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AI投資のススメ第2回 AI投資のあるべき姿

0.前書き

前回はディープラーニングを例に取り上げて、株式市場の予測が如何に難しいか定性的・定量的に説明しました。
今回は投資戦略を構築する上でどの過程にAIを活用すれば良いか、その使い所について説明します。


1.「AIがウォール街を乗っ取れない理由」を考察する

・WSJの記事によると、人工知能を投資へ活用するには3つの深刻な問題がある。(1)過学習、(2)可読性、(3)長期投資できない、である。

・これらの問題の本質とは結局のところ市場の変化への対応である。これは「未来を予測する」という非常に困難な問題であり、当然ながら未来を予測することは不可能である。

・この問題に対する合理的な取り組みは「世界の変化を注視しながら、次々と新しい戦略を考案し、試行錯誤を繰り返す」ことであり、現時点におけるAIとはまだその領域まで到達していない。


2.AIによるレイテンシーアービトラージ

・物理現象のモデリングは、サンプリング時とモデリング時にそれぞれ情報喪失が発生する。モデリング時の情報喪失は意図的なものであることが多く、サンプリング時の情報喪失で失われる情報が大きい。

・よって投資におけるAI活用の本質とは、モデリングの問題ではなくサンプリングの問題に存在する。サンプリングの段階で説明力の大きなデータを採用し、シンプルな予測モデルを構築することが重要である。

・投資におけるAI活用の手法とは「AIによるレイテンシー・アービトラージ」である。AIを使って一般の投資家よりもわずかに早く情報を取得することで取引を先回りする(フロントランニング)。

・成功しているAIファンドが力を注ぐのはこの分野であり、衛星画像分析はよく知られた一例である(原油タンクに映る影から原油在庫量を推定したり、駐車場の混雑具合から売上を予測する、など)。


3.全数検索の未来

・全数検索とは、手持ちの目的変数と説明変数の全ての組み合わせの説明力を愚直に調査するものだが、「組み合わせ爆発」と「データ・スヌーピング・バイアス」により現実問題への適用が難しい。

・データ・スヌーピング・バイアスとは、多数の指標を検証した際に誤って有意でないものを偶然に発見してしまう事象のことであり、タイプⅠエラーと呼ばれる。

・これに対してタイプⅡエラーとは、有意なデータを有意でないと見逃してしまう間違いであるが、タイプⅠエラーのほうが重篤な間違いであるとされる。

・これらの統計的エラーを排除するために、現時点では演繹的考察が不可欠である。この統計的命題を人知に依らず解決することが、人工知能の本来の役割であると言える。


4.おわりに

繰り返しになりますがここまでをまとめると、AIによって精度の高い投資モデルを構築しようという試みは殆どの場合で失敗に終わります。

AI活用の本質は「ホワイトアルファの発掘」です。
AIを使って如何に手付かずの事象を使用可能な状態にすることができるか、それを様々な事象について効率よく行うためのフレームワーク、そして生成した多数のデータから意味のあるデータを選別するためにはデータ・スヌーピングバイアスへの対処が不可欠であり、これを解決する手法もAIに課せられた重要な役割です。