寝そべる鏡【滲み】1300字
鏡の中に落っことしてしまって
取れなくなったので、
慌ててドラッグストアに走った。
真っ暗なドラッグストア。
裸足の足の裏がいたい。
「大丈夫ですか?」
時折駅の近くの居酒屋で会う男性。
こんな時間に人に話しかけられて
びっくりすると同時に、
とても恥ずかしいところを見られて
しまったと気づき、
その場から逃げようとした。
が、開き直り、訪ねてみた。
「鏡の中にコンタクトレンズを
落としてしまって、取り方わかりますか?」
男はギョッとした顔をした後に、
「鏡は床に置いてあったのですか?」
私は思い返す。
「いえ、姿見の鏡を壁に立てかけてたのですが、
とある衝撃で姿見がバランスを崩して、
姿見の下部が勢いよくズレてきて
私の足に当たって、持っていたコンタクトを
落としてしまったのです。」
男はなるほど〜というような顔をしてから、
「それは大変でしたね。では失礼。」
足速に居なくなる。
あっさりしていて、なんだかがっかりした。
無闇に人に話すもんじゃないな。
足が痛いので、ゆっくりゆっくり家へ向かう。
街灯も少なく、犬すら鳴いていない。
ひっくり返った細い細い月が、
こっちを見て嘲笑ってる。
助ける風の顔して、
結局みんな助けないんだよなー。
ほんとみんなそうなんだよなー。
必要な情報だけ手に入れたら
すぐ背を向くよなー。
本当に優しい人っていないんだよな、
と何回も再認識してるけど、
犬も猫も月もニヤニヤ笑ってる。
私がお人好し過ぎるんだな。
自分でなんとかしなきゃか。
結局その結論。
視力の悪さと、暗さのせいで
つまずいた。
寝てたみたい、陽の傾きからして朝10時ぐらいか。
「病院いきますか?」
50歳前後かなと思われる女性。
顔がぼやけるが、たぶん初対面の人。
「タクシー呼びますか?」
私はボーッとして返事ができない。
「ちょっと失礼するね。」
その女性は私のワンピースのポケットから
私の財布を取り出し、中身を確認した。
その次に女性が持つ鞄からハンカチを出し、
私の足の裏をやさしく拭った。
ドロボー? また利用されるのか。
ため息が出た。
いつの間にかタクシーが来た。
一緒に乗ってタクシーが動く。
後部座席に寝そべる私。
足の裏で座席を汚しちゃダメだ、
それだけはハッキリと考えていた。
木漏れ日が車内に入る。目がチカチカ。
小さい頃に皆で大きな公園で、
簡易テントを張ってもらって、
キャッキャ遊んだのを思い出した。
芝生が足に心地良い。
「どうしてあの道で寝てたの?」
女性が少し微笑み風の顔で、
問いかけてきた。
「家に帰るのは怖い」
やっと喋れた。
女性は私のワンピースを
躊躇なくめくった。
女性の視線は私のお腹。
お腹を隠そうと思ったが
私の手は動かなかった。
強姦? この人は女性なのに。
ため息が出た。
病院についた。
女性が看護師に
テキパキと何かを伝えた。
女性は、何かあったら連絡してね、
と名刺を私に渡した。
ボーッとしてうまく読めない。
「目が悪いの?」
「いや、コンタクトを鏡の中に
落っことしちゃって。」
「早く抜け出せるといいね。」
女性はにっこり笑った。
いい人だった。
涙が出た。
「なんで泣いてるの?」
にっこりしたままの女性が
聞いてくれた。
「なんか、なんだろう、
たぶん、コンタクトがずれたみたい」
女性は大きな声で
ガッハッハと笑ってくれた。
本当に優しい人なんて、
滅多に滅多に出逢えないから、
自分が優しい人になればいいや。
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