翡11-古剣
■1939(昭和十四)年、神奈川県某所の刀鍛冶の家。長谷川正光(55)が自室の床の間脇の戸棚に刀が入るほどの白木の箱をしまい込んでいる。長谷川は白い胴衣に袴姿。そこへ内弟子の栗原敬次郎(16)が声を掛ける。(昭和の刀匠の出で立ちが分かる写真が、資料『鉄と日本刀』のP225.にあります)
栗原「お呼びですか、師匠」
正座して廊下に控えている栗原に向き直る長谷川。
長谷川「今日のおまえの相鎚(*あいづち)は悪くなかった」
栗原「はい」
*相槌とは鍛冶で二人の職人が交互に槌を打ち合わすこと。転じて人の話に頷き、巧みに調子を合わせる意となった。
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