1 : ホームタウン
「ここには何もないよ」と話す君の目には大きな海が映っている。
「何もない」って言葉が嘘だってこと、その目がいちばん知っている。
そうだね。高いビルも、美味しいパンケーキ屋も、セシルマクビーも、確かに私たちには無い。
でもね、
朝のおろしたてみたいなにおいとか
太陽に照らしてもらってる海のかわいい笑顔とか
私たちが知ってるものだって結構あるよ。
“この町はたしかにうつくしい”
空気の中に私の声が消えていく。
冷たい風が、そうでしょって嬉しそうに囁きながら通り過ぎた。
そう。私にも自然が分かるようになった。
木々と太陽のじゃれあいや
妖精が散歩する冬の朝は
この上なくうつくしいんだよ。
私はこの町で、素直に泣くことを覚えた。
でもね、時々は苦しくってこらえようとすることを許してほしい。
我慢するために天を見つめたとき、
この町にだってきれいな夜景があるって気づく。
ちらちらした輝きがちょっとだけ滲む。
ここは私たちの自慢だ。
深い呼吸が心地よくて、
大きな声で、この気持ちをどうしても叫びたい。
“だから、だからお願い。
私の好きな町を「何もない」なんて言わないで
どうか君にだけは、
このうつくしさを分かってほしい”
この町に、背中を向けてしまわないで。
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