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出川哲朗さんが「砂に埋めたい男ランキング1位」から愛されタレントになるまでの話が良かった

少し前のラジオ放送だが、毎週聴いているあののオールナイトニッポン0(ZERO)(※1)のゲストで出演した出川哲朗さんとあのさんのやりとりが良かったので、抜粋して文字起こしを行ってみた。



あののオールナイトニッポン ゲスト:出川哲朗

あの:出川哲朗、深夜3時に生登場!ありがとう。



出川哲朗:とんでもない、私はね、約束をちゃんと守りましたよ。あのちゃん、あのー…

あののオールナイトニッポン0(ZERO) 2023.06.13 ゲスト: 出川哲朗 ※敬称略

ゲスト登場後ただちに、「あのちゃん」と「あのー…」が衝突している。

テレビだとあまり気づかなかったが、出川さんは、トークの際「あのー」や「えーっと」などのフィラーが多く、あのさんとの共演により、それがとても際立った。

会話の臨場感を残すためにも、フィラーに着目しつつ文字起こしをしてみた(一部著者編集)。

あのさんが「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」に出演した時の話

出川哲朗:あの時だって、あのちゃんがリアクション薄いからって言って、そんで俺が、あのー、「あのあのの時は」って言ったのかな。
まぁ、とにかくあのー、そう言う時あのーあのちゃんリアクションしてんのとかって言ったら、あのちゃんがゲラゲラ笑って。


あの:「普通すね」て言ったの。その時は。


出川哲朗:ふつうしね?


あの:いや、ふつうしねじゃねぇよ。「普通すね」て言ったの。


出川哲朗:いやいやいや、こんな感じじゃなかったって。話はひと段落してるのに、「出川さんはどうなんですか。」とか言って。


あの:違う! こんな話絶対、使われるわけないのに、なんでこんなこと聞くんだろう、セクハラカウボーイと思って、逆に聞いてみたの。

あののオールナイトニッポン0(ZERO) 2023.06.13 ゲスト: 出川哲朗 ※敬称略

出川さんは「あの」のオンパレードとあのさんの「セクハラカウボーイ」というワードセンスが気になるこのシーン。

ここで、観測されたのは、以下3つの用例だったようだ。
① フィラーの「あの」
② 「話し手も聞き手もすでに知っている事柄を指す」連体修飾語の「あの」
③  芸名としての固有名詞の「あの」

引用の「あのあのの時」がどういう時なのかは、言及しづらいので、sportifyなどで聞いてみてほしい。

こちらも愛聴しているYoutuber「ゆる言語学ラジオ」のお二人の著書である「言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼(※2)」によると、「あのー」は相手にどう伝えるか考えているときに使い、「えーっと」は、答えの内容を考えている時に使うそうだ

先の引用では出川さんのフィラーの「あのー」がないと聞きやすい気もするが、一方で、「あのー」がないと、センシティブな内容をスラスラ伝えるサイコみや相手への思いやりのなさが伺えてしまう気がする。

出川さんは「あのー」と、会話の随所に入れることで、伝え方を逡巡している雰囲気が伝わって、相手への配慮や距離感を示すための会話のリアルガチ感を演出していた


「砂に埋めたい男ランキング1位」から愛されタレントになるまでの話

あの:一個聞きたいことがあるんですけど、出川さんは昔さー、割と嫌いなタレント系だったじゃないですか。なんかその「大っ嫌いランキング」みたいなやつに入っていたけど。

出川哲朗:大っ嫌いとは言ってないけどね。「大」は自分の感情を入れてるけどね。

あの:「見たくもないランキング」とか入ってたじゃないですか。

出川哲朗:「見たくもないランキング」なんて、そんなのないから。一番ショックだったのはね、「砂に埋めたい男」っていうね

あの:あ、ほらー。変わんないじゃん。何位だったんですか。

出川哲朗:もちろん一位ですよ。

あの:すごーい、それがさ、今もロケの時も、ろうにゃくにゃーんにょ

出川哲朗:老若なん、なん、男女

あの:のさー、若者とおじいさんに話しかけられて、めちゃくちゃ愛されタレントじゃないですか。なんで〜?って。

あののオールナイトニッポン0(ZERO) 2023.06.13 ゲスト: 出川哲朗 ※敬称略

出川さんは昔、嫌われタレントだったのに今は愛されタレントになれたことに疑問を持っているあのさんらしい着眼点でラジオにもふさわしい質問だった。

出川さんが嫌われていた過去には、言い淀んだり、ふざけたりしながら婉曲的に言及していくところもあのさんらしい。

「老若男女」が二人とも言えていないことへのおかしみへの挿入にも抜かりがない

話は中略するが、以下のトークで出川さんは当時を「砂男だった時」として語る。


あの:ぼく、今、ほんと、次世代の嫌われ女みたいな感じ、砂女になりかけ。


出川哲朗:一回、砂女になるのかっこいいじゃん。
いや、あの、あの、あのちゃんは、それは嫌だなと思っているの? それともしょうがないなと思っているの?


あの:ぼくは、正直初めからしょうがないと思ってるけど、なんでそっからそっち(愛されタレント)に変われたの?


出川哲朗:だから、俺もずっと砂男だったけど、そこは逃げなかった。裸になったり、女の子にも嫌われたり、汚いなとか思われるのもしょうがないなと思っていたけど、だからといって、その芸風を変えるつもりは全くなかったの。刺さってる人が笑ってくれてたら良いやって思ってたの。


これはね、あのー、あのー、プロフェッショナルに出た時も「プロフェッショナルとは、ブレないこと。
ブレないで、自分の好きなことをやり続ける人、それがプロフェッショナルじゃないですか。」って言ったの。

イメージは、ホテルの一室で曲がかかってってカッコよく言いたかったんだけど、それを言ったのが、ジェットコースターが登っている時だったの。
それが2、3年じゃないよ、それを20年
…  …  …

あの:はい、こわ〜い。この間(ま)。良い話だったのに。


出川哲朗:ほら、計算してるから、(笑)。30年。そうやってきたのが、大きかった。
あのちゃんもだからガチで言ったら、あなたブレないじゃん。これを10年、20年続けていったら。このままでいいんだよ(小声)

あののオールナイトニッポン0(ZERO) 2023.06.13 ゲスト: 出川哲朗 ※敬称略

ネットで炎上しがちなあのちゃんの気持ちを汲むように、問いかけの前に、「あの」を入れ、抽象的な回答と具体例を示す前に、「あの〜」を入れて、リズムを変える出川さん。

嫌われポジションから、愛されタレントに変わる秘訣について「ブレないこと」と、約束されたリアクションの直前に語るというフリ・オチまで、完成された美しいトークに感じた。

その直後に  … …  …

怖い間。

聞いている立場としても一瞬、緊張感が走った。
いい話の流れだったので、「あのー」で繋ぐと面白くないと思い、緊張感を入れて、緩和に繋いだんだろうと思った。

出川さんは、「セクハラカウボーイ」かも知れず、「砂男」だったようだが、フィラーを使いこなし、リアルガチ感を演出する芸風がブレないプロだった。


えーっと・・・  あのー・・・


昔、アナウンサーの方に人前での話し方を学んだ時、「フィラーは無くしましょう。間(ま)が空くことを恐れないでください。」と指導を受けたことがある。

一般的にはその通りだと思うし、私自身もフィラーをなくすように努めている。

しかし、情報量がゼロで不要だと思っていたフィラーが、実は話者の感情を伝える大事な存在だったんだと気づき、好意的に受け止めることができるようになった。

あののオールナイトニッポン0(ZERO)の出川哲朗さんゲスト回では、タレント名の「あの」とフィラーの「あのー」が重複して混線してしまったが、「あのちゃん」が「えーっとちゃん」だったらもっと聞きやすかったのになと、妄想してしまった。

引用した「あののオールナイトニッポン0(ZERO)」も「言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼」もお気に入りなので、これを読んだ方にもぜひ聴いたり、読んだりしてほしいと思う。


(参照)


※1 あののオールナイト日本0(ZERO) 毎週火曜27時〜
     Sportifyリンク

※2 言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ 言語沼,堀元見/水野太貴,バリューブックス・パブリッシング,2023


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