![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172183767/rectangle_large_type_2_900b757ebfbb87b298926852857da886.jpeg?width=1200)
昔の人は風流だったんだなあ、なぞかけ、福引のなぞなぞ、ものは付け、冠付け、上の句付け 秋田實『日本語と笑い』(昭和51年5月25日初版発行 日本実業出版社)より
※なぞかけやサラリーマン川柳などの言葉遊びは今も残ってはいますが、昔はもっとごく普通に遊ばれていたようです。その一端が伺えるものをまとめて。
「謎々」
※今は「なぞかけ」と呼ぶことが多いですね。「~とかけまして~と解く、その心は~」ってやつです。
○娘と掛けて 土蔵と解く 心は白く塗っている(ここから、土蔵専門の泥棒を娘師と呼ぶ)
○飛脚と掛けて 十七夜と解く 心は立ち待ち月(ここから、飛脚屋のことを十七屋と呼ぶ)
※十五夜は望月、十六夜はいざよい、十七夜は縁側に立っていると月が昇るので立ち待ち月、十八夜は座敷で座っていると月が出てくるので居待ち月、十九夜は月の出が遅くなって寝待ち月
○南無阿弥陀仏と掛けて 狢(むじな)と解く 心は六字名(六字の名号)
○夏の雨と掛けて すご六と解く 心はふり出すとすぐ上る
○七福神の金玉と掛けて 賽の目と解く 心は六つぎりだ
○花火と掛けて 刀の検査と解く 心は打ち上げて見る
○梅雨しぐれと掛けて ひやかし客と解く 心は滅多に上らぬ(遊郭での話)
○道中双六と掛けて ひやかし客と解く 心は廻ってから上る(遊郭での話)
○冬のそば屋と掛けて 熊谷と解く 心はアツモリをとる
○五月雨と掛けて 舞妓の衣裳と解く 心はふりが長い
○春雨と掛けて みこの鈴と解く 心はひどくは振らぬ
○歩きならいの子供と掛けて 見ずてん芸者と解く 心はまた転んだ
○強い関取と掛けて 婆芸者と解く 心はころばし手なし
○蓬莱山と掛けて 破れ蚊帳と解く 心はつる(鶴)と蚊め(亀)が舞い遊ぶ
○春の雪と掛けて やさしい謎と解く 心はとけやすい
「福引の地口」
※昔の福引は札で、しかも直接賞品名が書かれておらず、一種の洒落になっていたそうです。渡す側も洒落が分からなくて、どの賞品を渡せばよいか困ることもあったとか。
○隠し妻 「番傘」 晴れては逢えぬ
○親の大病 「捕鼠器」 寝ず看護(ネズミトル)
○落籍された女郎 「蓮根」 泥水から抜かれてくる
○お池の鯉 「筆入れ」 麩で(筆)集まる
○賭将棋 「雨傘」 晴れてはさせない※大っぴらには指せないってことですね
○新築の便所 「玩具の馬」 臭くはない(草喰わない)
○見越しの松 「文鎮」 おもいもの(思い者)置く
○稽古相撲 「ゴムまり」 突いたり投げたり
「福引・百人一首」
※さらに福引の札に百人一首の歌が書かれているものもあったようです。風流ですね(そうか?)。
○(第一番)秋の田の かりほの庵の 苫をいらみ 我が衣手(子供手)は 露にぬれつつ
(子供の手袋)
○(第二番)春過ぎて 夏来にけらし 白妙の ころも干すてふ あまのかぐやま(生の蕪山)
(蕪の山盛り)
○(第三番)あしびきの 山鳥の尾の しだりおの 長々し夜を ひとりかもねむ(鴨葱)
(鴨葱)
○(第九番)花の色は うつりにけりな いたづらに わがみ(和紙)世にふる ながめせし間に
(半紙)
○(第十二番)天津風 雲のかよひ路 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ(火ばし小土瓶)
(火箸と小土瓶)
○(第十三番)筑波嶺の 峯より落つる みなの川 恋ぞつもりて ふち(櫛)となりぬる
(櫛)
○(第二十六番)小倉山 峯のもみぢ葉 心あらば 今一度の 御幸またなむ(バタパン)
(バタパン)
○(第三十一番)朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪(しめる下帯)
(越中ふんどし)
○(第六十九番)嵐吹く みむろの山の もみぢ葉は 立田の川の にしき(字引)なりけり
(英和辞典一冊)
○(第九十六番)花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは 我が身(鏡)なりけり
(懐中鏡)
○(第百番)もも敷や 古き軒端の しのぶにも なほ余り(甘味)ある 昔(お菓子)なりけり
(蒸し菓子)
「ものは付け」
※「~するものは?」とお題を出してそれに答えの句を付ける遊び。「ものはづけ」と読みます。
○(可笑しなものは)
寝言に返事
どもりの喧嘩
○(気になるものは)
風にあふられた木戸
紛失した針
鬼門の井戸
後家の美貌
世間の噂
便所の穴
○(赤いものは)
縁(えにし)の糸
十手の総(ふさ)
蚊帳の縁(へり)
下手なお清書
泣きはらした目
子猫の頸輪
白酒の布巾
漢籍の不審
○(厄介なものは)
腹のお荷物
中風の長命
※ここに1ページ切り抜きがありました(P75~76)。よほど面白いことが書かれていたのかも知れませんが、図書館の本は大切にしましょう。
「冠付け」
※初句をお題に出し、七・五をつけて一句にまとめる遊びです。「かむりづけ」と読みます。
しまったり 近道きたら 橋がない
○(こは如何に)
こは如何に 鞘を払えば 赤いわし ※お分かりでしょうが、「赤いわし」は錆びた刀のことです。ずっと使わずに手入れもしていなかったんでしょうね。
こは如何に ブルータスも その一人とは
こは如何に 電話の声は 親父なり
○(遅かりし)
遅かりし 心中するなら 添わすもの
遅かりし 養子してから 男の子
○(恐ろしい)
恐ろしい 浮き世へ捨て子 拾われる
恐ろしい 罪がお腹で 発育し
恐ろしい 振り袖が焼く 江戸の町
恐ろしい 執念じゃな で木の頭 ※これがよく分かりません。「木の頭(かしら)」は芝居の終わりを表す言葉ですが、登場人物が「執念じゃな」と言ってその先に何かが起こると予感させつつ幕切れとなる、余韻を残す終わり方のことでしょうか。
「上の句付け(前句付け)」
※下の句をお題に出して上の句を付けて一首にまとめる遊び。「それにつけても金の欲しさよ」みたいな万能下の句だったら簡単かもしれませんが、うまく付けるのは難しそう。
○(出もの腫れもの処きらわず)
交番へ転げ込んだる十月腹 出もの腫れもの処きらわず
筍が道の真ん中へひょっこりと 出もの腫れもの処きらわず
○(さてその後が気にかかるなり)
替玉で見合は無事に済んだれど さてその後が気にかかるなり
強意見して帰しては見たものの さてその後が気にかかるなり
帳尻を巧く合しはしたけれど さてその後が気にかかるなり
思い切ってポストへ入れた艶文の さてその後が気にかかるなり
金力でやっと当選したけれど さてその後が気にかかるなり
○(可笑しくあれど腹も立つなり)
どう見ても自分で書いた字が読めず 可笑しくあれど腹も立つなり
夜更しして帰る亭主の言訳は 可笑しくあれど腹も立つなり
留守という嘘が主人の咳で消え 可笑しくあれど腹も立つなり
※今回はなかなか風流でしたね(笑)現代のコンプライアンスでは通らないものもありましたが。