんじゃないかと自分では思っている。

以上、よしなに。

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