見出し画像

製造業のIT担当に求められること【製造業DXの道具箱 #1】

はじめに

本連載「コンサル直伝!製造業DXの道具箱」では、IT担当者が製造業の現場にどのように向き合い、DXを実現するのか? そのために必要な知識やノウハウを、私たち製造業に携わるITコンサルタントがお届けします。ぜひご参考にしてください!

連載第1回である今回は、製造業の全体像を俯瞰しながら、製造業のDXやシステム開発に携わるIT担当者に求められることを考察していきます。




1.そもそも製造業とは何か?

経済産業省の「2024年版ものづくり白書」*によると、製造業は我が国におけるGDPの約2割(2022年度実績107.6兆円)を占める主要産業の一つです。
*統計の引用元は内閣府経済社会総合研究所より

経済産業省「2024年版ものづくり白書」より
2022年度業種別GDP構成比

皆さんは製造業の製品と聞いて、何を思い浮かべますか?

多くの方がまず思い浮かべるのは自動車でしょう。ほかにも、機械・日用品・おもちゃ・食品・家具など、身の回りにあるものから、普段目にしないものまで、「もの」と言えるものはすべて「製造業」によって生み出されています。製造業とは、まさに「ものづくり」を生業とする企業全般のことであり、その製品の種類は非常に多岐に渡ります。

総務省より日本標準産業分類項目表*にて製造業の分類が示されています。製造業は分類項目表の大分類Eにカテゴライズされており、24種の中分類、その下に177種の小分類、さらにその下の細分類に至っては598種に渡って定義されています。この分類の多さからも、製造業の幅の広さが実感できるのではないでしょうか。
*自動車は中分類31の「輸送用機械器具製造業」の分類

総務省「日本標準産業分類項目表」より
製造業の種類

ご参考までに、先ほどの「ものづくり白書」の統計引用元である内閣府の統計資料によると、産業分類別のGDP構成比は、工作機械や印刷機などの「はん用・生産用・業務用機械」を筆頭に、自動車などの「輸送用機械」、「食料品」、「一次金属」、「化学」と続いています。このような統計資料からも、我が国の製造業における需要が大きい分野、国際競争力がありそうな分野がどこにあるのか、いろいろと想いを馳せるのも面白そうです。

内閣府経済社会総合研究所「GDP統計」より
経済活動別国内総生産(名目)2022年度実数より集計

2.なぜ製造業のDXやシステム開発が難しいと言われているのか?

一般に製造業のDXやシステム開発は難しいと言われていますが、なぜ難しいのでしょうか。
この答えを求めるために、製造業の特徴を踏まえて説明しましょう。

(1)高度な専門性を要する「加工」の概念

「加工」とは、原材料や部品に様々な処理を施し、新たな製品や部品を作り出すことによって、その企業独自の製品として「付加価値」を付与する一連の製造工程に含まれる工程の1つです。「加工」は、製造業において製品のコスト、品質、生産性を左右する重要な工程であり、高度な加工技術は、製品の多様化や高機能化を実現し、企業価値だけでなく産業の発展にも貢献します。

一方で、「加工」には材料に手を加える過程に物理学や化学、工学が応用されていること、製品の品質や基準、安全や人命を守るための様々な資格や法律が関わっていることが多くあります。また、製造業の業種や企業の長い歴史の中で培われた経験とノウハウが蓄積され、生産活動の様々なシーンで活用されています。

つまり、「加工」とは製造業の根幹をなし、様々な業務の起点となっている一方で、非常に高度で専門性が高く、一朝一夕に理解するのは難しい領域であるのは想像に難くないでしょう。

(2)「もの」を通じて企業同士がつながる複雑な商流

1つの製品を作り上げるすべての工程を、たった1つの企業で実行することは非常にまれです。例えば、自動車を例にとってみましょう。鋼板やプラスチックなどの素材を生産する企業、それらの素材を調達してネジなどの部品を製造する企業、ハンドルやシャーシなどのユニットを製造する企業、最後に各部品やユニットを組み立てる企業など、自動車の製造工程は複数の企業で構成されています。ほかの製造業もほぼ同じです。つまり、材料から形を変えて製品が完成し、最終的に顧客に届くまでには、自社以外の様々な企業を経由することが一般的です。

ものづくりの流れ

従って、製品の品質や特徴づけが自社だけで完結することはなく、前工程の企業で材料がどのように作られ、後工程の企業や顧客に自社製品がどのように使われるのかを理解することも求められます。

(3)現場ごとに個別最適化された複雑な業務

製造業が製品を生み出すプロセスには失敗はつきものであり、時には人命や企業の存続さえも脅かす事故や失敗を経験することがあります。一見遠回りに見える業務でも、実は作業者の安全を確保する仕組みだった、トレーサビリティを担保する仕組みだった、などの事例が多くあります。

このこと自体は特段に珍しいことではありませんが、日本の場合はこの仕組みづくりを「カイゼン」や「QCサークル活動」のような形で、ボトムアップで現場が主導して行う文化が根付いています。

つまり、企業間で画一化された手法ではなく、企業ごと、もっと言うと現場ごとに考案された手法で実施されることが多く、業務もこれらの手法で最適化されてきた経緯があります。これに対してシステム側はなるべくロジックを汎用化するように作ろうとするため、なかなかに相性が良くありません。業務にシステムを合わせるのか、システムに業務を合わせるのかの難しい選択を迫られ、DXやシステム開発を難しくしています。

以上の3つが製造業の際立った特徴です。これらの特徴は、いざDXやシステム開発を検討・実行しようとするIT担当者にとって、随所に高度な専門性を要する加工と複雑な商流・業務への知見が要求されることを意味し、その結果として「製造業のDXやシステム開発は難しい」原因となっているのです。

3.製造業のIT担当者には何が求められるか?

それでは、製造業に携わるIT担当者には何が求められているのでしょうか?端的には先ほど申し上げた3つの特徴への理解が求められているのですが、もう少し表現を変えると、

「各製造業企業のバリューチェーンを理解し、製品の生産プロセスを理解することによって、上流工程や下流工程との間でやり取りされる情報やデータを理解する」

ということです。

「バリューチェーン」とは、製品を生み出す横のつながり(企業のつながり、部門のつながり、業務のつながり、工程のつながり)のことで、「バリューチェーンの理解」とは、いつ、誰(何)が、どうやって製品を企画・設計し、生産準備、受注、生産計画、材料調達、生産、出荷、販売、サポートするのかを理解することです。

また、「生産プロセス」とは、製品が生産される仕組みや工程のことで、「生産プロセスの理解」とは、いつ、誰(何)が、どうやって材料を加工したり、組み立てたりして製品を造り上げるのかを理解することです。

この2点を理解することによって、DXやシステム開発のターゲットとしている業務や工程が「バリューチェーン上」や「生産プロセス上」のどこに位置しているか、その上流工程や下流工程に何があるか、の理解に繋がり、自ずと、それらの間で連携されている情報やデータを理解することに繋がります。

つまり「バリューチェーン」と「生産プロセス」を理解せずに、DXやシステム開発を進めてしまうということは、ほかの工程や業務との情報やデータの連携ができず、ターゲットとなった工程や業務のみのピンポイントの課題解決にしか対応できないサイロ化されたシステムを作りこんでしまうリスクを抱えることになります。これには、「ほかの工程や業務への影響を少なくしたかった」とか、「プロジェクトの期間やリソースが足りなかった」など、担当者の言い分も聞こえてきそうですが、結局、後々になって業務やデータを統合しようとする試みの障害となっているのを、非常に多く目にしてきました。

重要なのは、「バリューチェーン」や「生産プロセス」の理解が、DXやシステム開発のターゲットに対する上流工程や下流工程との連携、つまり「情報やデータのやり取り」の理解に繋がる、ということであり、この理解こそが製造業のIT担当者に求められることです。もっと言うと、IT担当者が「バリューチェーン」と「生産プロセス」を理解する必然性をプロジェクトのステークホルダー全員に共有しなければならない、ということです。

おわりに

第1回の今回は、製造業の全体像として製造業の特徴と、製造業に携わるIT担当者に求められることについて考察しました。

何やら最初から大変そうな内容ではありましたが、あらゆる製造業企業が全く異なる観点で業務をしているかというと、そんなことはありません。

大括りで日本の製造業の枠組みの中で、同じ法律の下、同じ商習慣の下、同じ価値観を持った人間同士が互いに関わり合いながら「ものづくり」に携わっているわけですから、製品を設計し、生産ラインを作り、生産計画を立て、材料を仕入れ、生産し、検査し、梱包し、出荷するという大枠の業務と、それらに付随するシステムの根幹は基本的に同じです。

つまり、困難と言われる製造業のDXやシステム開発であっても、根幹となる知識と押さえるべきポイントを把握し、その解決のノウハウを知っておくことで、難易度のハードルを下げ、プロジェクト成功への筋道が立てられるようになります。このnote連載記事では、そのための知識やポイント、よくある壁と解決のノウハウを、実例を踏まえながら紹介しますので、是非ご期待ください。


この「現場で使える!コンサル道具箱」は、その名の通りすぐに現場で使えるコンテンツを無料で紹介しているnoteです。
あなたの欲しい道具が探せばあるかも?ぜひほかの記事もご覧ください!

ウルシステムズでは「現場で使える!コンサル道具箱」でご紹介したコンテンツにまつわる知見・経験豊富なコンサルタントが多数在籍しております。ぜひお気軽にご相談ください。