あんときのデジカメ 讃岐は菜の花の里 with FUJIFILM FinePix F700
(はじめに)身近な日常生活とは省みるほど驚異に満ちたものとは考えられていませんが、ファーブルに従えば「いたるところに、心をうばい目をひくものがみちあふている」ところです。その消息を辿るべく讃岐の菜の花を2003年の富士フイルムフラッグシップコンデジでスケッチしてみました~
いたるところに、心をうばい目をひくものがみちあふれている
この「あんときのデジカメ」のシリーズを初めた頃、ちょうど『昆虫記』の著者で知られるファーブルの伝記を再読していました。それがルグロの、平野威馬雄訳『ファーブルの生涯』(ちくま文庫、1988年)になります。
奇妙な縁といえば縁になりますが、訳者の「平野さんの父君が、ファーブルの知人であった」(奥本大三郎「解説」)などファーブルと訳者を結びつける接点など興味深い背景に満ち溢れたファーブル伝でその詳細については別稿に譲ろうと思いますが、それでも自然と人間に対する慈愛に包まれたファーブル伝としては最良の一冊ではないかと僕は考えています。
さて、「あんときのデジカメ」です。
冒頭で記した通り、ファーブル伝を読みながら撮影を繰り返したきたのですが、それは、同時に、撮影という行為を通して得られる観察ということを改めて考える機会にもなりました。
私たちは見慣れた光景に取り込まれて生活しています。しかし、見慣れた光景を実際には正確には理解していないのではないだろうか……撮影という行為、そしてそれを通した観察を繰り返すなかで突きつけられた問題がそれです。
道を歩けば足もとの一歩一歩に山をいけば岨道のいたるところに、心をうばい目をひくものがみちあふれている。この人里遠くうっそうと木立ふかい庭のなかでは、無数の昆虫が飛びはねたり、翅音をぷんぷんたてたり、もくもくと動いている。その一つ一つがファーブルにそれぞれの物語を聞かせてくれるのだ。
(出典)ルグロ(平野威馬雄訳)『ファーブルの生涯』ちくま文庫、1988年、180頁。
だれ一人かえりみる者もないつまらない土地の一隅にも、いきた符号が無数にひそんでいる
3月になってから、一日一日と暖かくなっていくことに驚いています。毎年繰り返される季節の変わり目に過ぎませんが、
さて、菜の花の季節になりました。春の訪れを告げる風物詩のひとつといってよいのですが、この草花に対してわたしたちはいったいどれぐらい正確な理解を持ち合わせているのでしょうか?
農林水産省のQ&Aによると次の通りです。
消費者相談 菜の花と食用にするナバナの違いについて教えてください。 回答 本来、菜の花という特定の植物はなく、一般的には、アブラナ科アブラナ属すべての花のことをいいます。
なお、菜の花は、十字形に黄色い4枚の花びらを咲かせることから、十時花植物とも呼ばれています。
ナバナとは、アブラナ科アブラナ属の食用の品種のひとつで、ナタネ、カブ、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、カラシナ、ザーサイなど多くのものがあり、この他に観賞用や菜種油用があります。
食用のナバナには、在来種(和種)と西洋種の2種類に分けられ、在来種は葉が黄緑色で柔らかく、花茎とつぼみと葉を利用し、西洋種は葉色が濃く、葉が厚く、主に花茎と葉を利用するのが特徴です。食味は、いずれも甘みとほろ苦さがあります。
平成24年産のナバナ(主として花を食するもの)の収穫量は全国で約5,222tあり、主な産地は千葉県(1,958t)、徳島県(1,248t)、香川県(725t)となっています。
(出典)農林水産省、消費者相談、平成28年4月。
菜の花とは「アブラナ科アブラナ属すべての花」をいい、そのなかに「食用のナバナ」があるようです。そして驚いたのは、僕が流罪されている香川県が主たる生産地のひとつとなっていることでした。こうした事実に気付くことがファーブル的観察のひとつだと僕は考えています。
観察という方法によって、はじめてなぞは解けてくる。だれ一人かえりみる者もないつまらない土地の一隅にも、いきた符号が無数にひそんでいるのだ。だからしずかに探求していけば、このみずぼらしい荒野さえ思いがけない美術館となって、さまざまのめずらしい事実や美しい巻物を見せてくれる。
(出典)ルグロ、前掲書、181-182頁。
2003年の富士フイルムのフラッグシップカメラ
さて、今回、讃岐の菜の花をスケッチするのに利用したのは、富士フイルムが2003年に発売した FinePix F700 です。こちらの後継機であるF710は所有しており、この連載でもご紹介したことがありますが、最近、その初号機であるF700を手に入れたので今回、使ってみました。
個人的な好みから言及すると、最近には珍しい横長ボディが本機の特徴であり、そのカメラらしいフォルムが僕は気に入っています。デジタルカメラでありながらデジタルカメラであることを拒絶するような、まるで高級銀塩カメラのような出で立ちになんとなく惹かれてしまいます。
では簡単にスペックを紹介します。撮像素子は、「スーパーCCDハニカムIV SR」搭載の620万画素1/1.7インチCCDで「白とび・黒つぶれといった現象に強く、明るいところから暗いところまでなめらかな高画質を実現」というシロモノです。レンズは35mmフィルムカメラ換算で、35-105mmの3倍ズームレンズで、明るさはf2.9~f4.9で、露出モードはプログラムオート他、シャッタスピード優先、絞り優先のほかマニュアル撮影にも対応し、RAWでの画像保存もデフォルトで対応できます。横長の金属製ボディは、カメラとしての所有欲を満足させる高級志向で、いうなれば、当時のFinePixのフラッグシップとも言えるような位置づけのカメラといってよいでしょう。
さて、実際の使用感です。この時代のカメラとしてはレスポンスが非常に良いという印象を強く抱くと同時に当時のカメラの「限界」になりますが、1.8インチの小さなLCDがやはり見にくいという印象の否めないカメラというところでしょうか。後者を欠点とするかあるいは時代的制約と理解するのかは判断を迷いますが、輝度を上げれば、まあ対応できるとすれば、欠点とみなすには躊躇してしまいます。
手ぶれ防止機能などもちろん搭載していませんので……そしてそのことはこのF700だけでなく当時のカメラ全般のスタンダードになりますが……ブレに注意しながら撮影してけば、驚くほどよく写るカメラという印象です。ただ「白とび・黒つぶれといった現象に強く」というフレコミですが、こちらはやや過剰かなというインプレッションです。後継機でこの問題は改善されていると思います。
発売当時、「第四世代スーパーCCDハニカム」の「ダイナミックレンジ・階調表現重視のSR」第一弾として登場したのが700です。発売が遅れにおくれ、当初の予定から半年後に販売されたいわくつきのカメラですが、撮影していて非常に楽しいカメラですね。また何か別のテーマで使ってみたいと考えています。
以下、作例です。拙い写真ですが、春を告げる菜の花を撮影してみました。
今回の撮影行でお世話になったのは「讃岐うどんのかつおやいりこの良くきいたかけつゆに自家製細麺を合わせた」 丸宮製麺善通寺店(香川県善通寺市上吉田町6-14-26)さんのの「讃岐ラーメン」です。いっけん、サラッとしていながらあとをひく旨味で癖になりますねえ(右京さんふう。今月も食べてしまいました。今回はだしかき揚げとトッピングしました~。
ということで撮影データ。プログラム撮影、ISO200、ホワイトバランスオート、露出補正なし。画像は2048×1536で保存。
撮影は2020年2月15日、3月5日、3月8日。撮影場所は香川県善通寺市、丸亀市。