ワンシーン
不憫な男を想像してほしい。
会社で上司に怒鳴られたサラリーマン。
いや、これではあまり面白味がない。
消去してくれ。
プロボクサーを目指し、ジムに通う若い男。
幼少期に母を亡くし、父は浮浪者。
ここまで鮮明でなくても良い。
ジムで練習試合を組まれる。
思い通りにいかず、圧倒される。
ボロ雑巾。
だいたい想像つくだろう。
トレーナーにボクサー向きではないことを告げられる。
夜。
ジムを出る男。
まいばすけっとに入る。(この映画の協賛企業か)
弁当を見ている男。
唐揚げ弁当と、ミートソースパスタ。
どちらも30%引きのシールが貼られている。
唐揚げ弁当に手を伸ばす男。
横から弁当が取られる。
取ったのは禿げた中年男。
パスタを見る男。
横からサラリーマンが、パスタを取りレジへ向かう。
棒立ちの男。
ビールとカップ麺をレジへ運ぶ。
「いらっしゃいませ」
元気のいい若いメガネの女性店員。
「お支払いは?」
カードで。
「WAONですね!」
あ、クレジットカードで。
「大変失礼しました!」
店を出る男。
これで帰り際、車に轢かれそうになって、車窓からジジイに怒鳴られ、飲み歩いていたビールのロング缶を半分、地面に飲ませるくらいすれば、物語の1シーンくらいにはなるだろう。
仕事の帰り際、まいばすで聞き間違えられ、「いや、カードで」ではなく、相手に伝わりやすいように「クレジットカードで」と言った出来事の後、見えたシーンを書いておいた。