第4章 eスポーツチームを経営するということ 【全文無料公開】 #1億3000万人のためのeスポーツ入門
はじめに
この本の原稿を書きはじめてから、もう気づけば半年弱が過ぎ去ろうしています。時が経つのが本当に速く、気づけばもう弊チームは来シーズンの事を考えるシーズンに差し掛かっています。
さてそんな折、「そろそろ全文公開していこうか」と著者陣で話がありました。全文公開をする事は元々予定していたのですが、もうそんな時期かと。改めて見るとなんだか気恥ずかしく、再度読む事で初心に戻る事もあり、非常に感慨深く画面と向き合っております。
書いてから半年経ての感想文を文末に綴りましたので、ご興味がある方がいらっしゃいましたら是非終わりまでお付き合い頂ければ幸いです。
あっとその前に・・・
本日リリースがあったので、こちらもよろしければ是非!
紙の本も結構良いですよ・・・!まぁでもネットでも無料で読めるんですけどね。
では早速、いってみましょう。
読んだことある!という方は末尾へ
ーー以下全文無料公開ーー
eスポーツチームを経営するということ
西谷麗
1988年生まれ。株式会社Wekids、及び株式会社Rush Gaming代表取締役社長。英国系ソーシャルゲーム会社のPlayfishにて、日本支社立ち上げの第一号社員として参画。プロダクトマネージャー、ゲームプロデューサー、データアナリスト等を経て独立。2014年にゲーム系マーケティングWekids創業、2018年にeスポーツチームマネジメント会社Rush Gaming創業。
ツイッター https://twitter.com/ularatter
ウェブ https://note.mu/ularatter
Rush Gaming https://www.rushgaming.co/
Wekids https://www.wekids-inc.com/
e スポーツ= マイナースポーツ
Rush Gaming(ラッシュ・ゲーミング、以下ラッシュ)というeスポーツチームの名を聞いたことはあるでしょうか。おそらく多くの人は初めて聞く名前だと思います。そもそもeスポーツにチームがあるということを初めて知った人もいるかもしれません。
ラッシュは、プレイステーション4をプラットフォームとした、日本でも絶大な人気を誇る『コール・オブ・デューティ』(CoD)という、1チーム5名で闘うシューティングゲームで主に活動しているeスポーツチームです。アジア大会や日本のリーグで連覇を果たしてきた『CoD』のチームを母体に、2017年月から本格的に事業としてスタートしました。
2018年2月には優勝賞金500万円という高額賞金大会で優勝し、日本で初めて世界大会への出場権を獲得しました。その後、メンバーの脱退という事態から王座陥落という苦汁を舐めましたが、2019年3月には新メンバーを加え、世界大会をかけた日本代表戦を勝ち抜き、日本王座を奪還しました。
現在所属するメンバーは、選手とストリーマー合わせて9名(スタッフを除く)。主な活動は、大会出場、ユーチューブやツイッチでの配信活動、グッズやアパレルの生産・販売、他にもeスポーツを通じた青少年教育や、eスポーツに関する普及啓発を行っています。年間で約1000人以上がパーカーやTシャツなどを購入し、イベント会場ではサインや写真を求めるファンが2時間待ちの行列を作る程の、自他ともに認める人気eスポーツチームです。
eスポーツチームを経営するという未知の世界に飛び込んだ私ではありますが、実のところつい数年前までは、eスポーツチーム経営なんて日本では絶対にやらないと思っていました。個人的な話になりますが、私の父は数学を教えることを主な仕事とし、長年自身で医歯薬系の予備校を経営しながら、合気道の道場をひらき、武道と学問を通じて生涯青少年教育を人生の柱としてきた人でした。また、長年ボクシングの日本チャンピオンなどのアスリート支援や、障害を持つ人たちの支援なども行っていました。そのような父親に育てられると、否が応でも教育への想いやアスリートに対するリスペクトを持って育ちます。同時に、ボクサーや、テニスプレイヤーをはじめとしたアスリートがいかに難しい職業かというのも分かります。
チームを運営している今でもその考えは変わらず、「eスポーツで食べていく」というのは、この日本においてはマイナースポーツで食べていくことと大変近しい概念だと思っています。もちろん、スポーツ業界も変革の兆しがあり、希望がまったく無いわけではないですが、決して分かりやすい成功の道が整備されているわけではありません。また、ゲーム一般への社会からの視線が決して良くないこと、これも現時点では否定できない事実ですし、そう思われても仕方ないところもあります。
ですので、私がここで述べることは、決して良いことばかりではありません。むしろ、eスポーツチームを経営することの苦悩と課題を感じてもらうことで、逆説的にですがeスポーツの希望を語りたいと思います。「Rush Gaming」の活動を紹介しながら、私自身が心の底から感じている、eスポーツが今この日本においてなぜ必要なのか、社会的価値があると感じているのかを話していきます。
ある青年との出会い
2016年9月、私が経営するマーケティング会社Wekids(ウィキッズ)のオフィスのドアを叩いてきた青年がいました。その当時大学3年生、20歳だった彼は、就職活動の一貫として訪ねてきました。〝GreedZz(グリード)〞という名の彼は、なにか人を惹き付ける不思議な魅力を放っていました。その彼こそが、eスポーツが何かを知らぬ私に、衝撃的な原体験を与えてくれました。彼(とそのチーム)は出会った翌週に、『CoD』のアジア大会で見事に優勝を果たしたのでした。試合を見ていた私は、筆舌に尽くし難い感情を体験しました。そのゲームをまったくプレイしたことがないにもかかわらず、彼からアスリート性を強く感じたのです。私は非常に心が動かされました。「きっと日本の若者の新しい希望になる」。そんなことを確信し、すぐに彼個人をスポンサーとして支援することにしました。
その後、グリードとチームは破竹の勢いで成長を遂げます。『CoD』リーグにおいて長年一強だったチームを何度も倒し、アジアチャンピオンと日本チャンピオンを次々と勝ち取ります。そこで、試しにスポンサーTシャツを作ってみたところ、販売初日に約50枚、およそ15万円の売上を上げ、彼らの人気に驚かされました。
とはいえ私が当時彼らを見ていた目は、ビジネスチャンスがあるかといった視点とは程遠く、気がつけば夢中になっていただけなのです。彼ら一人ひとりの活動内容、発する言葉、日々の努力から、目を離せなくなっている自分に気づきました。それもそのはず、彼らは、毎日のように新しいコンテンツを、自らの手で日々提供していたのです。グリードを始めとした選手4名が、それぞれユーチューブにゲーム実況動画も投稿し、毎日の練習試合の様子を生放送で配信していました。それはまるで、リアルタイムショーを見ているような感覚でした。夢中になっていたのは当然私だけではなく、もうすでに圧倒的なブランド力とファン層を構築していたのです。
当時の彼らのチームは、共通の趣味・目的をもって集まっている、一種のサークルのようなものでした。企業ではないですし、当然スポンサーもいません。毎日のように配信しているとはいえ、なぜファンの多くが継続して熱狂しているのか最初は不思議に思いました。ですが、すぐにその秘密が分かりました。圧倒的なリーダーがいたのです。〝ハセシン〞という、CoDプレイヤーなら誰もが知っている大人気ユーチューバーが、リーダーとしてチームをまとめ上げていたのです。彼の凄さは、チームメイトが彼の広報力やお膳立てに受け身に頼り切るのではなく、それぞれが自らゲームシーンを盛り上げるよう、チームメイトを鼓舞し、能動的に発信させ、チームを一つの有機的なまとまりにまで高めたことにあります。ここに、後々のラッシュの経営方針の最大の特徴、原点がありました。
実は、ラッシュとしてeスポーツチーム運営を決意する1年程前からずっと、グリードからチームのスポンサーになってもらえないかという提案を受けていました。その当時の私は、まだまだ彼らの社会的価値を信じられず、断り続けていました。しかし彼らの、継続的に努力する姿、新たなことに挑戦し、結果にコミットする姿勢、チームを支えてくれるコミュニティやファンへ自発的に発信していく姿、こうした活動を見て、多くの若いファンたちが感動し、影響されていることを1年かけて実感し、2017年11月にラッシュとして共に歩むことを決意します。
ビジネスとして向き合う
さて、このチームの不思議な魅力に浮かされた私は、いよいよビジネスとして向き合うことにしました。私が考えるeスポーツチーム経営のビジネスモデルは、至ってシンプルです。売上の構成は主に以下の三つになります。
① ファンからの直接的な売上(グッズやイベント売上・ユーチューブなどの配信売上)
② 企業からの売上(スポンサー協賛や、単発での広告案件、番組出演など)
③ 参加リーグからの売上(チームが参戦してるリーグからの出演費や、賞金など)
①はB2Cビジネス、②B2Bビジネスとなり、③はリーグが存在する種目(ゲームタイトル)とそうでないもの、金額が大きいもの小さいものと、状況は様々です。これら三つの最大化を、eスポーツチームのマネジメントを行いながら目指すというのが基本的な仕組みとなります。
チーム経営を行ううえで、私が最も重要だと思っているのは、①の「ファンからの直接的な売上」を最優先することです。
当たり前かもしれませんが、ファンがグッズを買ってくれるチームには、それだけの人気とロイヤリティがあります。ゆえに、パートナーとして協賛ないしはプロモーションなどの案件を発注する側に、ラッシュはメリットを提供できるのです。月々100万円の協賛をもらうことと、ファンからの直接課金で同額の売上を上げることは、金額は同じでも圧倒的に後者が難しいのです。ゆえに、そこに大きな価値があります。
事実、多くのチームは、②のスポンサー協賛費の獲得と、③に入る大会賞金、また当然競技チームであるがゆえの、大会の成績ばかりを追い求めがちになります。ファンそのものの獲得やファンから収益を最優先事項にし続けるのは、達成までにかかる労力と時間が膨大で、精神的にとても苦しいことです。
しかし、日本のeスポーツシーンにおいては、③にあたる、参加リーグからの売上部分がシビアなゲームが多いのが現状です。なかには、最低月給30万円の給与や、1億円の賞金がかかった大会など、多額の費用をゲームの販売元がチーム側に提供している場合もありますが、全く無いところのほうが多いのが現状です。eスポーツがにわかに盛り上がっているとはいえ、今後どうなるかはまだまだ分かりません。必然的に各チームは、自らのグッズ売上やスポンサー協賛費でほとんどの費用を賄うことになります。そのうえで、利益を上げることを目指さないといけません。だからこそ、業界のリーダーたちは、ファン(カスタマー)ファーストを徹底的に言い続ける必要があります。
ラッシュの事業戦略
そこで、ラッシュは創設時に三つの理念を掲げ、それに近づくための事業戦略を打ち立てました。
① 世界に通用する魅力的な選手、チームを輩出すること
② eスポーツ観戦の楽しさを最大化し、ファンへ感動を伝えること
③ ゲーマーのライフスタイルブランドになっていくこと
実力をつけ、ファンを熱狂させるようなチームを作り、世界を舞台に闘うこと。その背中とプレイをもってファンの方たちに希望や感動を届けること。さらに、eスポーツチームとして応援してもらうだけでなく、私たちのブランドを身に着けたりすることで、チームと一体となって人生そのものを楽しんでもらえるような、そんなチームにしていきたいと思いました。
そのために、最も重要な事業戦略が以下の二つとなります。
・徹底したコンテンツマーケティング
・所属選手の教育・プロデュース
コンテンツマーケティングの徹底
私たちの会社の最優先ビジネス項目は、先ほどの述べたように、ファンからの収益です。ファンにグッズを買ってもらうためには、買いたいと思うキッカケ作り、露出面の拡大、ターゲット層にあう商品作りなど、やるべきことはつきません。
初期はとにかく、コストを小さく様々な施策や商品を試し、データを集めました。その結果、現在のラッシュのストアでは、6000円から1万円弱のパーカーやユニフォーム、数百円から購入できる安価なシールセットやスマホリング、マフラータオル、キーホルダー、缶バッジなど、様々なファングッズの販売をしています。このなかでラッシュの売れ行き商品は何だと思いますか。実に驚くことに、販売個数でも売上でも、最も高額なパーカーやTシャツなどのアパレル商品が断トツに多いのです。
これには大きな理由があります。実はラッシュを事業展開する数ヵ月前に、私はアメリカの超人気チームであるOpticGamingのパーカーを買って、グリードにプレゼントしたことがありました。彼が大ファンであることを知っていたのと、日本からでは買えないためです。受け取った時の喜びようたるや、普段はポーカーフェースの青年がまるで幼子に帰ったようなはしゃぎぶりでした。世界のeスポーツ大会に何度か観戦に行ったことがありますが、会場に足を運ぶファンたちは皆それぞれ応援するチームのアパレルを着ています。「自分がかっこいいと思ったチーム、好きなチームの、かっこいいパーカーを着たい」というニーズが存在すると確信しました。
さて当然ですが、「かっこいいと思うチーム」「好きなチーム」という風に、好きになってもらうことが当然必要です。ラッシュは、まさに私自身が好きになったチーム。その魅力を伝えれば必ず成功に近づくと思い、それを日々実践・発信し続けています。
最大の投資対象は「ストーリー」
年間で試した施策は多岐にわたりますが、最も意識したのは「ストーリー」です。ラッシュというチームの魅力を深く伝えることを意識し、プロフェッショナルな写真撮影、インタビューやドキュメンタリー動画、プロモーションビデオ、ブログ記事の執筆などの制作を通じて、チームの雰囲気、選手やスタッフたちの人柄、葛藤や苦悩、喜び、普段は見られない舞台裏を出し惜しみすることなく発信していきました。配信プラットフォーム毎のコンテンツを最適化し、データ的にも分かりやすくインパクトの高いユーチューブやツイッターを中心に、インスタグラムやメルマガなど、それぞれに適したコンテンツ展開を行いました。
例えば、ユーチューブでは主にドキュメンタリーなどの大がかりなコンテンツや、大会の様子などをメインに配信しました。ツイッターではより拡散される短いコンテンツを意識し、日々の練習試合のエンタメ化を促進し、リアルタイムで試合中の名シーンやスーパープレイをクリップし投稿していきました。そこから選手個人への配信へ誘導し、選手たちのリアルタイムのプレイ姿、練習の様子、雰囲気、声などを感じてもらえるように工夫していきました。
ストーリーや魅力をファンに伝えるうえでもう一つ、いえもしかしたら最も重要なのが、選手個々人の発信活動です。もともとハセシンという強力なリーダーのもとにチーム内文化が形成されていましたが、ラッシュとしてスタートしてからはさらにそれを会社規模で推進していきました。アドビのソフトウェアの基礎的な使い方のコーチング、スマホで視聴されることを想定し最適化したサムネイルデザインの指示、視聴者の心をつかむ配信の仕方など、よりファンを増やすために必要な技術の指導を行いました。また、一人ひとりの努力が報われやすいように、チームで協力してメンバーをサポートしたり、視聴者数を伸ばすことで金銭的なリターンがあるようなインセンティブ報酬体系を構築するなど、「個人のメリットと会社のメリット」が同じ方向に向く仕組み作りを積極的に実施していきました。
こうした結果、ラッシュ事業開始から1年後にはチームと所属メンバー全員のSNSアカウントが大きく成長しました。0から始めた公式アカウントも、ツイッターは2・7万フォロワー、ユーチューブは1・3万登録者と、飛躍的に伸びました。グリードのユーチューブ登録者も、出会った当時は2万人程でしたが、今では13万人を超えます。また2016年当初、彼個人での収入は月
10万円にも満たないものでしたが、2018年には会社からの固定収入を〝除いて〞も、月単位で約100万円以上にものぼります。ハセシンに至っては、ユーチューブ登録者50万人を突破し、言わずと知れた大御所となり、その発信力の勢いはとどまることを知りません。
ラッシュのメンバー9名のうち4名は、個人のユーチューブによる単体収入だけで十分に自立し暮らしていけるほどに成長しました。他5名も今後の活動次第では勝算は十分にあるでしょう。また、アパレルなどのグッズ収入も、チーム発足から1年強で約1000万円の売上を上げることができ、引き続き今後の再注力分野となっています。
ストーリーの中身は、人
チームの成立からメンバーたちが何をしてきたかまでを主に書いてきましたが、実際のところ私が最も注力し、また気を揉むのは、選手そのものの教育と成長、そして彼らの成功です。というのも、eスポーツ選手たちが圧倒的に若いからです。ラッシュのメンバーは18歳から24歳が主です。ということもあり、私自身が最もやりたいことは、ゲーム活動を通じて若者たちを教育し、未来への希望を伝えることです。そのために、メンバーたちを人としても選手としても育て、事業としても成功させることが、eスポーツシーンの発展にもつなげられると考えています。
ラッシュでは、所属メンバーを基本的には「eスポーツ選手」と呼ぶブランドポリシーがあります。生きる術として、職業としてのゲーマーが成り立たない選手は、プロライセンスを持っていようが、スポンサーが多少なりともついていようが、決してプロゲーマーとは呼びません。また全メンバーに、「学業」あるいは「発信活動」と選手活動を両立してもらうのも、ラッシュの特徴的な考え方です。学生には学業を、すでに学生ではない人には発信活動を。場合によっては外で働くことを推奨しています。そのうえで、会社としては惜しみなく個人のエンパワーメント、言い換えれば「個々人が自ら稼ぐ力」への投資、プロデュース及び教育、そして戦力アップへ資金を投下しています。
本気でチーム戦力を上げるため、フルタイムのコーチ及びマネージャーがつき、日々の練習を体系化するだけでなく、ドキュメント制作やデータ収集にも力をいれています。またアメリカからアナリストを採用し、練習では英語で指導してもらっています。私自ら通訳をすることもあります。また英語学習を希望するメンバーには、専属の英語教師による週2回のレッスンを提供しています。英語は、彼らが今後何を目指すうえでも非常に有用なスキルなのは言うまでもありません。メンバーが今の活動を軸に、さらに世界へ活躍の場を広げ視野を広く持てるようにするために、英語学習は非常に重要だと思っています。ファンのなかには時折、ラッシュの活動を見て英語を学びたくなったと発言してくれる人たちもいます。そんな瞬間が私はとても嬉しく、やりがいを感じます。
選手とスタッフとの親密な関係性も大きな要素です。それぞれのこれまでの人生、家庭環境、抱える不安、将来への希望などをお互いに理解することの重要性は語るまでもありません。まだまだ黎明期のeスポーツシーンを乗り越えていくために、選手、スタッフの全員が共に困難に立ち向かい、時に挫折し、出会いや別れを経ながら前進していく姿こそが、私たちラッシュの最大のストーリーなのです。
ラッシュの営業方針
B2Cを中心に活動を紹介してきましたが、当然ながら、中長期的にはB2Bの売上も重要な売上構成要素の一つです。企業への営業について、創業当時より掲げていた大事なポイントがあります。
・私たちの活動、経営理念、社会的意義を理解してくれるパートナーと組むこと
・自分たちの価値、数字を正当に説明し、水増しをしないこと
・値段は自ら決め、安売りしないこと
・パートナー枠はしぼること(最大6枠、年間で1〜2枠程しか増やさない)
・投資に見合う価値を必ず返すこと
・自分たちが良いと思うプロダクト・ブランドしか扱わないこと
ラッシュは、いわゆるスポンサー、協賛にあたる企業を、パートナーと呼び、事業を共にすることを特に重要視しています。特に、経営理念と社会的意義に関して、共感し共創しあえるかどうかが最も重要です。一方で、ビジネスとして利益を返すことにも真摯でありたいと思っています。パートナーのために様々な企画やコンテンツ制作を行い、マーケティング施策として価値のあるチームであることが私たちのプライドです。そのためにも、自分たちのありのままの数字、そして成長度を伝え、無闇に所属選手や取扱部門を増やしていい数字を見せようとはしません。また、協賛金だけでなく出演費や広告案件などの費用も、自分たちで考えて積み上げた料金設定を守ります。だからこそ、その金額を支払い、お取引してくださるパートナーへは、全力で価値をお返ししたいと思っています。
ラッシュの最初のパートナーは、オーディオメーカーのSENNHEISER(ゼンハイザー)でした。ゼンハイザーの作るヘッドセットは世界最高峰の品質ですが、その分高額で、一つ3万円前後もします。ゲーミングチームのファンには若年層が多く、一見ビジネス戦略としてはミスマッチしているように見えます。ですが、パートナーシップ締結後は、日本国内での売上が歴代最高となり、数ヵ月にわたって供給量のコントロールがきかずに品薄状態が続きました。また、三井住友VISAカードともパートナーシップを結び、1ヵ月のアメリカ遠征とコラボしたプロモーション施策を実施しました。
普段の選手活動だけでなく、ヘッドセットやクレジットカードなど、パートナーのブランドの魅力を伝えるために多くのコンテンツ制作に注力し、施策が終わったあとは効果測定及びレポート報告までを行います。ラッシュはこのやり方で、向こう5年間程で6社程のパートナー企業とご一緒したいと考えています。
次のステージにむけて
と、ここまでは華々しく書いてきました。たしかに2018年前半までは名実共に日本ナンバーワンチームの座を欲しいままにしていたラッシュですが、2018年後半にはメンバー半分の脱退を招き、ナンバーワンを維持することは叶いませんでした。追い打ちをかけるように、カリスマ的な人気と大きな戦術的要を果たしてきたグリードが、生命線とも言える眼の重大な故障により、急遽無期限の休養に入りました。スポーツ選手と同じく、選手生命やセカンドキャリアについてなどeスポーツの課題は多く、日々私たちも試行錯誤をしています。幸いにして、この後2019年3月、新メンバーを加えた新生ラッシュは奇跡の復活を遂げ、世界大会をかけた日本代表戦を勝ち抜き、日本王座を奪還しました。私たちのストーリーの第2章の幕明けとなりました。
ラッシュの運営方針は、選手にとっても大変厳しいものです。朝から学校に通い、帰宅後は動画制作などの発信活動をし、そのうえで深夜におよぶ毎日5時間ほどの練習があるという活動内容は決して万人ができることではありません。一流のスポーツ選手は学業をおろそかにしませんが、eスポーツ選手たちも同様でなければなりません。また、学業だけでなく、働く経験からの学びも大変に重要です。ゆえに、ラッシュでは「eスポーツ選手だからといって働かなくていい」とは決して言いません。ゲーム活動以外の様々な経験が人としての成長を促し、結果としてチームと組織を強くしていくのです。
現在、高校の部活動にeスポーツが取り入れられはじめています。ゲームを通じて一つの目標を目指し、仲間と協力し、日々努力をするのは素晴らしいことです。eスポーツが社会に対して価値を発揮し認められるためには、このような動きが重要です。しかし、ゲームである以上、当然良いことばかりではありません。身体を動かすスポーツと比べて憂慮しなくてはいけない側面もあれば、メディアで報道されるゲーム障害といった解決すべき課題も多くあります。
だからこそ、eスポーツシーンで影響力を持ちつつある選手や関係者たちが先頭に立って課題と向き合いながら、eスポーツの発展と振興に向けて動くことが責務であると考えています。私自身もRush Gamingを通じて、若い世代が社会への希望を抱けるよう、これからも邁進していきます。
ーーーーーー(本文公開ここまで)ーーーーーー
あれから半年
さてさて・・・・いやはやなんともこう、なんですかね。
今読んでみると、肩ひじをはってるというとか、現実的じゃないというか、背伸びしてるというか(苦笑)
なにが邁進していきますキリッ だよ・・と、なんというかやや複雑な気持ちになります。
本文で表現してるような、明快で迷いのない戦略と、優秀なチームとが揃って日々順風満帆です、、、、なわけないでしょうと。
ハセシンやグリードが背中を見せてるから皆が見習って配信活動しているRush、人間教育がしっかりしてるRush、英語も教えてくれる、学業も両立できる、選手にはなんの不満もなく、やってること全てに意味と計画性があるRush、、
ちがうんです。語ってる事や思い考えに嘘は無いけども、全てが全て実現出来ているかといえばそうじゃない。んなわけがないんです。
さぁ長くなりましたが、最後のおまけとして、eスポーツチーム経営に夢を抱く人の夢をへし折りかねない、葛藤する理想と現実についてほんの少し触れたいと思います。(たくさんあるので、シーズン終わったらたくさんブログ書きますね。今年版現実のお話を。)
葛藤①)学業・就業 ・戦績の両立への葛藤
Rush Gamingでは、所属選手に学業あるいは就業を義務づけている、と本では書きましたが、実際のところ様々な理由で苦戦しているところです。意思決定者として今年最も苦悩しています。
まず戦績ですが、非常に重要なのは言うまでもありません。気持ちやプライドの問題だけでなく、事実売上に戦績は大きく連動しています。強いだけじゃ儲かるほど数字があがりませんが、日々の営業努力の最大の成果を出す為に最終的に必要になってくるのが戦績です。これは日々の選手が行っている練習試合配信の数字を見ても明らかです。強く、勝ってるチームは同時視聴者数がそれなりに多く、そしてチーム内においてもより戦績が良い、ないしは個人技が上手いとされる選手に多く視聴がつく傾向があります。もちろん、それ以上に要因として大きいのは普段から動画投稿をしているか、認知がされているか、等もあり一概には言えません。ですが認知向上の努力もした上で、戦績が良い事が重要なのは日の目を見るより明らかです。
しかしラッシュは、米MLG社主催の国内大会では3度優勝してるものの、SIE様主催の国内公式大会については一度も優勝出来ていないだけでなく、満足に上位争いをしたのも第3回のただの一回きり。そもそも、eスポーツはほぼ全てのタイトルにおいて世界レベルで戦えるか戦えないかが大きく企業、並びにチーム価値、評価額を分けるポイントです。
では、国内大会ですら実績を残せないチームに、投資価値はあるのだろうか?と疑問に思う声も当然あって然るべきです。
フルタイムのマネージャー、デザインやサポートスタッフが少なく見積もっても4名、そして後述する練習拠点「Rushベース」の維持費や遠征費、選手の機材や諸々の移動費・諸経費などを含めると、こんな小さな組織でかつ固定給が無い弊チームでも、少なく見積もっても年間2500万円以上の費用がかかっています。(海外トップチームでは1部門の年間予算は最低でも2億円以上という世界なのでレベルが違いますが)実際は、この一部を運営代理契約を結ぶWekidsが負担し、もっといえば、自分の給与は一旦度返しでやっていますが、社長の道楽と呼ぶには大きな金額です。
※ちなみに、一般的な経営的視点に立って述べているだけで、まだ個人としては投資していきたいと思っているんですよ。Wekidsというコミュニティマネジメント、マーケティング、ファンマーケティングのBtoB企業を経営してる弊社としては、広告塔としてもCSRとしても、仮に赤字であったとしても成り立ちはします。
とはいえ、勝って欲しい、勝ってもらわないと困る。
さてここで出てくるのが有限リソース、そう「時間」です。
当然選手は、就業(外でのアルバイトなど)なんてしたくありません。学校も行きたくないでしょう、さぼることもあるのではないでしょうか。就業を、なんとか始めてくれたメンバーもいますが、今日今この時点で既に2名が事実上私の再三に渡る通告を無視し続けており、実質私がシーズン前に最も嫌い、揶揄していた「ゲーミングニート」と化している事実があります。
誰が、何が悪いでしょうか。
それは他でもない、私です。経営者に、意思決定者に、リーダーに全ての責任があります。
勝ちたい、練習したい、ゲームしたい。できれば1時間でも多く寝ていたい。そう思うのは当たり前です。そしてそれを、「今週面接にいきなさいね」と言って、その週進捗管理をせず、時が経つのをただただ待ち、Rushベース居住ルールを作ったにも関わらず、それを守らぬ選手を排除することもなく、厳しい警告をつきつけるでもなく、そもそも選手が1人でも抜けると言えば運営そのものが立ち行かなくなる状況に甘んじている、私の責任です。
彼らに悪意はないと思います。でも、事実この状況で「ルールを守らなければ排除される」という危機感は生まれません。そしてまた、弊チームのように芸能ビジネス的な要素が高いゲームタイトル(賞金額が生活レベルに満たない、配信やイベント収益頼り)に身を置くというのも、やりたいことの理想と現実に歪を生んでる要因です。
そして、このテーマで酷く自分の不甲斐なさを痛感した出来事がありました。
アナハイム大会に出場が出来ないという事が決まり、予定していた遠征がなくなったのを受け、私はみんなに東京での一週間の練習合宿を提案しました。普段学生が2名いる弊チームですが、海外大会遠征の時だけは毎回教授の皆様にご説明をしたり、無理でも単位を泣く泣く落としつつ、普段出席等を頑張ることでなんとか海外遠征は参加しています。アナハイムに行かないなら、東京で練習しようじゃないか、と。そう思ったんですね。
意気揚々と「合宿楽しみだねー!」と通話を後にしたその翌日、1人の選手が「ちょっとどうしても言いたい事があるので時間いいですか」と言ってきました。そこで言われたのは、「うららさん最近、考え方がゲーミングニートよりになってませんか。合宿の為に学校に行かないで良い、ってそれって本当に学業と両立させようという意志はありますか」
心にグサリと刺さり、はっとしました。
そして更に追い討ちをかけるように、悩みは山積していきます。
フルタイムの選手が3人いて尚伸び悩む戦績、グリードが居なくなったあと事実として暴落した各種数値実績、反比例して高まるチームへの愛が意思決定を迷わせる。
なにかしてあげたい、ソリューションを提供したい。
人か?環境か?時間の使い方か?外圧か?
選手として育てるのか?どうしたらもっとタレント性が出るのか?
どうしたら、何をしてあげたら。
上限のあるリソースをどう割くのがいいのか。
そして1000週くらい回って、初心に帰ります。(また忘れたりします)
自分が出来ることだけを、最高クオリティでやるのみ
I(We) am not a esports playerですよ。(英語にした事に意味はありません)
私はeスポーツ選手ではないし、そうだった過去もありません。その人生、想像できても実感不可能ですし、しかも当たり前ですけど人それぞれです。ゲーム三昧で過ごした結果酷い40代を送ってる人の話も聞きました、犯罪を犯した人もいます。一方でその話は、同じくeスポーツで世界を制覇し、現在は全うなビジネスで多くの雇用を生み出す企業の社長から聞きました。
そしてまた私はYouTuberでもありません。ハセシンやグリードは、彼らが彼らで自らで頑張ってきただけで、私が育てたわけでもなんでもありません。もともとすげえ人たちを、更に凄くなる過程でご一緒させてもらってるだけです。結局は人それぞれ、環境が悪くてもやるやつはやる、やらないやつはやらない。
選手も同様です。これまで3年に渡り選手達と過ごさせて頂いてますが、強くなるやつは勝手に強くなるし、事実今強い子達は、うちのチームだけでなく、みんな教えてもらったり環境をもらったから強くなったんじゃなくて、自分自らで強くなってきたんじゃないでしょうか。
そんな子たちに、選手経験もなく、YouTuber経験もない私含めスタッフが「与えてあげよう」等というのがそもそもおこがましいわけです。
何ができるんだよお前に。やれることやっててくれよ。
これが本音じゃないでしょうか。端的にいえば「うるせえババァ」でいいし、事実うるさいって感じですよねw(男の子はそれくらいがいい)
そもそも学業と両立せよ、というのはある種最強のおせっかいです。
「うちじゃ金出せないから外で働いてきて、それでもやりたいならどうぞ」っていうタイプの「就業」と違い、「学業と両立せよ」に関しては、Rush Gamingのビジネス的な妥当性はストレートに考えると1ミリもありません。本人がそうしたいなら別ですが、私がそう指導するのは結局「何かを教えたい・与えたい」という大人のよくあるエゴです。学校に行けば強くなるわけでも、チームの売上が上がるわけでもありません。学校の良さを教えてあげることはよくても、チームで強制しても学校の意義を感じて自分で納得して行ってないなら意味はない。そして学校は将来を簡単に保証してくれるものでもありません。
というかそもそも、教えたいっていう前にてめぇが学べ、って話なのですよね(真顔)
親や周りが日々学んでいる環境に身を置く子供は学ぶ習慣がつきやすいのは有名な話です。
(自分に本当に思うのは、酒飲んで酔っ払って説教たれてる暇あったら稼いでこいよだし、ブログの1つでも書けよ、って話です。(自戒を激しく込めて))
とはいえまた、良い本や記事があればシェアするし、ことあるごとにやっぱり勉強はしたほうが良いよっていうとは思うんですけどね()
まぁでも、選ぶのは本人です。
死ぬまで一緒にいるのは、他でも無い自分自身。
どんな世界を見て、知って、選ぶのかは、自分次第。
成功するもしないも、自分次第。
勝つも負けるも自分次第。
負けて泣くのも、周りを悲しませるのも、自分。
勝ったあとの世界を、誰と、どんな風にみたいか。
それも全て、自分次第。
だから私たちマネージャーやスタッフ陣も同様、チームをビジネスとして成功させる為に最低限必要なナレッジや経験、スキルはそれなりに揃えてると自負していますが、学び続け、成果を出し続けるしかありません。
それが私達の「仕事」であり、「プロ」として責務だと思います。
例えばRushベースはじめとした環境整備も戦略的投資です。選手たちのハングリー精神を奪ってしまってるのではないかと迷った時期もありましたが、そんなんで無くなるならもうそのレベル。
戦略的にやったことが効果が出ないなら、撤退したり新しい施策を試す。
伸びない事、人を諦めるのも時には必要なんです。
全員が必ず成功する方法が必ずあるわけではない。
私達はそう、当たり前のように、「個人より会社、全体」を優先すべきなんですね。
自ら強くなろうという人が、ちゃんと伸びる環境を作る。(うわぁなんて当たり前・・・・)
助けが必要なときに、助けてあげられる。
一緒に伸びれる相互関係でいたい。
私達は、私達の仕事を全うし、彼らが頼れる、参考に出来る大人でありたい。共に間違いながら、失敗しながら、時に敗北を味わいながら、毎日を必死にもがき苦しみながら、一筋の光を追い求めたいなと思います。
終わりに
理想って本当に掲げるのは簡単です。
eスポーツを通じて、希望を、夢を、若者へ未来の選択肢を少しでも提示したい。これは本当に変わらない想いだし、やっぱりしっくりくる私のミッションだなぁと思います。
時にこうやって現実を伝えていくのも、少々頼りない社長に見られるかもしれませんが、一方で現実的であることを伝える方が本質的にやりたいミッションの実現に近づくとも思っています。
マイナースポーツです、儲かりません。
綺麗事だけじゃ生きれません。
だからこそ、そこでガチで生きようとしてて強いやつらが、
かっこいいじゃないですか^^
プロゲーマーになりたいってツイートしててもダサいし、
人に教えてもらってやろうとしてるのもダサいけど、
ガチでその道を切り開いてるやつらは、やっぱりまじでかっこいいんですよ。
私はいつも、いつまでも、グリードと出会った時を忘れないし、ハセシンにはいつも助けられてるし、レッドのガチアスリート感、本当にもっともっと伝えたい。
Rushのスタメン5名の、必死に生きる姿から、きっとこれを読んでるみなさんにも、何か伝わるものがあるはず。
今eスポーツに一番いらないと思う職業
・選手のケアという名の誰でも出来る雑用サポートだけしかできない
・eスポーツを盛り上げたい!っていうだけで、文章やメールもろくにかけない、言われないと書かない(特にメールレベルはかなりやばい
・なんでも教えて教えてで自分で学んでいない
・めっちゃ甘やかす
・・・・・はい、最後の1文は私です。
もうしばらくRushベースには行きません()
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