
【禍話リライト】仏蘭西人形の部屋
禍話には「ネンネ式」というジャンルがある。
ジャンルというか、話が緩やかにつながるというか。
怪の側面を別の方から見るので、恐怖が数倍増す。
この話は、同日話された忌魅恐NEO「駄菓子ツアーの話」と緩やかにつながる。ぜひ聞いてみていただきたい。(あるいはどなたかリライトしてください)
【仏蘭西人形の部屋】
現在40代後半の女性Aさんが、小学校の頃。九州のとある地方の話。
クラスの中であまり遊ぶことのない、いわゆるグループの違うBさんという女の子がいた。Aさんは、このBさんにある時こう誘われた。
「今人形遊びにはまっているんだけど、人数が足りなくて手伝ってくれない?」
内心、人手がいる人形遊びということにピンとこなかったが興味が湧いて「私、それほど門限も厳しくないし、いいよ」と了承をした。
Aさんは、Bさんとそのグループと共に向かう。駄菓子屋でお菓子を買い込む。皆同じ地域に住んでいるのに、途中からいつもの通学路を外れて、古ぼけたアパートへと向かった。
何棟か建っている中で一番奥の建物に向かう。
建物の真ん中に階段があり、そこに老婆が腰掛けていた。表情はない。近くにベンチもあるのに、そこを使う人を見張るかのように真顔でこちらを見やる。
Bさんが「〇〇さんの家に行きます」と言う。老婆は小さく頷いて道を開けてくれた。
「行っていいってさー」
Bさんが嬉しそうに言う。大家さんか、管理人さんなのか。
そのまま階段を登る。4階か、5階。子どもの足で少し高いなというところまで来た。一番上の階ではない。
すると、チャイムも押さずにBさんが扉を開けて「こんにちわー」と入っていく。他の皆もどやどやと慣れた風に部屋に入っていく。チャイムやノックをせずにいいのかと思いながらも、付いて行った。事前に連絡をしているのか。
見回すと、家具はない。洗面所にある洗濯機を置く場所にも何もない。小学生ながら、空き家なのだろうと判断した。
皆、そのまま奥の部屋へと向かう。
「こっちこっち」
Aさんを呼ぶ声の方へ行くと、八畳ほどの和室があった。一番奥に床の間があり、そこに、仏蘭西人形が置いてあった。何の変哲もない、写真を見せたら「フランス人形ですね」と口をそろえるような。
それ以外は何もない。机も、座布団も。
「この子は、陽子ちゃん」
Bさんが紹介してくれた。仏蘭西人形なのに、日本人の名前なんだとは思ったが。
「で、これから陽子ちゃんとどうやって遊ぶの?」
と問う。すると、にべもなくこう返ってきた。
「これで終わりだよ」
何もしていない。全然面白くない。しかし、Bさんは、その場に座ってこう続けた。
「何だったら、買ってきたお菓子でも食べて」
人形の近くに皆で座り、ワイワイと買ってきたお菓子を口に運ぶ。そのうちに奇妙な事に気が付いた。Bさんをはじめとした皆は、お菓子を半分ほど食べると、人形の陽子ちゃんの口の近くまでもっていって、それから残りを食べるのだ。スナック菓子だろうと、麩菓子だろうと同じようにする。
「ん? 何してるの?」
「何が?」
露骨にしているのに、答えるつもりがないのか。『これは私もしなければならないのか』とも思ったが、よく分からない上『やれ』ともいわれていないのでやらなかった。
そのままそこで一時間ほど過ごして、帰宅した。
日はかなり傾いている。一階に老婆の姿はなかった。帰ったのだろう。
家に帰って、ご飯を食べてお風呂に入っている9時ごろ、電話がかかってきた気配がした。どうやら母がとってくれたようだ。出てから髪を乾かしながら聞くとBさんからだった。
「何か言ってた?」
「後から電話しなくていいんだけど、今日は本当にありがとう、喜んでたって伝えてくれって」
主語がないなと思う。喜んでたってことは、Bさん以外ということだ。自分は何もしていない、ただ、空き部屋でお菓子を食べただけだ。
それからしばらく、その遊びを続けた。
最初に声をかけて一緒に向かったのが、月曜のことで、その週は放課後に同じように『人形遊び』をした。
そのたびに、服は若干違うものの一階には老婆が居り、名前を告げて上に上がって人形の前でお菓子を食べる……、という一連の行動だ。
遊びにもなっていないこの行動は、金曜日を迎えた。
この日、老婆がいなかった。
「どうすんの?」
「まぁいいんじゃない。おばあちゃん居ないの初めてだけど。陽子ちゃんはあの部屋にいるだろうし。行こう!」
そのままついて階段を上がった。古い建物なので、エレベーターはない。
いつものように、インターホンも押さずにリーダーのBさんが扉を開けると、「あれっ」と声を上げた。
そちらを見ると、中年の男女が部屋の中にいた。「何ですか?」と怪訝そうな顔でこちらを見ている。とっさに部屋番号を確認したが、月曜から通っている部屋で間違いようがない。
「すみません!」とそのまま階段を駆け下りた。
人のうちに勝手に入ってしまった恥ずかしさと、怪訝そうな視線に顔から火が出そうだった。
下まで降りて、周りを見るとBさんがいない。
「Bさんは?」
息を切らしたまま周りに聞く。
「とっつかまって怒られてるんじゃない? 謝ってるのか」
「ちょっと待っとこうか」
結果的とはいえ、見捨てて逃げてきてしまったことになるのだ。
しかし、1時間たっても降りてこない。
出口は、この階段だけだ。
「誰もいかないの? 行ってあげなよ」
問うても皆は互いに顔を見合わせるだけだ。
『なんでこんなにグループの団結感がないんだ』と思う。
結局、Aさんが見に行くことになった。いつも所属していない単なるゲストなのだが、皆が尻込みするので仕方なくの形だ。
登って行って、いつもの部屋の前についた。
チャイムを押すと「ピンポーン」と代わり映えのしない音が鳴る。
『Bちゃんと一緒に謝れば何とかなるだろう』小学生ながらそう思ったという。
何度か押す。
しかし中からは何の反応もない。
おかしい。さっきは中に人が居たはずだし、Bさんもここにいるはずだ。
間を開けて三度ほどチャイムを押すと、扉が開いた。
Bさんが出てきて、初対面くらいのトーンでこう言った。
「いらっしゃいませ」
怖くなって、声を上げながら一階までたどり着き、待っていた他の数人は無視して家に帰ってしまった。
1時間前までは、普通に会話をしていたのに、急に無感情で声をかけられたのが、本当に怖かったのだという。
ご飯もお風呂も上の空で済まして、風呂から上がってくると母が言う。
「Bちゃんから電話があったよ」
「え! 何か言ってた?」
「あの子最近よく電話してくるわね。折り返しはいらないって言ってたけど、とっても喜んでたって。お父さんとお母さんが」
心の芯が冷えたが、結局母親には次第を伝えられなかった。
翌日、土曜なので午前授業だった。
教室に入ると、Bちゃんは普通に居た。
しかし、グループの他の子とは距離があって話さないようにしているようにも見える。
授業はいつも通り進むものの、休み時間にBさんもそのグループのメンバーも話しかけては来ない。
Aさんは、自身の普通の人間関係に注力した。
2時間目が終わるころ、校内がざわつきだした。
先生が、Bさんの両親と教室へ来たのだ。扉を開けるなり父親が声を張り上げた。
「帰ってこずにどこへ行ってたんだ!」
後で聞くと、Bさんは、家に帰ってこなかったのだそうだ。つまり、集合住宅のその部屋で朝を迎えたのだろうという。そのまま学校に登校してきていたから周りは気が付かなかったが、Bさんの両親は血眼で我が子の行方を捜していたのだという。あちこちに当たっていると、登校しているという情報を聞きつけて慌ててやってきたのだという。
慌てふためいて来た両親を見るBさんの表情は、「何を言ってるのこの人たち」というようにポカンとしていた。
その後、一週間ほどは学校へ来なかったが、明けてからは登校するようになった。しかし内向的になってしまい、学校が終わると皆と遊ばずに家へ直帰するような性格になってしまったという。
2回目のBさんの電話は、どうやら集合住宅近くの公衆電話からかけてきていたのだそうだ。
〈了〉
──────────
出典
禍話アンリミテッド 第二十一夜(2023年6月10日配信)
23:37〜
※しかし、は、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
下記も大いに参考にさせていただいています。
★You Tube等の読み上げについては公式見解に準じます。よろしくお願いいたします。
いいなと思ったら応援しよう!
