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LINEと公共と市民参加と ~LINE Smart City Meetup #5 記録~

 2021年2月18日~19日において、LINE Smart City Meetup #5 に参加させていただいた。この体験について、今現在でのまとめと、今後への還元について記録しておきたい。

LINE Smart City for Fukuokaとは

 LINE Smart City for Fukuoka は、LINE Fukuoka における Smart City 戦略室(以下戦略室)により進められている、福岡市全体における行政と住民のコミュニケーション政策である。戦略室は福岡市の高島市長のリーダーシップも借りつつ、日本国内において人口に膾炙しているLINEプラットフォームを利用し(Life on LINE)、行政と市民との距離を近づける(戦略室はこれを ”Closing the Distance”と強調する)。この点については、他のスマートシティがデータの収集と分析、都市全体の最適化を行う姿勢を見せているのとはかなり色が異なる。
 ワークショップの中で戦略室長の南方氏は、スマートシティは地方創生戦略の一環であると語り、山口周氏の議論(ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す より)を引用して「地方創生」事業について疑問を投げかけた。課題解決の難易度が高く、課題の普遍性は低い地方創生ビジネスは、経済合理性の外に位置するビジネス形態になってしまっているという。これに対応するため、南方氏は「独自性」と「普遍性」、さらに「経済合理性」を高めるプロセスの採用を目指し、AiCTを中心とする会津若松市スマートシティと並ぶ形で、福岡におけるスマートシティを推進せんとしている。これについては南方氏がワークショップ後に執筆されたこちらのnoteが詳しいが、個人的には違和感を持つ言説である(後述)。

LINE Smart City for Fukuokaにおける市民参加の現状整理

 LINEによるスマートシティ戦略は、行政と市民のコミュニケーションで成り立っている。ここで考えねばならないのが、「市民参加」の文脈であり、つまり市民が行政に対してどのようなアプローチでかかわっているのか、という点である。
 戦略室では、市民への情報提供について積極的に行っており、避難訓練の実施働きかけをはじめとして、市民の行動を変える情報提供を積極的に実施している。ただ、市民「から」の情報収集については、道路や遊具、その他の公共施設の修繕に係る情報のみであり、情報提供体制と比してきわめて貧弱であると言わざるを得ない。この状況は、今のLINE Smart City for Fukuokaの体制の不十分さを示していると考えられる。この理由は以下の2点である。
 まずは情報提示の非対称性である。行政側は広範な種類の情報について、LINEプラットフォームを通じて「開示」できる一方、市民側は一部の、それも原状復帰に関する「開示」(⊂聴取)しか行えない。
 もう一つは市民参加レベルの低さである。市民参加のレベル分けについて、江守、伊澤、横山(2009)※1は4段階に分類している。この中で「聴取」は市民側からの開示として行われる一方、窓口が限定的であるが故に参加におけるレベルとして最も低いものとなる。さらなるレベルアップには、シェリー・アンシュタインの定義による「形式だけの参加」から「意思のある参加」へ、さらに「住民の力が生かされる」段階へと深化させねばならない。現状の福岡はこれを実現する「提案・提言」の段階から上へと突破するスキームを持ち合わせておらず、若干の力不足感は否めない。

文献1より。

 レクチャー後に質問させていただいたところではあるが、南方氏はこの問題についてある程度承知されているようであった。現状での市民参加をどのように実現しているのか、と問うと、先の修繕要請プログラムや避難訓練の事例を挙げつつ、「実際の所、実現には程遠い状況」との認識を示されていた。

市民参加推進において見習うべき点

 一方で、戦略室のアプローチ方法として、見習わねばならない箇所も多々見受けられた。
 まず一つは「半径5メートルのかかわりを重視する」点である。自分からかなり遠い場所、それこそ行政機関の計画などについては関心のわかない場合は多い。であるからして、自らの近くにあるものへの関与を通じて、市民参加の「手触り感」を演出しようというのだ。具体例としては、ワークショップの中で戦略室の北原氏があげていたのだが、「一人一花運動※2」における市民参加があげられる。これは福岡市住宅都市局一人一花推進課が旗を振るもので、「花を通じて共創の街づくりを進める」をコンセプトにしている。企業や市民が参加して、都心部ではスポンサーを公募、身近な拠点ではNPOをはじめとした住民団体、民有地における個人の活動という3段階で花、緑の共創を目指す。
 もう一つは「小さな成功体験を重視する」点である。市民と行政の距離はかなり遠く、それを近づけるためには小さなステップから始める必要があり、急激に上の段階には行けない。これを少しずつ解消するためという目的もあって、改善効果が見えやすい修繕事業を初期に導入したと聞いた。

LINEと論議空間:コモンズへの参画

 1日目の最後に、少し時間を取っていただいて、南方氏に戦略室の今後や公共への参加について伺った。私の従前からの考えとしてまず、公共交通を舞台として、利用者と事業者の対話が難しい点を指摘している。これを前提として、住民の声を代弁でき、かつ公共交通利用が収益に直結する主体を公共交通政策に噛ませることを目標とし、研究活動を行っている。このような立場を踏まえ、LINEが福岡市民の声をどのように届けていくのかについて、見解を伺った。
 南方氏は、「政策論議を行ってそれを行政へ反映するのは最終段階でとなる」としながらも、「日本はエストニアにも慣れないし、深圳にもなれない」とした。国民性や既得権を背景として、彼らのシステムを輸入しそのまま導入するのはかなり困難であり、新たなシステムの設計が必要と考えていらっしゃるようだった。

イベントを踏まえた私の考え

 今回のワークショップを踏まえて、私自身の考えをここに記録しておきたい。
 まず、公共の論議空間を担う存在として、LINEはある程度の大きな役割を果たせるかもしれない。というのも、システムへの信頼度が高い点こそが、オンラインの意思表示において重要と思えるからである。南方氏の上げるエストニアを例にとると、エストニアと日本において政府への信頼度はさほど変わらない(※3、下図)。これを踏まえた議論として、私の友人とおこなったところであるが、政府の導入するシステムの独立性、信頼性が担保されているのではないかと考えている。このような要件を満たすうえで、LINEという存在は最適であろう。ただ、LINEが現在持つプラットフォームがそこまで論議に向いていない点を含め、ある程度の改善が必要と思料される。同様のシステムとしてバルセロナ発のプラットフォーム、Decidimがあるが、こちらは日本国内の導入があまりうまくいっていないように見える。

 次に、「持続性」と「独自性」、「経済合理性」の調整は地方創生を達成するうえで必ずしも重要な指標ではないと考えた。山口氏の理論をかみ砕けば、「課題解決の難易度」と「課題の普遍性」をそれぞれ調整することで、事業の経済合理性を担保できる。南方氏の掲げる独自性の向上は普遍性を減退させる上に、持続性に関してはアクター其々が経済合理性を達成するからこそ担保されるものであろう。調整するのであれば、独自性を挙げつつ課題解決の難易度を下げる、これで十分ではなかろうかと提案したい。

 最後に、今回のワークショップを通じた少しの気づきを紹介して〆とする。提案したコンテンツとして、LINEと地図を利用した「LINEマップ」というものを提案した。都市計画に関する様々な課題について、住民がコメント付きで地図上へプロットする機能を主軸とした。ただ、この実装に関しては、住民がどのような都市こそ必要か、というグランドデザインを共有せねばならない。ここは「いきいきとした質」の実現を目指し、パタン・ランゲージの再登板が来るかもしれない。


※1 http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/200906_no39/pdf/184.pdf
※2 https://hitori-hitohana.city.fukuoka.lg.jp
※3 https://ourworldindata.org/trust


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