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フィジカルコーチを経て大学教授へ

広瀬統一
早稲田大学スポーツ科学学術院 教授

今のご職業に就くと決めた時期は?

 大学教員になろうと思ったのは25歳のころでした。イタリアのいくつかのユースチームの練習見学に行ったときに、それらのチームのフィジカルコーチが午前中に大学や中学校の教員をしながら午後に指導にあたっている姿をみて、研究や教育とスポーツ指導のつながりを受け入れている社会の在り様に感銘を受けました。また彼らと同じく、私も子どもの指導は自身のライフワークであり、ライスワークをもつ必要性も考えていました。ただ、二足の草鞋を履くのは、ずっと後にしようとも思っていました。しかし、その機会はずっと早く訪れました。

 博士の学位を得て数年後、私はチームのフィジカルコーチとしての仕事についていろいろな悩みを抱えていました。大学院時代の恩師に相談したところ、ちょうどそのタイミングで今の職につながる公募がでていることを教えていただきました。期限付き講師の公募でしたが、母校であったことは一歩足を踏み出すには十分な条件でした。また、色々悩みはあれど、フィジカルコーチの仕事もその当時在籍していたチームも心から好きだったので、期限付きだからこそ、チームに戻って大学で得た経験を還元できる可能性があると思い、チャレンジしました。大学教員の職に就くことはそんな簡単なことではないことを知った今では、よくそんな考えで応募できたものだと思っています。ただ、大学で学生とともに学び、素晴らしい同僚や先輩たちと議論するなかで、初めて大学教員という仕事の楽しさや意義を感じ、できるならばこのまま大学教員として仕事を続けていきたいという想いも芽生えました。そして多くの方から支援や助言をいただき、改めて専任教員の公募に臨み、今の職に就くことになりました。

 以上の経緯だけをみると、とても順風満帆な進路を歩んでいるように思えますが、実際には学部を卒業する頃には自分探しに多くの時間を費やしました。自分に向いていることや気づいていない特性があるのではないかと、様々な仕事や説明会などを経験し、消去法的に自分の進路を探しました。そのような経験のなかでも、常に続けていたのはスポーツ医科学の勉強や、当時お世話になっていた大学内の健康管理センターでのアスレティックリハビリテーションやトレーニング指導についての学びでした。このような経験を通じて自分自身が好きなことを認識したことを覚えています。大学院へ進むという決断をするまでにも様々な選択肢を考えましたが、最終的には自分が「トレーニング指導とスポーツ医科学を学ぶことが好き」だということ、そして大学時代の恩師から学びたいという気持ちから、進路を選びました。

 このように大学での教育や研究、そしてサッカーでのトレーニング指導など、自身が好きな仕事が十分にできていることに、とても感謝しています。自分の今の生活に満足かと聞かれれば、自信をもって満足しているといえます。しかし私の仕事、すなわち大学教授としての仕事は、教育を通じて学生の成長を支援し、研究を通じて新たな知を生産し、学術的知見をもとに社会の豊かさに貢献することです。そしてフィジカルコーチとしてはトレーニング指導を通じて選手の成長を支援し、選手の目標達成に貢献することです。これらを総じていうと、私の仕事は人を生かすことで自分が生きる仕事であると言えます。だからこそ、関わる人々の成長や喜びを共有できた時に、初めて大きな満足感とやりがいを感じるのです。この延長線上に私の夢もあります。私の今の夢は、スポーツ科学やアスレティックトレーニングが、多くの方の成長や喜びに貢献できる未来を創ることです。この大きな夢のなかに、私の小さな夢として、家族がいつまでも笑顔で過ごせる人生も描いています。

著者略歴

1997年早稲田大学人間科学部卒業。
2004年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。
2006年早稲田大学スポーツ科学学術院客員講師、専任講師、准教授を経て2015年より教授。
東京ヴェルディ1969、名古屋グランパスエイト、京都サンガ、ジェフ千葉のユースアカデミーのフィジカルコーチを歴任。
2008年からはサッカー女子日本代表のフィジカルコーチを務める。
連絡先:toitsu_hirose@waseda.jp、ラボHP 
Facebook: /hirosenorikazu, Instagram: nori1hirose

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