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一日一頁:谷川俊太郎、ブレイディみかこ『その世とこの世』岩波書店、2023年。
その世
この世とあの世のあわいに
その世はある
騒々しいこの世と違って
その世は静かだが
あの世の沈黙に
与していない
風音や波音
雨音や密かな睦言
読みたかった本というのは実在するがようやく紐解いた。その世を彷彿とさせる奥村門土のイラストも美しい。
複数の世界に生きていることをありありと確認したい。
「わたしはわたし自身を生きる」というのは、(わたしのヒーローである)大正時代のアナキスト、金子文子の有名な言葉ですが、彼女は十三歳のときに朝鮮で川に飛び込んで自死しようとします。でも、飛び込もうとした瞬間に蝉が力強く鳴きはじめたのを聞いて自然の美しさに気づき、死を思いとどまります。「ぼく』の作中詩に出てくる少年も、足元から虫の音のような「いのちのおと」を聞いて「ぼくはじぶんをいきる」と思いますよね。
死んでしまった「ぼく』の最後のページに広がっている青空と、死ななかった文子が錦江のほとりで見上げていた青空は繋がっている気がしました。空は、「この」「あの」「その」の三つを繋いでいる珍しいものだと思います。
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