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Dump【滲み】1400字

「あーそうだった。友達がいないんだった。」

店員に会釈するだけで9杯目のコーヒーが運ばれてきた。
焦茶の机に焦茶の飲物。
溜息に見上げるも窓の外も焦茶。
通りを歩くまばらな人はどうせ帰路だろう。

響く、暗い店内に1つだけの会話、ラジオも切られている、木枯らしの微かな音色、ダルそうな英語は私でも「早く帰れよ」の意だとわかる。



どうするか、さて、どうするか、朝から同じ椅子で私は思う。
お尻が疲れるこのスチールの椅子はまだ聞き飽きてはいなそう。
どうするか、さて、どうするか、脚を組み替えると、ウールのスカートと靴下の間のふくらはぎ下辺りの地肌がスチールに触れる。
冷たい、さて、どうしたらいいのか。
絵の具で汚れた指でカップを持つ、
唇には、焦茶、ぬるい、まずい。



朝の1人目は大学時代の同級生。
こっちに来てから数日前にメールをしたら喜んで会いたいと、コーヒーとソイラテで陽射しの当たるこのテーブルで数分思い出話を楽しんだ。
それとなくだ、それとなく伝えてみた、
なんとなく飛行機に乗ってきて数日たつがもうお金が無い、と。
笑顔は消え、あちらもそれとなく帰るべきと優しく告げてくれる。
陽射しが目に入り眩しい。
混み始めた店内、
同級生は、帰るにもお金がない私にがんばってねとだけ残して英語の街へ帰った。

 周りが知らない言語だと集中できる。
高校生時代のお付き合いしていた男性がたしか貿易業だったと、
頭に浮かんだときには携帯電話を駆使している私の指。
3杯目を飲み干したちょうどその時に電話が繋がる、
コーヒーの喉でカフェの名前を告げる。
偶然。
奇跡。
今日は休みで、家も近い。
脚を組み替えて店員を呼んだ。カップをあげてニッコリとした。

5杯目で来た男は、重厚なコートをまといピカピカのねずみ色の靴。
ベラベラと会社の忙しさを話した後に、
なんでここに来たのかという問いを私になげる。
わからないんだよね、
気づいたら画材も捨てて、
飛行機に乗って、
ここにいて、
偶然あなたに会えて、
あなたと会うために来たのかも。
男性は顔色一つ変えずに、1番多い時で1日に4回も飛行機を乗り継いだよ、楽しそうに話しこれからまた仕事だと言って、夕方になり急に寒くなってきたカフェを出た。

 7杯目はとなりの席の汚い身なりの男性、私に話しかけているようだ。
ホームレス?きいても伝わらず、笑わずに、ゆっくりと、低い声で私に何かを話しかける。
私はどうしたらいいでしょうか、
泊まるお金も無い、
コーヒーももう飲みたくない。
汚い男性にはやっぱり伝わらず、ゆっくりと店を出て、客は私だけになった。

滲み_Dump


 早口の店員が鼻を掻きながら何か言う。閉店なんだろう。
焦茶のテーブルから立つと、赤い私の靴が歩いて、外に出る。
好きなぬいぐるみから家を追い出された気分。
そんな事より寒い、
寒すぎる、
暗い、
どうするか、
さて、どうするか、

少し通りを歩くと大きなゴミ箱に出逢った。
少し考えてから中を覗くとボロボロの毛布があった。引っ張った。そこに座って毛布を被った。
 やっとここで数週間前の油画の金賞受賞した悦びを感じ始めていた。
枯葉が走る音ばかりが耳にこだまする中、
ちいさな悦びを感じる自分に苛立っていた。
おそらくあと数秒で眠るだろう頭の中で微かに、
明日は筆を買いにいかなくちゃ。



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