"choir"voice.5 「この時代はアイスクリームみたいに溶けやすい」
"choir"voice.5「この時代はアイスクリームみたいに溶けやすい」
act:宮下浩(KINEMAS) / 共田尚樹 / 友田裕也(かゑる) / 白井太一朗
タイトルはみやしー(宮下浩)のバンドnothingmanから
「この時代を愛していてね」という曲名と、
「幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい」漫画タイトルを。
もともと、みやしーDAYをつくりたいなとおもって、
「ライブしてDJして、なんならお酒も出さへん?」と打診したところ、
「まずは1回見にいきたい」となり、比較的急遽組んだのだけど、
関西の若手~中堅を誘ったらほぼほぼ当初の存念どおりのラインナップになった夜。
内面に血の通った人間くささが確実にあるのに、
アウトプットはもうすこしちがった温度や角度になる4組。
「こいつぁおもしれぇや」と、ぼくのなかのヒゲの伯父がつぶやいた。
◆共田尚樹
初対面は彼のなかで黒歴史っぽいバンド時代、MOJO。
2004年か2005年だから、もうたっぷり15年以上経つ。
これまで何十回とステージを観ているけれど、
ピッチの不安定さだったり、メンタルに引きずられて、
わるい意味で振れ幅が大きい、さりとて天井が高いわけでもないまま30代後半へ。
と、これだけだと否定的に聞えるか。
ただ「レンズ」という曲が生れてから共田は、劇的、といわずとも、
じわりじわりと変化していったとおもう。
言葉際が強くなり、捨てるところからちゃんと手を離せるようになった。
まだそれが充分かといえばそうではないにせよ、
伸び悩んでいただけに逆噴射で確変するわけではないのが逆に信用できる。
37歳。
キャリアもあわせ、はっきりいって中堅の上、ベテランの入り口。
そこでの物足りなさを常々感じていたのはぼくだけではないだろう。
けれど、この夜はchori史上最高の共田尚樹だった。
技術やパフォーマンスが群を抜いたって話ではなく、
単純にエモかったでもなく、長いこと水をあげていた土地に芽吹いたたしかな実感があった。
具体的になにがどうと問われれば「たましいみたいなものの置き場所」がくっきり見えたんだ。
構成もとてもうつくしかった。
あと、ここんとこの新曲の精度と、過去曲(それこそ「レンズ」等)とのバランスがいい。
キャラ的に40代になってもいっさい先輩感、猛者っぽさはないとおもうけど、
だがそれがいい。いつまでも雲のようなこころざしであってほしい。
◆友田裕也(かゑる)
かつてnanoで「choriソロ→かゑる→両者ステージとフロアでセッション」という、
そうとう変則的(しかも面識なし!)なツーマンをやったときから、
友田くんのことはすきだなあ、とおもっていた。
今回、ソロは未見ながらノータイムでオファーしたのは、
ある程度の不確定要素があったほうが組む側としてもおもしろいから。
その期待は、いい方向へぴょーんと跳んでった。
小林一茶もびっくり。
大学卒業後にバンドを組んだという、なかなかめずらしい過程、まだ20代半ば。
(余談:この日は「ともだ」2人だったのでみんな「どうも、ともだです」と天丼してた)
友田くんの歌は、ざらつかないけど、指でなぞるとうっすら血がにじむ体感がある。
ではかといって切れ味が鋭いかといえばそのタイプでもない。
面で圧す破壊力じゃなく、線を通す突破力。嚢中の錐。
野洲高校みたいなセクシーフットボールとはまたちょっとちがうかな、
でも細かい加点の意味合いを倍増させてくライブでした。
詩もすこぶるいい。
狙った感はほぼほぼ皆無なのに、
ことばが勝手に適切に動いてるとおもった。
将棋でいうと「読まない渡辺名人」みたいな(細かすぎて伝わらない比喩)。
次もたのしみすぎる!!
◆白井太一朗
他と比しての甲乙、善悪じゃなく、個人的に大優勝。
もともと、ポエトリー・リーディングのスラム(MCバトルみたいなもの)で、
決勝まで残るほどだから、ことばはちょう勁い。
(ちなみにその大会ではぼくが優勝しました。えっへん。石を投げないで!)
しかしまあ、この夜の太一朗は神懸かっていた。
でもきっとそれはフロックじゃなく純粋に進化してるんだと対戦経験者は供述しております。
ギターとポエトリーというのはMOROHA、Anti-Trench、路地裏CatWalkなど各地にいるけど、
いずれも2人分業制だし(むろんそれは彼らのよさをいささかも棄損するものではない)、
ギター弾きながらのポエトリーはマジで難度高すぎる。
強いていえば、わたなべよしくにとかが近いけれど、なべよしはまたちょっと別枠。
チプルソさんもアートフォームとしてはラップ(音楽に近い)なのでおなじく。
なにがすごかったって、作品がすごかった。
と、あたまのわるい子みたいな言い方になるけど、
実際、ちゃんとデリバリーすることの強靭さ、根っこの強さ、
そして企まざる愛嬌と度胸、そういったすべてに瞠目した。
はじめて太一朗を観たオーナー店長まこちんが途中、
小声で「めっちゃやばい」って言ってたのもさもありなん。
白井太一朗の画をステージというキャンバスのうえに描いてってほしい。
しかし、さだまさしとRADWIMPS(への言及)を1曲のなかで提示するのは反則だ。
いくつだおまえ。
◆宮下浩(KINEMAS)
リハではCHARAなどカバーやってて、
リハ終わりからopenまででも焼酎3杯のんでたけど、
ああ、なるほど、ライブバーで演る感覚でいくんやねとすんと腑に落ちた。
(そもそもみやしーと書いて「OSAKE TSUYOI」と訓みます)
本編、これはもう、なんていうか、安定安心な部分と、
よき緩さと、でも締めるとこしっかり締めるで、ぶっといもの観れました。
ラスト「天気予報」は完全にchori得でありがとうやけど、
めちゃくちゃPUB VOXhall気に入ってくれたのうれしかった。
終演後もそうとう居残って演者やお客さんとしゃべってて、
そして「じゃ、京都のバンドマンたちと二次会いってくるわ」と消えたのもかっこよかった。
宮下浩は見た目(めっちゃでかい。190cmはあるかな。あとヒゲで強面)、
実績、声のでかさもあって、キャラクタ性はわかりやすいけど、
本質的に北陸生れの含羞やほのあかいやさしさがものすごく伝わる。
(血液型的ステレオタイプな言い方じゃなく、歴史や文化人類学的な見地)
今回はマイク録り、めっちゃ抑えた音量声量での30分、
うわあ、これもとってもすてき!っておもった。
彼のギターは超絶技巧でないにせよ、
ものすごく「間」と「余韻」、「行間」と「余白」の現前の仕方がじょうず。
語らない場所に意味が生れてゆく。
すばらしいトリでした。ありがとう!!
※なるべく自分のブッキング日の感想は書こうとおもいますが、
常にできるかは確約できないので、そこはご海容くださいー。