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ウマ娘 『ウマ箱2』 第1コーナー Amazonレビューより転載(涼さん)

本文は、Amazonにて販売されている商品
『ウマ箱2』第1コーナー アニメ『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』トレーナーズBOX) [Blu-ray]
レビューコメントを転載したものであり、投稿者≠筆者です。

筆者は涼さんという方で、Amazonレビュアーの公開プロフィールURLはこちらになります。あくまでいちレビューコメントということでSNSアカウントリンクの類が見当たらず、当人にも連絡できないため、「承諾を得ていない無断転載」となります。
※何かしらの問題に発展するようであれば本投稿は削除します。

Twitterで話題になっていたので気になって元レビューに飛んで拝読し、あまりにも良いレビューだなと感銘を受けたので、是非沢山の方に読んで欲しい&自分の記録用も兼ねて、ここに転記します。


--- 以下本文 ---


カスタマーレビュー

5つ星のうち5.0

制作者の競馬愛
2021年3月15日に日本でレビュー済み

軽く社会現象になっているウマ娘ですが、あまりにも騒がれているので
Amazonプライムで見てみました。競馬ファンとしては競走馬の擬人化と
いうだけで普通は食指が動かない。数々の名馬を萌え化してどうすんだと。

おそらく日本の競馬が一番面白かった90年代。

その頃の競馬を知っている人なら、Season1のヒロインが
スペシャルウィークだと聞いて、「なぜスペシャルウィーク?」
そう思った人が多いはず。

確かに実績を残した名馬ではあるけど、ヒロインに抜擢するほどの
ドラマ性を持っているか?武豊に念願のダービーを獲らせたから?
でもひとりで走る設定みたいだし、当時の世代3強の中では一番弱いと
言われていた馬です。

史実のドラマチックさで言えばトウカイテイオーの方が上だし
田舎娘の成り上がりという話なら、オグリキャップが相応しい。
シンデレラストーリーにしたいなら1,000万円で買われて19億円を
稼いだテイエムオペラオーもいる。

結局、アイデア前提で競馬をよく知りもしない奴らが作った作品。

これがアニメを見る前の自分の感想だったのですが、最初の数話を見て
当時のことを色々思い出していくのと同時に、制作者の競馬愛に胸を
打たれました。

25年以上も前の話です。キャンペンガールという牝馬がおりました。
この馬は一度も出走しないまま繁殖牝馬になり、5頭の子供を産みました。
最初の4頭はほとんど活躍できなかった。そして5頭目を身ごもっている
ときにキャンペンガールは酷い疝痛(腹痛)に悩まされ、臨月を迎える
ころにはお腹の仔を産めるかどうか分からないほど衰弱していて
牧場の人達の手を借りながら、最後の力を振り絞って仔を産んだ。

そしてキャンペンガールは出産の5日後に息を引き取りました。

産まれてすぐに母を亡くした仔馬は、ソリを引く無名の乳母馬に
乳をもらっていたが、しばらくしてニュージーランドから来た
ティナという女性がこの仔の世話係になる。素直で物覚えの良い
仔馬に惚れ込んだティナは、この仔に精一杯の愛情を注いで育てた。

その仔馬が、数年後にGIを4勝し、当時の日本競馬における獲得賞金の
最高記録を打ち立てた。

それがスペシャルウィークという馬でした。気性難の両親から産まれた
同馬が、人間を信頼し穏やかな性格だったのはティナのおかげという説も
あります。

制作者はそういうバックグラウンドも込みでヒロインにしたわけですね。
二人目のお母ちゃんが人間で金髪なのは、モデルがティナだから。

(余談ですが2020年に無敗のまま史上初の牝馬3冠を獲得した
デアリングタクトは、スペシャルウィークの曾孫にあたります。
キャンペンガールが命がけで産んだ子供の血統が3冠を獲る。
ここにサラブレッドのロマンがあります)

スペシャルウィークとサイレンススズカの関係について

アニメでは同室になってお互いに支え合う二人ですが、これにも
ちゃんと理由があって、競馬に詳しい人ならご存知でしょうが
知らない方のために書いておきます。

サイレンススズカとスペシャルウィークは父馬が同じ兄弟です。
本来は同じ母馬から産まれた馬のみを兄弟と呼ぶので、厳密に
言うと2人は兄弟ではありませんが、分かり易いようウマ娘の
世界観に合わせて説明します。

スズカが94年産まれ、スペシャルウィークが95年産まれなので
スペシャルウィークから見てサイレンススズカは1歳年上の
お兄ちゃんになります。

産まれた場所も育った環境も違いますが、血を分けた兄弟なので
お互いに支え合うという設定にしたのでしょう。

そして98年、秋の天皇賞。誰もがレコード勝ちを確信するほどの速さで
ターフを駆け抜けていたスズカ。そしてあの悲劇は起きた。

それからちょうど一年後の99年秋の天皇賞。スペシャルウィークは
このレースをレコードで勝ちました。兄の果たせなかった夢を叶えるかの
ように。そしてこの記録は2008年まで破られなかった。

最初にあんな事を書いておいてなんですが、思い出せば出すほど
スペシャルウィークという馬は、人懐っこく努力家で、強い相手にも
果敢に挑み続けた、素晴らしい競走馬だったのだなと思います。

サイレンススズカを史実を曲げてああいう扱いにしたことで、救われた
競馬ファンの人も多いのではないでしょうか。あの日、スズカは鞍上の
武豊を落馬させなかった。普通、あれだけの速度で走っていて骨折したら
ほぼ間違いなく転倒します。

けれどスズカは、粉砕骨折の衝撃に耐えながら、騎手を落とさないよう
徐々に速度を緩めて武を守った。本当に賢く優しい馬だったのだと思います。
アニメの中でスズカが人一倍優しい性格なのは、そのためだと勝手に
解釈しています。

そしてこのアニメの凄さは、競馬をよく知らない層でも楽しめて
血統やその馬が持つエピソードを知っている層ならもっと楽しめる
ところです。

史実を織り交ぜながら名馬を擬人化することで、その馬が持つ魅力と
ドラマ性を際立たせることに成功している。

スペシャルウィークがご飯を食べ過ぎて皐月賞でセイウンスカイに
敗れる描写がありますが、実際のレースでもスペシャルウィークは
前走から馬体重が10kgも増えており、一番人気に推されながらも
不安視する声がありました。そして案の定負けました。

オグリキャップが大食いなのも史実です。普通の競走馬が一日に大体
15kgの飼料を食べるところ、オグリは20kg食べても足りず、その辺の
雑草まで食べていたという逸話があります。

ドーナツ大会のシーンは、89年の有馬記念が元ネタでしょうか。
このレースはオグリ、タマモクロス、スーパークリークの3頭が
出走していて、結果は1着オグリ、2着タマモクロス、3着にスーパー
クリークだったのですが、スーパークリークは確か斜行して失格に
なった記憶があります。

マックイーンがスイーツ好きなのも、何となく分かる気がします。
そもそも馬自体が甘いもの好きなので(にんじんが好きなのも甘みが
あるからです)

なのでウマ娘は全員スイーツ好きだと思うのですが、人間も疲れると
甘いものが食べたくなるように、生粋のステイヤーであるマックイーンは
他のウマ娘よりも甘いものを欲する傾向が強いのかなと。推測ですが。

またオープニングでゴールドシップがコーナーの内側からごぼう抜き
していく場面がありますが、これは2012年の皐月賞を再現したものです。
この日の馬場は前日の雨の影響でぬかるんでいて、特に内側が荒れて
いたため、他の馬がコーナーで外側に回避したのに対し、ゴルシは
「内側空いとるやんけ。ぶち抜いたろ」とでも言わんばかりに最後方から
内側をぶち抜いて優勝しました。

自分はこのレースをテレビで見ていましたが、ゴルシが勝つと分かっていて
見るのと、リアルタイムで見るのとでは感じ方が全く違いますよ。
4角を過ぎて「あれ、ゴルシどこ行った?」と思ったら先頭を走ってる。
意味が分からな過ぎて、録画を見るまでどうやって先頭に立ったのか
理解出来ませんでした。

ゴルシと言えば120億円を吹っ飛ばした“あのレース”が有名ですが
あの時は自分も会場にいて、スタート直後に周りから悲鳴と共に笑い声が
聞こえていました。競馬ファンはゴルシが何を仕出かすか分からない
馬だと知っていたからです。自分は3連覇のかかったG1の舞台でやらかして
笑われる競争馬をゴルシ以外に知りません。その意味でもアニメのキャラ
設定は正確です。しかし、上に書いたように勝つときは凄い勝ち方をする
底知れぬ実力を持った馬でした。

いまSeason2の途中まで見ていますが、ここでも制作者の拘りが随所に
見受けられ、と言うより小ネタが多過ぎて何回か見直さないと気付かない
場面も結構あって…。エアグルーヴへのスマホフラッシュとかは分かり
易いんですけど、例えばですよ、Season2の第1話でマックイーンと
テイオーが神社で話をするシーンがあるんですけども。

ここで何をしてるの?と問い掛けるテイオーに対し、「宝塚記念が
近いから練習をしている」とマックイーン。

そこで絵馬がチラっと映るのですが、その絵馬のひとつに「G1に勝つ!!
by メジロライアン」というのがあって、これが伏線になってます。

メジロライアンという馬は生涯で一度だけG1を勝っているんですが、
それが、マックイーンの言っていた宝塚記念(91年)なのです。

このレースの結果はライアン1着、マックイーン2着でした。普通なら
見過ごすようなシーンにも、こんなちょっとした小ネタを仕込んで
いるので気が抜けない。

そして自分が特に印象に残っているのは、テイオーとマックイーンが
激突した春の天皇賞で、マックイーンに対し、ただひとりオーラを
吐き出しているウマ娘がいたこと。

名前も設定も少し弄ってありますが、このウマ娘こそが世紀の下剋上を
果たした、ダイユウサクだと思われます。年末になるとこの馬を思い出す
人もいるのではないでしょうか。

ダイユウサク。血統はそこそこ良いものの、産まれが遅く身体も丈夫とは
言えず、他の馬にいじめられていつもひとりぼっちだった。デビュー戦では
最下位、続く未勝利戦でも最下位。そこから少しずつ勝ちを重ねてギリギリ
有馬記念(91年)に出走出来たものの、人気は15頭の中で14番目。
波乱の起きにくい有馬記念では仕方ない。

その馬が圧倒的人気だったマックイーンを差し切って優勝しました。
しかもレコードでの勝利であり、その記録は12年間も破られなかった。

それ以降1勝も出来なかったため「一発屋」などと揶揄されることもありますが、
一世一代の末脚を見せたことで、記録にも記憶にも残る馬だったことは確かです。

制作者は流れ的に物語に組み込めないため、少しでも注目してもらえるよう
ああいう形でダイユウサクを登場させたのではなかろうか。

そして実は、Season1にも「下克上」と呼べるものがあります。
それは、セイウンスカイとキングヘイローの関係について。

セイウンスカイは正直、サラブレッドとしてはかなり地味な血統なのです。
はっきり言ってしまえば本来、中央の重賞レースで勝ち負けが出来るような
血統ではなかったんですね。二冠を獲ったにも関わらず引退後に種付け依頼が少なかった事からも、セイウンスカイの血統が重要視されていなかったのが依頼が少なかった事からも、セイウンスカイの血統が重要視されていなかったのが分かると思います。分かると思います。

片やキングヘイローと言えば、当時としては「超」が付くほどの良血馬でした。
両親は海外のG1レースで13勝もしていて、父馬に至っては凱旋門賞でレコード
勝ちまでしている。とんでもない良血馬です。

この辺も制作者はよく分かっていて、キングヘイローがドレスのような
勝負服なのに対し、セイウンスカイは庶民寄りというか、かなりカジュアルな
勝負服になっています。

この2頭は同じ年に産まれていて、5レースか6レース一緒に走っているのですが、
自分が知る限りセイウンスカイはキングヘイローに一度も負けてないんですよ。

「ブラッドスポーツ」と呼ばれるほど血統が重要な競馬において、セイウン
スカイがキングヘイローに勝ち続けた事実は、まさに「血の下剋上」と言えます。

しかしながら、自分はキングヘイローという馬が大好きなんですよね。

…競走馬は、自分がレースに勝ったのか負けたのか、何となく分かると言います。
関係者の雰囲気や態度で察するのでしょうか。あのアーモンドアイも有馬記念で
惨敗したあとに落ち込んでいたという話もありました。

キングヘイローは当時、「超一流の血筋なのにG1で勝てない馬」という評価でした。
ヘイローはその華やかな血統から、短距離長距離を問わず、G1レースへの出走が
多かったんです。G1だけで15レースも出ています。

しかし勝てなかった。同世代のライバルたちが強すぎたというのもあるのですが、
G1レースで10連敗しています。上にも書いたように、もし競走馬がレースの
勝ち負けを理解できているのだとしたら、ヘイローにとってこれほどの屈辱は
無かっただろうなと思うんです。

でも諦めなかった。不屈の精神というのか、いつもいつも一生懸命走る馬でした。
そして11回目のG1挑戦、高松宮記念で優勝するわけですが、短距離で、しかも
ギリギリ差し切り勝ちという、華麗とは言い難い勝利だったのですが、
この諦めないという姿勢こそが「王」としてのプライドだったのかなと
思うんです。あくまでも人間視点での感想ですが。

話を2頭に戻しますが、産駒の成績ではキングヘイローが圧勝しています。
セイウンスカイは産駒数自体が少なかったのもありますが…ここで血統の
差が出てしまいました。

(名牝ニシノフラワーとセイウンスカイの子がデビューした時は期待
したものですが、結局鳴かず飛ばずでした…残念です)

そしてこのアニメにはツインターボも出て来ますが、この馬ほど「名は体を表す」を
地で行っていた馬もいません。豪快に逃げていたかと思えば、4コーナーを過ぎた
辺りで大抵ガス欠になるという、燃費の悪さを体現した馬でした。

G1は疎かG2も獲れなかったツインターボですが、豪華メンバーの揃った
オールカマーでの圧巻の大逃げは、G3ながら競馬ファンの胸を熱くさせる
ものがありました。あの小さな馬体で、堂々の逃げ切り勝ちですから。
本当に良いキャラをチョイスしてるなと思います。

ナイスネイチャがテイオーを気に掛けたり意識してるのは、おそらく
互いにナイスダンサーの血が入っているからだと思われます。
ルドルフとテイオー、スズカとスペ、ゴルシとマックイーンの関係は
言うに及ばず、血の繋がりによってある程度の親和性を図っているのが
分かります。

(スペがマルゼンスキーに憧れを抱くようなシーンもありますが、これも
キャンペンガールの父馬がマルゼンスキーだからだと思われます)

見れば見るほどよく出来たアニメです。

ただひとつ、皆さんに残念なお知らせをしなければなりません。
キタサンブラックは今でこそ可愛らしい子供ですが、将来はガチムチの
ウマ娘になりますので、心の準備をお願いします。

そして自分はSeason2のラストで絶対に泣くと思う。今まで見てきた
レースの中で最も感動したレースをひとつ挙げろと言われたら、93年の
有馬記念を挙げます。

テイオーほどドラマ性のある馬はなかなかいませんが、ひとつ残念なのは
90年代に活躍した馬が多いウマ娘の中に、サニーブライアンがいない事です。
皐月賞を勝って、フロック(まぐれ勝ち)と呼ばれた同馬がダービーを制覇
するまでの話は、やはりドラマチックです。

「幻の三冠馬」という言葉を聞いた事がある人もいると思いますが、
この言葉はフジキセキとアグネスタキオンに向けられたものが多いです。
確かに2頭とも三冠を獲ってもおかしくない血統ですし、強かったのも
認めますが、サニーブライアンはクラシック以前の戦績がどうあれ、
実際に二冠を獲っているんです。菊花賞に出ることが出来ていたら
勝っていたかも知れません。だから自分は「幻の三冠馬」と聞いて
真っ先に思い浮かぶのがサニーブライアンだったりします。

いつかウマ娘として出して欲しいです。

現在でもアーモンドアイを始め、コントレイルやデアリングタクトなど
歴史に残る名馬はいますが、90年代のあの熱気にはどうしても及ばない。

自分の中で今の競馬がいまいち盛り上がらない理由は、たぶん血統の
つまらなさにあるのかも知れません。現状、“サイレンス系にあらずば
競走馬にあらず”みたいな風潮があって、例えば4月4日に大阪杯が開催
されますけど、出走する15頭のうち7頭がディープインパクト産駒です。
もはやブラッドスポーツの体をなしてないと思うのは自分だけでしょうか。

サイレンスの血統が強いのは事実ですけど、90年代は色んな血統の
馬が鎬を削っていて面白かったんですよね。もうそういう時代は
来ないんだなと思うと、少し寂しい気がします…。

最後に。この作品から少しでも競馬に興味を持ってくれた人がいたなら
一度でいいから、競馬場に足を運んで欲しいなと思います。むさ苦しい
おっさんがたむろしてる、そんなイメージを持っている人もいるかも
知れませんが、そんな事はありません。若い人も多いし、デートで来ている
カップルも多いです。(今はコロナの影響で入場制限がありますが…)

重賞、特にG1のレースで、直線へ入った時になぜあれ程の大歓声が
起こるのか。それはきっと、鍛え抜かれたサラブレッドが沢山の想いを
背負いながら猛スピードで駆け抜けていく。その姿が美しいからだと
思うんです。あの臨場感と興奮は、中継では得られないものです。

競馬は公営競技(つまりギャンブル)ではありますが、一度実際に見て
もらえれば、それだけじゃないという事を理解してもらえるはずです。

話が逸れましたが、このアニメは、ウマ娘を通して当時の競馬に熱狂
していた世代にも必ず刺さる作品だと思います。リアル競馬ファンの
方も食わず嫌いをせずに見て欲しいです。

追記 :
このアニメを見たあと、90年代に活躍した名馬たちのDVDを見直して
いたのですが、ふと、岡潤一郎騎手のことを思い出して泣いてしまいました。
もし彼が存命であったなら、武豊の終生のライバルとして日本の競馬を
盛り上げていたんだろうなと…。

今更ながら彼の冥福を祈ると共に、命懸けで騎乗されている騎手の方に
尊敬の念を送らせて頂きます。

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(2021/05/25 現在)


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うきら
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