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アプリのUXライティングにも通じる?『数学文章作法』を読んで考えたこと

6〜7年前に書店で目にして気になり、購入した本がありました。『数学文章作法』というタイトルからして少し硬そうですが、数学の証明のように正確でわかりやすい文章を書くための指南書です。

ところが、途中まで読んだまま本棚に眠り続けていました。

年末年始の片付けの際に処分しようかと手に取ったところ、「これは新人教育に使えるかもしれない」と思い、改めて読み直してみることにしました。

ビジネス文書において「わかりやすく書くこと」は非常に重要です。私自身、新人に文章指導をする中で、どんな本を渡せばよいか迷っていましたが、本書はその一助になりそうです。本記事では、本書の内容を整理しながら、文章をわかりやすく書くためのポイントについて考えてみます。


1.『数学文章作法』とはどんな本か?

著者は「数学ガール」シリーズを執筆した方のようで、私は知らなかったのですが、本書には数学の証明問題で出てくるような文章を使い、わかりやすい日本語について解説をしています。

思い出すと、数学の証明問題に取り組むときには、かなり正確な日本語を積み重ねて書いており、自身もビジネス文書の正しい書き方を先輩に教わったときには、まるで証明問題を解く時のように精緻な文章を書くんだな、と感じたことを思い出しました。

本書では一番最初に、以下のような目的そして原則が書かれていて、最後まで一貫して読者のことを考えて文章をつくるように、と言ってくれています。

 こんにちは。本書『数学文書作法』では、
   正確で読みやすい文章を書く心がけ
をお話します。数式まじりの説明文が題材の中心です.
 あなたが文章を書くときの大きな目的は、
   あなたの考えを読者に伝えること
です。
・・・
 本書では、正確で読みやすい文章を書く原則をお話します。その原則は、
   読者のことを考える
と一言で言えます。

数学文書作法|はじめに

2.備忘録|文章をわかりやすくするポイント

改めて文章について学び直しているような気分になりましたが、気に入った箇所がいくつかありましたので、自分の備忘録としても残しておきたいと思います。
一部はデザインシステムの用字用語などにも参考になるような内容だと思いました。

1)読者のことを考える

文書を書くときに最も大切なこと。では読者の何について考える必要があるのか。少なくとも次の三点について考える必要がある。
・読者の知識|読者は何を知っているのか
・読者の意欲|読者はどれだけ読みたがっているのか
・読者の目的|読者は何を求めて読むのか

読者の知識
読者の知識は不変でなく変化するものである。読み進めるあいだもずっと変化している。よって、文章を書くときは「順序」を意識しなければならない。順序が的確なら、読者は著者に対して信頼を寄せる。

読者の意欲
読者の意欲を向上させるには「変化」が一番である。同じ調子がずっと続く文章では、読者飽きる。意欲を向上させるために、何かを変化させる。また読者の意欲を保つためには「なるほど!」といえる題材を適切なタイミングで提示する。
・抽象的な話が続いたなら、具体例を出す。
・具体的な話が続いたなら、まとめを出す。
・言葉の説明が続いたなら、図・グラフ・表を出す。

読者の目的
読者の目的もまた、固定的ではない。文章を読み進めるあいだに絶えず変化する。読者が自分の目的に合致する箇所を探しやすくするためには目次と索引が重要となる。

2)形式の大切さ

文章は内容が大切だ。
だからこそ、
形式をきちんと整えなければならない。
読者に伝えたい内容が大切なものであるほど、形式をきちんと整えなければならない。

漢字とかな

接続詞・副詞・指示語は、ひらがなで書いたほうが読みやすくなる。
然し→しかし、若し→もし、例えば→たとえば、従って→したがって
全て→すべて、既に→すでに、此の→この、其の→その、或る→ある

「とき・こと・もの」を形式的に表現するときも、ひらがなを使う。(ときは実際の時間を意味してない場合など)
〜する時→〜するとき、〜する事→〜すること、〜する物→〜するもの

アラビア数字と漢数字

任意の自然数が入る場合には、アラビア数字を使うことが多い。
 1人の男性(n人の男性といえる)
 2枚のドア(n枚のドアといえる)
 3パターンの行動(nパターンの行動といえる)

通常はnで置き変えられないものは漢数字を使う。
 一人きりで過ごす。
 いま一つ理解できない。
 二の句が継げない。
 「三人寄れば文殊の知恵」という

書体

英数字列を書くときは、半角数字を使う方が無難。
 Webページを表示して12秒が過ぎた。

記号

カギカッコ(「 」)は短い引用や発言に使う。二重カギカッコ(『 』)は署名に使う。
 ボリヤは『いかにして問題を解くか』で、このことを「定義にかえれ」と表現した。

列挙の順序を入れ替えても構わないときには、列挙の区切りにナカグロ(・)を使う。順序を入れ替えないときには、読点(、)やカンマ(,)を使う。
 信号は青、黄、赤の順に点灯する。

文は短くする。文が長いと読みにくくなる恐れがある。
 〜であるが、〜である。 → 〜である。しかし、〜するである。
 〜であり、〜である。→ 〜である。また〜である。
 〜だから、〜である。→ 〜である。よって、〜である。
 〜のに対し、〜である。 → 〜である。これに対し、〜である。
 〜で、〜で、〜である。
 → まず、〜である。次に〜である。最後に、〜である。である。

3)順序

読みやすい順序で読者に提示する。読者が読みやすいように自然な順序で書く。

時間に関わる文章は、
 過去→現在→未来
の順序が自然。場合によっては
 未来→現在→過去
と時間を遡る。

それ以外では以下のような順序。
・作業の順序
・空間の順序
  上→中→下、下→中→上
・既知から未来へ
  既知→未知
・具体から抽象へ
  具体→抽象

3.まとめ|『数学文章作法』をどう活かすか?

本書は「読者のことを考える」というシンプルな原則に基づいて、文章の書き方を体系的に解説しています。

新人教育において、文章のわかりやすさを重視する際、心理学的なアプローチもありますが、まずは本書のように「論理的にどう整理すれば伝わるか?」を学ぶ方が実践しやすいと感じました。

また、この考え方は文章だけでなく、アプリのUIテキストやUXライティングにも通じる部分があります。「読者(ユーザー)のことを考え、適切な順序と表現で伝える」という原則は、どんなコミュニケーションにも応用可能です。

まずは新人にも本書を読んでもらい、実践を通して「わかりやすく書く力」を身につけてもらいたいと思います。


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