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bitFlyer乖離率に関する検証

久しぶりのNote更新になります。
2019年は自身のアウトプットの1つとして、月一で検証結果等を公開していきたいと思います(予定)。

2018年の暗号通貨市場はそれまでの上昇相場から一転して下落相場となり、新規参入が減って市場競争は過酷なものとなっています。それに連れて単純なチャート分析ではなく、それ以外の事象をトレードに活用できないか随所で検討が行われています。

その中でも注目度が高い指標に以下が挙げられます。
 ・bitFlyerの乖離率
 ・BitMEXのFunding Rate
 ・BitfinexのLending RateおよびLS情報

今回はbitFlyerの乖離率について検証結果を公開します。


1.bitFlyerの乖離率とは

bitFlyerの乖離率(以下単純に乖離率)とは、現物(BTC/JPY)とFX(BTC-FX)の価格の乖離を示すものです。具体的には以下の式で計算されます。

 乖離率=(FXのLTP-現物のLTP)/現物のLTP×100[%]

bitFlyerの提供するBTC-FXは現物とは異なる派生商品であり、本来であれば現物の価格にペッグされるべき商品です。しかしbitFlyerの定めた乖離抑制施策が不完全であることから、現物とFXとの乖離が慢性化しています。

乖離率は市況によって大きく変動することから、市況を測る1つの指標になるのではないかとの思惑が広がっています。

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2.乖離率の基本特性

(1)乖離率の推移
以下は18年6月以降のBTC値動きと乖離率のグラフです。通常、裁定の働く商品の乖離率は0近傍でホワイトノイズのような形状が観察されるのですが、bFの乖離率は0に収束することなくフラついており、裁定の効きが非常に弱いことが分かります。

この乖離率は単位根過程であり、要するにランダムウォークと考えて差し支えありません。これを統計分析するには、乖離率をそのまま使用するのでなく乖離率の差分(Δ乖離率)を使用する必要があります。

以下に値動きとΔ乖離率の散布図を示します(ラグなし)。特にFXの値動きとΔ乖離率に強い関係が見られます(通常の裁定の働く商品ではこのような関係は見られません)。乖離率は短期的な過熱感を示すと言われており、上昇局面では乖離率がプラス方向に推移し下落局面では乖離率はマイナス方向に推移する、というのは疑いのない事実のようです。


(2)現物に対するFXのベータ
乖離率について少し違った視点から観察してみます。現物の騰落率とFXの騰落率を回帰してみると、そのベータはおよそ1.05です。これはつまり現物が1%動くとき、FXは1.05%動くということです。現物の値動きに対するFXの弾性力の大きさによって乖離率が変動している、と捉えることができます。

次にベータの時系列推移を見てみると以下のようになります。ベータは概ね1以上で推移することが多いのですが、1未満に落ち込む場合があります。特に今年に入ってからは1を大きく割り込んでおり、本稿執筆時点では0.9程度で推移しています。ベータが小さい場合は現物の値動きに対してFXの値動きが小さいことを表しています。考えられる要因としては、現在のFXでは手動のプレイヤーに対してマーケットメイクbotが相対的に多くなっていることが挙げられます。これは一種の市況の冷え込み具合と捉えることができるかもしれません。


3.現物とFXの値動きを観察する

ここでは普段目にするチャートよりももう少し短いタイムフレーム(5sec足)で現物とFXの動きを観察してみましょう。

(1)定常時
見ての通り、現物の動きはFXに対してスカスカです。価格の連動性も今ひとつのように見えます。現物市場が活況づくには現物の需要が増えてテイカーとメイカーの双方が増える必要があります。現時点の暗号通貨を取り巻く環境では難しいかもしれません。

(2)過渡時
Pump&Dumpのような過渡時には、現物とFXはキレイに連動していることが分かります。Pumpの起点を見てもラグは存在しません。Pumpの最中にFXは時折フリーズしていますが現物はシームレスに動いていることが見て取れます(ただしこれはあくまで約定データを後から眺めた時の挙動です)。


4.投資指標としての乖離率

乖離率は値動きに対して予測力を持つのでしょうか。以下はΔ乖離率と値動きの関係を散布図にプロットしたものです(ラグ1)。
結論として、乖離率は単純な価格の予測には使えません。


過去にツイートしましたが、BitMEXのFunding RateやBitfinexのLending Rateなどポジション構築コストに直接影響する指標でさえ、それ単体で予測力を持ち合わせていません。±5%以内で何の効力も発しないbF乖離率が値動きに対して予測力を持つはずがありません。


5.おまけ

実はΔ乖離率には簡単な特性があって、下図のようにラグ1の自己相関が存在します。これを現物とFXのスプレッドリターンの予測に使うことができます。
しかし、実際にこのスプレッドリターンを利益として回収しようとした場合、様々な課題が生じます。もしも興味のある方は、その収益化について検討してみるのも面白いかもしれません。ご自身の知見となるはずです。


乖離率を検証した所見として、乖離率にはあまり検討の余地が残されていないように感じました。砕けた表現になりますが、BitMEXのFunding RateやBitfinexのLending Rateのほうが未発掘のお宝が眠っているような気がしています。