UJA座談会「ハンディキャップをもった子どもとの海外留学」前半
はじめに
海外日本人研究者ネットワーク(UJA)のキャリアディベロップメント部では、若手研究者や若手PIのキャリア形成の一助となるべく、海外留学の経験がある研究者にインタビューを行ったり、キャリア体験談をnote記事としてまとめていただいたりといった活動を行っています。
上記活動をしていく中で、ハンディキャップを持つお子さんと一緒に留学すること、海外で生活すること、に関する情報が少ないことについて考えるようになりました。そのために、留学をあきらめている人や、留学先で苦しんでいる方がいらっしゃるのではないかと。
そこで、ハンディキャップ(今回は特に発達について)をもつお子さんとの留学・海外生活経験がある方々の体験談を、国を問わず共有できればと思い、座談会を開催いたしました。
「ハンディキャップをもった子どもとの海外留学・海外生活」をテーマに、司会1名、発達心理学の専門家1名、4名の経験者(うち2名はご夫婦)の計6名でざっくばらんに情報共有いただきました。
なお、大変多くの有益な体験談・意見が交わされ、ちょっとした発言も重要だと思われましたので、対話形式で記載させていただいています。
また、内容も大変充実していたため、前半と後半に分けて公開させていただきます。
本記事は前半になります。(後半はこちらです。)
参加者へのご質問や次回の座談会への参加にご興味などある方がいらっしゃいましたら、お気軽にuja.career@gmail.comかnoteのメッセージでご連絡ください!
参加者紹介
A: 司会進行。UJAキャリアディベロップメント部所属の研究者。
B: 発達心理学の専門家。社会的認知やソーシャルインタラクションの発達に関する研究に従事。学生時代からボランティアとして発達障がいや自閉症の方々と関わる活動を行ってきている。
C: ドイツで発達障がいを持つお子さんとの生活(留学)経験がある研究者。お子さんは自閉症とADHDの診断を受けている。言語発達の遅れが見られたことから現地でロゴペディという言語セラピーを受け、小学校に上がる際に特別支援学校に入学。
D: アメリカで発達障害を持つお子さんとの生活(留学)経験がある研究者。お子さんは自閉症と発達障害を持っており、言葉は喃語を離す程度、呼びかけに振り返ることもまれ。元気に過ごされているとのことだが、将来への不安も大きく、似た境遇の方々と体験談をシェアしあうことで前向きに進んでいければと、座談会に参加いただいた。
E, F: イギリスで発達障がいをもつお子さんお二人と生活されているご夫妻(E: 夫, F: 妻)。上のお子さんが自閉スペクトラム症とADHD、下のお子さんが自閉スペクトラム症と知的障害をお持ちで、Eさんはイギリスで研究を行っている。Fさんは大学に通いながら、Noteでイギリスでの発達支援について発信するなど行っている。また、イギリス特別支援情報について日本語でまとめたサイトや、ご自身の取材や問い合わせをもとに、イギリスの機関・施設で受けられるサポートの情報を掲載したインスタグラムの運営も行っている。
各国で特別支援などのサービスにつながるまでのプロセス
A「最初のきっかけとして、各国(ドイツ、アメリカ、イギリス)で支援に繋がるために、学校や教育、福祉サービスとどういったプロセスを踏んだかについてお話しいただけると助かります。順番にお話しいただければと思いますが、いかがでしょうか?」
C「小児科で定期検診を受ける中で、色々と指摘を受けました。ドイツでは幼稚園の頃から様々なセラピーを受けた方が良いと言われ、小学校に入る前から「この子はそうかもね」という話がずっとありました。しかし、診断をすぐにつけるのではなく、まずセラピーに行って6ヶ月以上経過を見ながら問題を見極めるという方針でした。そのため、2年から3年ほど診断を付けないまま過ごしました。学校は自閉症やダウン症の子供たちがいる特別支援学校(Förderschule)に入ることになり、特にサポートが必要な子供としてサポート(Schulbegleiter)が付きました。最終的に大きなサポートを受けるためには診断が必要で、社会小児医学センター(Sozialpädiatrisches Zentrum)の専門家にお願いして診断を受けました。何度もテストを受けて、ようやく9歳頃に確定診断が下りました。」
A「その過程で日本人(外国人)であることの弊害はありましたか?」
C「ドイツは移民が多いので、ロゴペディ(Logopädie, 言語セラピー)などのセラピーは外国人の子供にも優しく対応してくれるので非常に良かったです。しかし、セラピストを見つけるのが大変でした。英語を話せるセラピストが少なく、子供のセラピーはドイツ語で行われるため問題ありませんが、親との会話が難しくなります。親が理解できないと困るので、英語を話せる人を探していましたが、結局見つからないまま日本に帰ってきてしまいました。また、子供がうまく話せないのが外国人だからなのか、発達の特性によるものなのか判断がつきにくい状況が続き、それは難しいと感じました。」
F「ドイツでも支援を受けるうえで、言語の壁というのは結構大きいですか。」
C「2人目は定型発達の子供で言語の問題もなく進んでいます。2人目の成長を見てようやく、こうなるのはずだったのかと理解できましたが、1人目の時は判断が難しかったです。」
A「アメリカでの支援や学校のプロセスはどうでしょうか?」
D「あまり皆さんにシェアできるようなシステムや経験を持ち帰ることができなかったので、それが後悔として残っています。約2年半前に留学した際、前準備がほとんどなく渡米しました。現地では、自閉症や発達障害のある子供も健常児と同じクラスに入り、特別なプログラムや授業を受けることができると聞いていましたが、受け入れてくれる学校が少なく、朝から夕方まで週5日間のスペシャルセラピーを受けられるような機会は少なかったです。見つかったとしても、費用が非常に高く、家賃と同じくらいの費用を支払わなければならないこともあり、継続するのが難しかったです。留学期間のうち、最後の半年ほどになってようやく、公立の小学校で朝から夕方まで、週5日間のセラピーを受けられる環境が整い、手続きも進めて費用もほとんどかからないようになりました。しかし、そのタイミングで帰国することになりました。妻が一生懸命調べて、スペシャルニーズの子供に対する助成金やグラントの手続きを進めようとしましたが、具体的な書類作成までには至らず、そのまま帰国しました。このように、システムや経験としてお伝えできるものは少ないのですが、以上が私の経験です。」
C「アメリカはお金がかかるんですね。」
D「そうですね。最初に保育園、キンダーガーデンは非常に高かったですね。一人当たり月に10万弱かかりました。これは外国人だからというわけではなく、そもそもそういう価格帯だったり、安いところの枠が既に埋まっていたりしたためだと思います。私の手続きが遅かったことも影響していると思います。」
F「行政とかはどのくらい関わるんですか?自閉症のサポートについて、例えば学校探しを手伝ってくれるとか、行政から療育が入るとかはあるのでしょうか?基本的にはプライベートのものしかないという感じなんでしょうか?」
D「行政の方には電話やメールでコンタクトを取ったものの、サポートとして十分な情報がないとか、診断書がもう一つ必要だとか、そういったことでなかなか進みませんでした。日本で通っていた療育センターの小児科の先生に診断書を書いてもらいましたが、そのやり取りもうまく進まず、最終的には行政のサポートを得ることができませんでした。そのため、個人的に探して対応していました。」
F「学校とのコンタクトも全部ご自分や家族でやられたのでしょうか?」
D「個人的に学校を探しました。準備不足のせいで苦労したのかもしれませんが、できる限り周りの人に聞いたり、近くの公園で自閉症や発達障害の子供を持つ親に話を聞いたりして情報を得ていました。アメリカに行くと、ABAセラピー(Applied Behavior Analysis)という、自閉症の子供に良いとされるセラピーがあると聞きました。Googleで検索して調べましたが、空いていない、非常に遠いなどの理由でなかなか見つかりませんでした。それでも、お金のことは二の次にして、見つけたセラピーに通わせ始めました。」
C「ドイツでもセラピーのウェイティングリストは長いです。私たちの場合、英語が必要だったのでさらに難しかったですが、数ヶ月は待つのが普通だと言われました。」
D「私たちのところも同じ状況で、いろんなところに同時に申し込むように言われました。」
C「うちはドイツで生まれて、初めからドイツのサポート体制に乗っていたので、常にケアが受けられ、記録もすべて揃っていたため、スムーズに進めることができました。しかし、外で生まれて外で診断を受けてから来る場合、途中でサポート体制に入る形になるため、現地生まれとは異なる苦労があるのだろうと感じました。ちなみに、ドイツでは一切お金がかかりませんでした。」
D「何かに申請したからということですか?」
C「初めからすべて無料です。教育費は基本的に常にゼロですし、医療費も完全にゼロです。サポートもすべて無料でした。うちの子には、教室の中に専用のサポートスタッフが1人ついてくれました。特殊な学校の中でもさらにサポートを受ける形で、市がその費用を負担してくれました。そのサポートについては申請書を書く必要がありましたが、それも特定のグラント申請書ではなく、学校がシステムに沿って申請をしてくれました。私たちはサインをして診断書を添えるだけでした。(注釈:ドイツの健康保険・社会福祉システムは極めて複雑なため,加入している保険会社によって対応が違う可能性もあるので注意)」
E「お金のことに関しては、ビザのタイプによって規定されている部分が大きいのではないかなと思ったりします。私は学生ビザで来ているので、例えばチャイルドクレイム(児童手当)を受けられなかったり、受けられるサービスが異なったりします。ドイツで生まれたということは、そのようなビザの違いがあるのかなと、勝手にイメージしていました。」
C「ビザは多分、私の家族は僕の研究者ビザに紐付いた家族ビザだったと思います。確かに、学生ビザではどうなのかは分かりません。学生ビザで子育てをしている友達はいませんでした。ドイツ人で子供がいる学生はいましたが、確かにそうですね。ちょっと考えたことがなかったですけど、調べてみます。ありがとうございます。」
A「イギリスでの支援までのプロセスを教えていただけますか?」
F「私たちは今、まさにプロセスの真っ只中におります。Cさんがおっしゃったように、移民として外から入ってきた人が支援を受けるのは非常に厳しいものがあります。イギリスでは一度支援に乗るといろいろなサポートが受けられますが、その支援に乗るまでが非常に大変です。現在、一番大きな課題は、EHCプラン(特別支援学校に入るための支援計画)を得るためのプロセスを進めていることです。まずそのプロセスを開始するまでにも多大な労力が必要でした。その中で、移民は特に言葉の壁やプロセスの複雑さに直面しやすいと思います。学校やナーサリーが主にこのプロセスを開始するのですが、スタッフも専門家ではないため、「2歳3歳ならこんなもの」と判断され、支援やEHCPのプロセスを開始してくれないことがあります。また、我々のような移民の場合は言葉の問題にされてしまい、「言葉が分からないから時間がかかるだけ」と言われることもあります。」
A「Cさんと一緒ですね。」
F「そうですね。正式な診断の面からみても、まずは専門医にかかるまでに長い時間がかかります。そして基本的には診断をすぐに行うわけではないです。すべてのナーサリーや学校といった場所に正しく発達のアセスメントできる職種がいるわけでもありません。相談にNHSなど公的なものを経由すればまた長い待ち時間が、プライベートで依頼するのであれば高額な費用が掛かります。自治体によっても支援の差が大きく、日本ほどスペシャリストにアクセスしやすい環境でもないため、これらの様々な要因が絡み合い、支援から漏れてしまう子供も少なくないようです。私たちは日本から診断書を持ってきたので、比較的早く「日本で診断を受けているならプロセスを開始しましょう」となったのだと思います。しかし、EHCPを取得するにも自治体に申請をしてから約20週間という長い時間がかかります。その中でEP(エデュケーショナル・サイコロジスト)やSLT(スピーチ&ランゲージセラピスト)、小児科医など専門家からのアセスメントを受けて、本当にEHCPが必要な子どもなのか、必要な場合はどの程度の支援と資金が必要であるのかを判断されます。学校のレポートも重要で、学校でどれだけ困り感があるかに焦点を当ててアピールすることも必要だそうです。これには多くの時間と労力がかかります。今は子供2人分の手続きを進めていますこのアセスメントで必要性を判断されるとようやくEHCプランが発行され、ファンドがでて、特別支援学校への入学や学校での正式な追加のサポート、言語療法士などの専門家からのサポートが受けられるようになります。」
C「すごくドイツと似ています。」
F「しかし、EHCPのプロセスを開始する前に却下されたり、アセスメントの結果必要ないと判断が下ってしまうこともあります。イギリス自体が十分な支援資源を持っているわけではなく、EHCPの予算はカット傾向にあります。現地の人でさえ支援を受けることに苦労している状態も珍しくありません。自治体によっては特別支援学校も空きがないです。重度の子供でもまずはメインストリームの学校に入学せざるをえなかったり、学校が決まらない場合もあります。最終的に特別支援(SEND)に関するトライビューナル(裁判)まで持ち込むことも少なくありません。私たちも次男について高いレベルの支援が決まりましたが、それでも特別支援学校には空きがないと言われています。プライベートの特別支援学校でEHCPなしで受け入れてくれるところもありましたが、年間最低でも700〜800万円かかるため、現実的な選択肢とはなりませんでした。ここに持ってくるまでに毎日地道に動き続けても我々家族は1年弱かかっているので、特に移民の場合は、言葉の壁も絡んで、適切な支援先や支援方法にアクセスするまでに非常に時間がかかる印象です。」
A「今お話しいただいたプロセスなどは、事前に日本語でウェブ上に情報があるわけでは当然ないですよね。皆さん各々の国の制度を各々の国の言語で調べ、それを自分たちで理解して対応しているんですよね。大変ですよね。」
C「ドイツでドイツ語で探してもなかなか情報が出てこないです。やっぱり聞かないとわからないですね。うちはたまたま入る予定だった学校の校長先生が特別支援学校と強いコネクションをもっている方で、よく慣れていたので、入学前の面談ですぐに、「支援学校を検討した方がいいんじゃないか」と判断して回してくれました。情報もすべて校長先生がガイドしてくれて、「まずここに行って、次はここに行って、次にこれをして」と指示してくれました。実際にいろんなところをたらい回しにされ、いろんなテストを受け、いろんな書類を書きましたが、その先生がすべてガイドしてくれたので、本当に運が良かったと思っています。」
A「経験者がいることや、体験した人たちの話が情報としてあることは重要ですよね。きっといろんな場面で役立つだろうなと思います。今お話しいただいたことは、これから同じような道を歩む人にとって非常に有用だと感じました。皆さんも本当に苦労しながら進んでいる様子がよく伝わってきます。」
F「なんかすごく孤独じゃないですか?特に、日本人で定型発達ではない子供を持つ親のコミュニティがそもそも少なかったりしますし。」
C「少ないですね。日本人の友達はたくさんいても、同じような子供を持つ親はいませんでした。うちの子はちょうどグレーゾーンの子で、見た目は普通なんですが、普通にやろうとすると全然ダメなタイプなんです。こういう悩みを話すと、「全然大丈夫じゃん」と言われたりするんですよ。それが逆に辛くて、「違うんだ、お前は何も知らないだろう」と思いながらも、そうは言えないんです。」
子どもの発達についてオープンにするか否か
A「Dさんとこの座談会の開催についてやり取りしている中で、文字起こし記事をする際に、一応匿名でという前置きをしていましたが、自閉症などの特性を持つお子さんがいることをオープンにするかどうかについても、意見が分かれるなと感じました。Dさんは、自閉症などの特性も数ある特性の一つで、別に隠すことではないというスタンスだったような気がしました。それは個人の考え方なのか、それともアメリカの国としての考え方なのか、どちらが強いのでしょうか?」
D「後者ですね。子供が3歳の時まで日本で小児科医をしていたんですが、自閉症児の父親としては全く成長できていませんでした。妻に任せきりだったんです。渡米して基礎研究をすることで家族との時間をしっかり持つことができたことは、僕がアメリカに行って良かったなと思うことです。公園に行ったり、学校の先生と話をしたりする中で、家族全体でハッピーになるためにはどのように子どもと接するのがよいかを現地の皆さんと話す中で学びました。アメリカや他の国々では、オープンとかクローズといった概念ではなく、特性をみんなが知っていた方が親としても辛くないし、隠すと孤独感が増してしまう気がします。隠してしまうと、定型児のコミュニティとは遊べないし、だんだん孤立化してしまうことを心配しています。アメリカではコミュニティで支え合ってくれることが多く、それが非常に嬉しかったです。帰国後も職場で「うちの子は自閉症で発達障害があります」とオープンにすることで、アメリカに行く前よりも楽になりました。しかし、日本の社会ではハンディキャップを持つことが理解されにくく、分けて教育されるため、大人になってもどう対応すべきか分からない人が多いです。一方、アメリカでは大人も子供も一緒に対応し、コミュニティで支え合ってくれるので、とても助かりました。そのため、できる限りオープンにして、受け入れてくれるコミュニティでハッピーになれるようにしたいと思っています。」
C「本当にめっちゃ分かります。ドイツに行ってから、家に帰りやすいし、学校に迎えに行ったりもできるので、子供と長い時間一緒に過ごせることが何より良かったです。
オープンにすることについてですが、私も結構知り合いには普通に言っています。私自身が子どもの特性を特別なことではなく、ただの個性だと思っています。そのため、普通に話していますし、相手も多少の心構えをしてくれると、トラブルがあった時に話しやすいという面もあります。自分の子どもと接することで、相手の考え方にも少し変化があれば嬉しいと思っています。
ただ、気をつけているのは、不特定多数に言うのはまた別のことだと思っています。例えば、SNS等で実名で「うちの子は自閉症だ」と発言するかどうかというのは、子ども自身が決めることだと思っています。家族や友達には私が伝えても構わないですが、パブリックに公開するのは控えています。もう少し大きくなったら、どうして欲しいかを話し合いたいと思っていますが、それは難しい部分ですね。
日本では6学年で数人しかいない特別支援学級におり、同じ学年の友達が少なく、子どもにとってはかわいそうだと思うこともあります。
それでも、たまに普通のクラスに戻って活動することがあり、日本の子供たちもうちの子に優しく接してくれるのが嬉しいです。先週の運動会でも、彼女がダンスや歌がうまくできない時、5年生や6年生が一緒に応援してくれて感動しました。一方で、スポーツクラブでは彼女の失敗で失点したりすると怒る子はいますし、彼女の動きや言葉を真似してからかわれることもありますが、それを責めることはできません。発達障がいというものを周囲とどう共有していくのか、とても難しい問題だなと思いながら見守っています。」
E「オープンにするかどうかについて私が最初に考えたのは、ある特別奨学金をもらった時でした。奨学生の記事を載せたいと言われたのですが、家族の写真を載せることになり、不特定多数に公開することになります。子供の写真を鮮明に載せてしまったら、そのページがずっと残り続け、子供が大人になった時にそのページを見て「自分は普通じゃないのか」と思ってしまうかもしれないと妻と話し合い、写真は遠くから撮り、顔をぼかして載せることにしました。その記事もいずれ消してもらいたいと考えています。
オープンにするべきかどうかについては、オープンにすることで相手に気を使わせてしまうこともあるのかなと思っています。また、ある日後輩に「うちの子は自閉症なんだ」と話した時、「あまり言わない方がいいですよ」と言われました。その真意は分からなかったのですが、日本にはそういう風潮があるのだなと感じました。日本では型にはめるような教育や、特性を伸ばさずに平均的にする教育が昔から行われているため、尖った子を受け入れる器がなかなか整っていないのではないかと感じています。一方、イギリスでは「オーティズムでしょ、知ってるよ、大変だよね」という感じで、特性を伸ばしていければいいよねという雰囲気があります。これが日本とイギリスの違いだと感じています。」
F「子供たちよりもむしろ、親の方が偏見やバリアを持っていることの方が多いのかなと思います。日本にいた時、子どもの自閉症を打ち明けると距離を置かれてしまった親子もいました。その時、影で「彼、自閉症なんだって」と言われたこともあります。しかし、それを言っているのは親であって、案外子供はそんなに気にしていない印象です。その親御さんが長年持っているステレオタイプ・価値観を責める気にはなれませんが、オープンにした場合そういう状況で子育てをするのはやはりきついと感じました。」
C「そういう偏見をなくしてほしい気持ちもあって、近しい人にはあえて自閉症のことを伝えるようにしています。誰にでもではないのである程度親同士の関係性ができた後ではありますが、「実はこうなんです」と深刻に言うわけでもなく「この子、足が速いんです」という感じで「この子、自閉症なんです」というように普通に伝えて、普通に過ごしています。そうすることで、その人の意識が少しでも変わったら嬉しいなと思っています。ちょっと意識的に様子を見ながら、あえて明るくそういうことを言ったりするようにしています。どれだけ効果があるのかはよくわかりませんけどね。」
F「いやでも、それはすごく大事なことだと思います。正直、とても勇気がいることでもあるので、本当にすごいです。」
D「さっきFさんがおっしゃられたことに、とても考えさせられました。親として、いかに自分たちがハッピーでいるかが重要で、それが定型児の長男にも良い影響を与えると思います。私たち家族として幸せに生きていくためには、僕自身や妻もハッピーでいられるような状況を作ることが大切だろうなと感じています。しかし、そのためにはどうすればいいのか、まだ答えが見つかっておらず、もがいている状態です。日本人が自閉症に対して偏見を持っているということ自体が、今では偏見なのかもしれないと思いつつ、日本人は冷たいと感じることもあります。関わりを持ちたいが否定されるかもしれないと距離を置いてしまい、結果的に暗くなってしまうこともあります。まず、僕らもハッピーにならなければならないと思っています。ハンディキャップを持つ親として、強いマインドセットを持ち続けるにはどうしたらいいのかと日々考えています。どういう気持ちで日々過ごしているのか、もしシェアしていただけることがあれば教えていただきたいです。」
座談会後半はこちら!
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