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宇宙のなかの人間と、人間にひろがる宇宙|角野隼斗 JAPAN TOUR 2025 HUMAN UNIVERSE

世界で活躍するピアニスト、角野隼斗さんの日本ツアー・鹿児島公演(2025.2.4.宝山ホール)に行ってきましたので、その感想を書きます。

※ネタバレしていますので、ここから先は知りたい方のみお読みくださいね!


HUMAN in the UNIVERSE
UNIVERSE in the HUMAN

開場時に渡された紙製のプログラム。まずは、その上質なつくりに驚きました。冊子のページをめくると、はじめに曲目。とはいえ、曲名が上から下へ順に並んだありきたりなものではありません。宇宙空間のような図の中に、ばらばらと曲名が置かれています。全体は3つの大きなまとまりに分かれていて、それぞれにテーマがあるようでした。

角野さん自ら、プログラムについて説明をされました。曲目はあらかじめ決めているものの順番は公演ごとに変わり、曲と曲の間は即興で繋いでいくとのこと。さすが、演奏家としてだけでなく、作曲家としてもすばらしい才能を発揮している角野さんらしいアイデアだな!と、大変感銘を受けました。

実際に演奏を聴いて、やはり感じたのはオリジナル曲のすばらしさです。私は角野さんの作る曲にいつも心を揺さぶられます。今ツアーのタイトルにもなっている「HUMAN UNIVERSE」の強かな響きには、広大な宇宙を旅する気持ちを味わえましたし、「3つのノクターン Ⅱ:After Dawn」の美しいメロディーには、人間や自然といった”生あるもの”の温もりを感じました。

印象的だったのは、MCで聞かれた「音楽は生み出すものではなく見つけるもの」というフレーズです。古代の人々の考え方であり、角野さんの音楽の捉え方にも近いのだそう。角野さんの表現には、土台として、音楽や宇宙、自然に対する畏敬や尊敬の念があるのでしょう。それは普段小説を書いたり、歌を歌ったりしている私にとってもハッとする視点で、私ももっと言葉や歌を信頼し、すでにあるものに目を向けたいと思いました。

それから少し脱線する話ですが、私は出産を経験してから「人体とは宇宙の縮図みたい」と考えることがたびたびあります。体には、真ん中に太陽みたいな心臓があって、ほかにも脳とか腸とか、たくさんの部位がバランス良く配置されていて。どんなに小さな部位でも、それぞれが生命の維持や安定に欠かすことのできない大切な機能を持ち、24時間365日、休まずに生きて働いている。角野さんがおっしゃる「HUMAN in the UNIVERSE/UNIVERSE in the HUMAN」の言葉にどのような解釈があるのかは分かりませんが、もしかしたら角野さんにも、宇宙と人間とがだぶって見える感覚があるのかなあと思っています。(あくまで個人的な感想です)

演奏曲としては、スクリャービンの「ピアノソナタ第5番op.53」も強く心に残っています。一言では表せない、掴みどころのない曲でした(角野さんも思わず「ヘンな曲」とおっしゃっていました)。うっとりしかけたところで一気に逆側に持っていかれるような、どこまでも着地しない、最後もあっけない曲。ともするとフラストレーションが溜まりそうですが、心はなぜか落ち着いていて。本当に不思議な曲です。

音楽のなかに息づく
景色と体温

実は角野さん、お父さんが鹿児島のご出身だそうで、「小さい頃からよく来ていた」とか、「”隼斗”の名は”薩摩隼人”に由来している」とか、「昨日はおじいちゃんの家に行ってルーツを辿る旅をした」とか、いろいろと話をしてくださいました。

私は角野さんについて、東大大学院の、しかも理系のご出身で、ショパンコンクールのセミファイナリストで、人気YouTuberでもあって、今はニューヨークで暮らし世界を飛び回っている....と、まばゆく見えるその経歴から「都会的で洗練された、クールな方なのかな」と勝手なイメージを持っていたのですが、実際に生の演奏に触れて感じたのは、「ものすごい情熱家で、優しくて、あたたかな心を持った方なんだ!」ということでした。それはなんとなく、”鹿児島らしさ”とも近いような気がします。

今後ますます世界を羽ばたかれるであろう角野さんが、ここ鹿児島で幼少期を過ごしていて、もしかするとその時の記憶や感覚が角野さんの表現の一部になっているのかもしれない。そう考えると、とても誇らしい気持ちになります。

宇宙に佇むたった一人の人間と、人間のなかに広がる果てしない宇宙。角野さんが音楽で描いてゆく景色を、これからも楽しみに拝聴します。


きらきら星変奏曲
ロビー
サインあった✍️
パンフレット
曲目
宝山ホールの壁

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上野イクヨ
本の出版を目標に執筆を続けています📙📕📘よろしければお力をお貸しください🐆🦒🦓🦩🦚🌬️🫧