あんときのフィルムカメラ 20年ぶりのはじめてのハーフサイズカメラ BELOMO Agat 18K INDUSTAR-104 28mm F/2.8
はじめてのハーフカメラの「思い出」
思い出してみますと、はじめて使用したハーフサイズカメラは、ベラルーシ共和国(旧ソビエト)のBELOMO製のオールプラスチックのハーフサイズカメラAGAT18Kで、その次に使用したのが、アメリカのマーキュリーIIだったと思います。
それは2001年の冬のことで、当時は中野坂上に住んでい、中野~新宿界隈を撮影した記憶があります。ハーフサイズですから、例えば、36枚撮りのフィルムを入れると、倍の72枚撮影できるということで、デジカメ黎明期の当時としては、何かを記録するという意味では、優れた「仕様」だなあと感じた記憶があります。
当時のフィルムは引っ越しで散逸してしまい、具体的には何を撮影したのかはにわかに思い出すことはできないのですが、とにかく、1本のフィルムを使い切るには時間がかかりすぎることで、それ以降使わなくなってしまい、そのうち処分したように思います。
ただ、やはり、写りが良いという評判から、昨年の冬、ふたたびAGAT18Kをウクライナから入手し、フィルムを入れて撮影してみました。しかし、やはりフィルムを使い切るには時間がかかりますね。
さて記憶といえば、独創的な哲学者大森荘蔵先生(1921ー1997)に従えば、つぎのように、その外堀を埋めることができるかもしれません。
過ぎ去った日々や亡くなった人々のことが時折思いもかけず心によみがえる。そのときそうした思い出や面影は何か過去の形見が残されたもののように思われる。それらの日々や人々はもはや二度と戻らないが何かその影のようなものがわれわれの手元に残されている、といったように。ただその影によってわれわれはかろうじて過ぎ去り失われた説きとつながっているのだ、と。
(出典)大森荘蔵「記憶について」、大森荘蔵『流れとよどみ』産業図書、1981年、17頁。
記憶と写真
哲学者の大森荘蔵先生は、「記憶」の特徴を「過去の写し」と指摘しますが、同時に、その比喩には基本的な誤解があるとも言います。つまり、
ある風景の「写し」、例えば写真であるとか絵である場合それは元の風景と同様に眼で見ることのできるものである。それは見えるものとして、見え得る細部を持っていなければならない。(中略)ところがわれわれが何かの風景を記憶の中に思い浮かべるとき、それがどんなに熟知した風景の場合でもそおように見つめることのできる細部をもっているだろうか。
(出典)大森荘蔵、前掲書、19ー20頁。
たしかに、記憶に浮かんだ風景は目に見える映像や写真ではなく「眼でここあそこと見つめることのできる映像ではない」ですよね。つまり、これが記憶や思い出の内堀、あるいは特徴になるのではないでしょうか。
何かを思い出すということは、知覚や認識の対象としてのそれが召喚されるのではなく、存在として召喚されているのかもしれません。
カメラやその他道具をつかって、何かの記録を残すことと、私たち自身の身体に記憶や思い出として留めることは、同じように見えて、大きく違うのかもしれませんね。
思った以上に♪
AGAT18Kに戻ります。
カメラとしては、目測でピントを合わせ、お天気マークで絞りを決め、それに従ってシャッタースピードが自動的に決まる半分マニュアルのフィルムカメラとでも言えばいいでしょうか。
ISOは25/50/100/200/400/800/1600対応。絞りはF2.8/F4/F5.6/F8/F11/F16 と表記があり、お天気マークではなく、こちらで合わせることもできます。開放で撮影したいときとかには便利です。
現像に出してから、改めて写真を見ると、絞りを決めてからのシャッタースピードの自動連動ですが、これがほぼほぼ間違いないことに驚いています。
20年ぶりにAGAT18Kを使いましたが、20年ぶりの目測カメラとなりましたが、思った以上に自分のピントの山の把握力とでもいえばいいでしょうか、被写体までの距離の感覚が悪くなく、精度が高かったころには、こちらも驚いています。
レンズは有名なINDUSTAR-104 28mm F/2.8
ピントと露出が決まればかなり良い写りをするレンズだと思います。逆光には弱いのでご注意を。
それからこのカメラは、撮影する前の仕込みが大切です。ファインダーから光線漏れや鏡胴内のプラスチックの内面反射がひどく、内部反射対策をしていませんと、写真が光線漏れで台無しになってしまいます。こちらの準備をしたうえで撮影することをおすすめします。
では、以下、作例です。
撮影は2021年2月19日から5月1日にかけて。フィルムは、富士フイルムカラーネガフイルム フジカラー 100を使用。香川県仲多度郡多度津町、三豊市、丸亀市、善通寺市で撮影しました。晩冬から初夏への瀬戸内の情景をスケッチしました。サクサク撮影したつもりでしたが、フィルムを使い切るには、やはり2ヶ月強の時間がかかりました。
氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。