「真昼の暗黒」に脳味噌が震える(ネタバレ)
二日間で一気に読み切ったフリーゲーム「真昼の暗黒」の感想
このゲームは「普通の女子小学生」と「影のあるサイコパスカウンセラー」との描いたサスペンスではない。もっと別の「記録」だ。
ベッドタウンに住む女子小学生と、カウンセラーという構図や、昔のwindowsのデスクトップのようなメニュー画面は「lain」っぽいな、という印象がまず最初。
物語を始める前に挿入される心理テストや、起動音などで期待値はマックス。最初の時点から、このゲームは「ヤバい」と、ビシビシ伝わってくる。嫌なことが起こる予感しかしない。BGMも不気味で、不安感を煽ってくる。
舞台は東京の団地。姉と二人暮らしをしている小学生と、その周りを取り巻く環境が、「ありそう」な感じがして生っぽい。団地に住んだことはないが、字の文の語りの部分や、環境音から伝わる情報は懐かしいと感じる。そんなノスタルジーに浸る暇もなく、事件は起こる。
この作品は、全てが点と点で繋がっている。順番に、プレイヤーが想像を働かせながら読み進めていくうちに物語の時系列、全体像が見えてくるところが好きだ。挿入される回想の中で、「あれ?」と思ったところ、プレイヤーの悪い予感は全て的中してしまうのだ。
特に、昼間讌の回想シーンが好きだ。序盤で、あんなに聖人みたいな「お姉ちゃん」をしていた彼女が回想で、疲弊し、自分が本当に妹のためになっているのかと思い悩んでいる。讌の回想パートの後半、姉妹の母親が会社から横領していることを知ったシーンは本当に凄まじく、「よくこんな文章書けるな……」と冷静に読んでしまった。
「窓から本を捨てる」「彼氏との会話を盗み聞きする」「お箸がうまくもてなかったから家に入れないようにする」
讌が母親にされた仕打ちの数々が、ものすごく生々しい。
彼女の叫びを聞いていて、少し心当たりがあることがあったので読んでいて胃が痛くなった。
全体的に、いじめや虐待の描写がよく入るのがこの作品の特徴ではあるが、傍観者であり、気付いていたけれども見て見ぬ振りをしていた、というような苦い思い出を掘り返されているような居心地の悪さを感じる。
思い返さないに蓋をしていた思い出の、その蓋を開けられたような気持ちにさせる。文章力でタコ殴りにされる経験を、このゲームは提供してくれる。
このゲームは「昼間深沙」が執筆した手記をもとにしている
つまり、この作品は、この作品内で実際にあった事件をもとに製作された「ゲーム」であるということ。
エンドロールで唐突に知らされるこの情報は、プレイヤーを否応無しに困惑させる。
どこまでが本当のことなのか、わからなくなるのだ。
きっと、ゲーム内で閲覧できる資料にあることは「事実」なのだろう。当時の新聞記事や音声、地図などから与えられる情報は客観的な事実を提示する。
EDでこのことがプレイヤーに開示されることによって、昼間ミサの小学生にしてはやけに達観したような物の見方、年相応とは思えない語彙力で語られていたことに納得がいく。
しかし、同時にわからなくなる。これが彼女の手記に基づいて開示された物なら、どこまでが本当のことなのか。昼間姉妹、暮方計、時穣介という人物がいたのは事実、しかし、昼間ミサの視点から見た出来事ーーしかも事件当時ではなく、成人してから執筆された物であるということは、当時の事実と食い違う部分や、脚色もあるだろう。(ミサ本人も「証言おかしいかも」と作中で言っている)
ミサパートならまだしも、暮方パートや穣介パート、うたげパートなんかはミサ本人が知り得ない情報や故人の心情が綴られているので、「昼間深沙の執筆した手記を基にしたゲーム」というのなら、これらは全て製作者の妄想ということになる。だから、本当にあった会話かどうかはわからないし、どこまでが事実で、どこからが脚色された物語なのかが曖昧なのだ。
他にも、団地での少女暴行事件は暮方計が行ったと穣介は結論づけているが、暮方の当時の年齢と噛み合っていなかったり、昼間姉妹の父親はどうして死んだのかがわからない等一通りプレイしてもわからないことは多い。
このゲームをどう捉え、解釈するかは全面的にプレイヤーに委ねられている
そこが想像力を掻き立てられるいいところ
特に困惑させるのは、EP9の存在だ。本作はR15指定となっていて、作中に性行為を暗示させるようなシーン、性的虐待を含むシーンがあるが、EP9だけは異色で最初から最後まで成長した昼間深沙が暮方計を痛めつけている(性的な意味で)というビックリなシーン。
地元の関係者や警察の協力を得て製作されているゲーム(という体)なのに、このシーンを挿入した意味はあるのか?クリア後に開示されるパスワードを打ち込むと、このシーンは見ることができるのだが、時系列的にどこかはわからないし、正直めちゃくちゃねちっこいと思った。
女を殺して屍姦していた殺人鬼なのに、殺した女性の妹(10歳以上年の差がある)にいいようにされながら喘いでいるという異常なシチュエーション。なので、これをゲームでやるぞ!と決めた作者はすごい。よく消されされなかったなぁ……
成長したミサのやさぐれっぷりと二人の排他的な生活の描写が好みなので、もっと二人の相互依存関係が見たかったなぁと思うのが個人的な感想。二人が失踪してしまうエンドが一番しっくりくるというか、自然な流れというか、終わりとして美しい。
平和や日常という言葉の象徴でもあった団地の内部も、皮一枚剥がしてみれば、人間の業が詰まったような地獄と化していく。そんな話が読めてよかった。
逃亡した二人が住み着いた先が、似たような郊外の団地だったら面白いね。
昼ご飯代が欲しいです