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都市型索道の可能性と課題について:横浜の事例から考察する

本ノートは、石橋洋人氏主催「noteでしりとり!」1回目の記事となります。テーマは「リフト(索道の意)」です。

近年、フィンランド発の政策コンセプト『Mobility as a Service (MaaS)』と言うかたちで交通政策目標が具現化され、様々な交通再編、建設のムードが高まっている。多摩都市モノレールの延伸も然り、高輪ゲートウェイ駅を中心とした「東京ゲートウェイ構想」も然りである。これら構想の中では主に、公共交通網の充実と歩行者空間の確保が叫ばれている。
一方で、現状バスで結ばれている区間について、他の交通モードで代替しようとする動きも存在する。宇都宮で2022年に新規開業するLRT(Light rail transit、軽便鉄道)はその一つである。この計画では、芳賀・宇都宮地域の公共交通について、幹線としてのLRTを敷きバスとの接続を高めることで該当地域のバス再編を狙っている(1)。
このような中、横浜での導入が目前となりにわかに注目が高まっているのが、都市型索道(リフト)である。これは、観光用に利用されているようなリフトについて、都市内を周遊または通勤する手段として提供するものである。

横浜市での導入計画を見てみよう。このロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN」は桜木町から新港地区・運河パークを結ぶ路線であり、2019年に導入されたバス路線「ピアライン」と重複することになる。さらにこの路線は、既に存在する歩行者空間である汽車道と完全に重複する。これは「水際線」へ向かう「都市軸」の枝分かれとして整備されているもので、今回の索道はその補完的な役割を担うと思われる。路線総延長は1260m、運行間隔は12秒となる。運営は、みなとみらいで既に「コスモクロック21」などが設置される「コスモワールド」を運営する泉陽興業である。(2)

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実は都市へのリフト導入は、今に始まったことではなく、悪い地形の地区へ導入できる安価な交通手段として活用されている。景勝地でのロープウェー導入(日本では函館、箱根など)も去ることながら、都市交通としての利用価値をよく示しているのはコロンビアのメデジンだろう。以下論文(3)の内容を引用しながら解説してまいりたい。

メデジン市はコロンビア第2の都市である。公共交通の現状としては、都市に存在する谷間に高架鉄道が走り、そのフィーダーとしてメトロカブレと呼ばれるロープウェー、バスのフィーダーとしてエスカレーターが整備されている。
メデジンは、都市のすぐ脇にスラムが広がる典型的な同心円型都市であるため、これらフィーダー交通は低所得者向けに整備され、図書館、公園など教育施設の整備とも連動している。特に急斜面で整備され、以前はバスで通行していたものが、ロープウェイ化によって所要時間が半分になった。高架鉄道と近接して駅を設けられる他、ICカードで同一の決済システムを構築し、乗り継ぎもスムースになったという。(下図は文献3より引用)

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このメデジン・メトロカブレにおける1kmあたりの建設コストは10億円と言われており、30億円と言われるLRTより安価である(LRTコスト試算は(4)参照)。また、BRTのように低床ゆえに傾斜の制限がかかる交通手段とは一線を画し、どのような地形でも支柱さえ立てば活用できるという実装範囲の広さも持ち合わせる。
さらに、定員についても大きな可能性がある。またメデジンの実績から、自動循環式索道の運行頻度が12s/1リフト、定員が4人と仮定すると、輸送量は1200人/hとなる。これは現在の日本におけるBRTで使われるバス(定員129)の10台分程度に相当し、西欧で利用されるポピュラーなLRTの8台分でもある(5)。

一方で、都市型索道にも限界は存在する。第一に、実装範囲の限界である。「我が国におけるロープウェーの都市内交通としての役割に関する研究(6)」によれば、自動循環式索道(所謂ロープウェイ)の受容可能範囲はトリップ長300m~4200m、交通手段としての徒歩の受容範囲はトリップ長300m~2.4km(鉄道端末では600m~1.3km)、バスの受容可能範囲は0.6km~1.2km(鉄道端末では0.6km~2.1km)であり、ロープウェーは主に2~4kmの交通へ実装することが有効であるとしている。つまり、この範囲外にある事例であれば、都市索道を実装するよりもバスや徒歩空間を整備したほうが、利用者の満足度は一般に高くなるといえる。
さらに、景観の問題もある。近年電柱の地中化がトレンドとして存在し、これは東京都知事選の小池百合子候補(当時)が2016年に掲げた「電柱ゼロ」政策、また長野県小布施町における徒歩空間整備での電線地中化政策など、多様な地域に見られる。このような政策が打ち出される中で、利用者は上から周囲を見渡せるというメリットがあったとしても、都市型索道の実装による景観の変化が議論されない筈はないのではないか。

この2つの課題点を基に、横浜での実装事例を整理してみたい。まず距離であるが、1260mは完全に徒歩の受容圏内であり、少なくとも都市型索道のそれではないと思料される。更に、先述したように歩行者空間の整備もある程度行われているため、どこに整備の意義があるのか見えにくい。さらに景観については、泉陽興業による資料(7)に於いて配慮されている旨の記述がある。横浜市がどのように介入しているか、意思決定がどう行われたかについては不明であるが、私の目には景観の拡張がなされているように見えた。読者の皆様はいかがであろうか。
本事業における私自身の課題意識は、計画区間がロープウェイを導入すべき区間、距離でない点が一番大きい。

今回の記事では、索道の可能性と課題を考察しつつ、横浜における索道導入事業の分析を行ってきた。横浜市は本事業について「移動自体が楽しく感じられるような多彩な交通サービスの充実」と位置づけており、それは今般導入される連節バス「YOKOHAMA Bayside Blue」についても同様であると捉えられる。しかし、新しい交通は初期こそ物珍しさから利用されるかもしれないが、ニーズに合った距離、値段、場所でなければ持続性に乏しくなるだろう。観光としての側面が強い日本初の都市索道の動向を見守りつつ、今後この建設コストの安いモビリティモードが持続的な形で発展してゆくことを願うばかりである。


参考文献
(1)https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/832/moukeiseikeikaku.honnpenn.dai3syou.saisyuu.pdf
(2)https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/toshiseibi/sogotyousei/toshinmp/toshinmpsakutei.files/0006_20180921.pdf p31
(3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/49/3/49_867/_pdf
(4)http://www.mlit.go.jp/crd/tosiko/guidance/pdf/06section3_.pdf
(5)Continuing Developments in Light Rail Transit in Western Europe、GD Bottoms、http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.572.6499&rep=rep1&type=pdf
(6)https://ynu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=8156&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1
(7、表題写真)https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/toshiseibi/design/shingikai/bitaisaku/keikan/ks049.files/0056_20190313.pdf

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