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音楽のこと|Thank you for the music

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「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
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#thank_you_for_the_music について

「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
#thank_you_for_the_music のタグからお探しくださいね。

(ちなみに“thank_you_for_the_music”は大好きなバンド、bonobosの曲からいただいた名前です)

透きとおった人たち

透きとおった人たち

急に思い出したのは、
大好物 を聴いたから。

むかし、とある地方のまちの、CDショップ(レコ屋と言ってました)で働いていました。

都会から遠くはなれた場所ならではだったのか、時々、そのまちを訪れたミュージシャンとお会いできるという機会に恵まれました。

そのなかでは、わたしがずっと大好きな、ふつうに暮らしていたら会うことはないだろうな、というミュージシャンとの対面も。

あのね、そういう人たち

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【旅日記】東京2024秋|7.上野 〈 不忍池 〉(完)

【旅日記】東京2024秋|7.上野 〈 不忍池 〉(完)

蓮の葉ゆらす風の中で

そしていよいよ、東京ラストデイ。最後の日は上野・不忍池へ。

若かりし日の2年間を過ごした東京で、わたしは夢にやぶれ、というか夢に挑むことすらできず、ただ無力感だけを引きずって地元へと戻った。「東京はわたしには合わなかった」。そういうことにして、夢からも離れて。

なんとなく後味の悪い東京生活だったけれど、いくつかの心の拠りどころはあったのだと思う。上野周辺はそんな場所のひ

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【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

分かりにくさ、分かりやすさ

映画のあと、ライブまでの時間を会場近くのプロントで過ごして、ふたたびLINE CUBE SHIBUYAへ。

折坂悠太さんのライブ2日目は、1日目とは違う印象を受けた。1日目よりも冷静なわたしで観られたということが大きかったのだと思う。折坂さんの歌、昨日よりエモいなーとか、お客さんの層がたぶん昨日とは違うなー(ビギナーが多かった感じ?)とか、「感じること」に「考えるこ

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【旅日記】東京2024秋|3.折坂悠太・呪文ツアー 〈 LINE CUBE SHIBUYA 10/17 〉

【旅日記】東京2024秋|3.折坂悠太・呪文ツアー 〈 LINE CUBE SHIBUYA 10/17 〉

あなたがくれた、とっておきの呪文

この旅の大きな目的というか、そもそもこのライブを観たくて決めた東京行きだった。LINE CUBE SHIBUYAはわたしの地元からは遠く、行きやすい会場とはいえなかったけれど、タイミングや流れに任せていたらいつの間にか東京に来ることになってしまった。

なんせ東京自体も久しぶりで、LINE CUBEは初めて。渋谷公会堂だった頃は何度か来たと思う。

開場前、列に

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エッセイ|燃え殻3

エッセイ|燃え殻3

まただ。また今日も、燃え殻さんに泣かされた。

わたしは燃え殻さんに会ったこともないし、じぶんの生い立ちについて話したこともないのに、なぜか燃え殻さんはわたしの「人生のベストソングリスト100」(そんなリストは作っていないけど)に入っているような特別な曲たちのことを知っていて、いつもラジオでわたしの心をぎゅーんと突いてくる言葉を発したあと、そのリストの中からぴったり合った音楽をかける。語られた言葉

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エッセイ「燃え殻2」

エッセイ「燃え殻2」

まだ明るさの残る帰り道。桜島を右手に、会社に通勤していたあの頃と同じ道を走っていた。

すこぶる疲れていた。
新しく習う仕事を覚えるのに頭をフル回転した一日だった。終わってからも何も考えられず、音楽もかけないままハンドルを握っていた。

はあー。疲れは、思考をネガティブに寄せる。今日とは関係ないはずの不安まで大きくさせた。

気持ちを切り替えたくて、radikoを流すことにした。「お気に入り」に登

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「あなたと話したい」〜昨年後半の、とても幸せな日々について。

「あなたと話したい」〜昨年後半の、とても幸せな日々について。

1.出会ってしまった

音楽家である彼と出会ったのは、去年の夏のこと。彼は音楽にあかるい人たちや、ほんものの言葉や表現を好いているような人たちから一目置かれた存在で、彼の歌や彼じしんを慕う人々が、この世にはたくさんいる。

私は数年まえから、彼の音楽を聴きはじめた。通勤の車の中や、お風呂の中で。怖くなったり心穏やかになったりしながら、ほとんど毎日を彼の音楽とともに過ごした。そうしてとうとう、彼に会

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曽我部恵一エッセイ本「いい匂いのする方へ」感想

曽我部恵一エッセイ本「いい匂いのする方へ」感想

2日前、サニーデイ・サービスのライブに行って曽我部恵一さんのエッセイ本を買いました。そして本日、一気に読みました。感想を書いてみます。

最後まで読み終わり、もう一度パラパラと本をめくった。
あれ、あれ!? 
冒頭にある写真たちが、読む前に見たときと全然違って見える。

文章を読む前、曽我部さんのお家(たぶんだけど)が写っている!とわくわくして、そのおしゃれさにドキドキした。
電球色の灯りの下みた

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エッセイのような詩「ギター」

エッセイのような詩「ギター」

ギターの音が、トゥルトク、ポコポコという水の泡に聴こえて、すっかり魚になった気分だ。透き通った浅い海の底にいる魚か、部屋の隅にある水槽の中の魚か。泡が、水をめぐらす。

ギターはほんものの木でつくられているはずなのに、水の泡は、人工的な音をしている。
海ならばダイバーが近くにいるような、水槽ならば酸素を排出する装置があるような。

私は水の中で、上からの屈折したあかるさを感じている。
上がりたい、

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「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

重なり合う声で幕を開け、重なり合う声で幕を閉じたジェシー4部作。

はじめてその音に触れたときの踊り出したくなるような興奮と感動は、一度も止むことなく、とうとう終わりを迎えた。
そして、迎えたはずの終わりが始まりだったと分かるとき、すべてのいのちは循環し、永遠に続くのだという真理にたどり着く。

わたしの中で、わたしの外で、「全体」を形づくるそれぞれの「一部」が、互いにめぐり、めぐらせながら生きて

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エッセイ「燃え殻」

エッセイ「燃え殻」

仕事からの帰り道、まあまあ長い運転時間に、スマホでradikoを開いた。くたくたの体でも聴けるようなテンションのものがいいなあ。検索しながら目に入ったのは、「燃え殻」さんの番組。なんとなく聴いてみようという気持ちになって、再生ボタンを押した。

ラジオでは、おそらく燃え殻さんが選んでいるのだろう音楽が流れ、彼自身によるエッセイの朗読があった。昔、テレビ局のバックヤードで働いていたこと、その頃は組織

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折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

木の濃い茶色が厳かな空気をかもす建物の中に、いくつも並んだきらびやかな白薩摩。
その間から、男はやって来た。

少し猫背ですたすたと歩き、ステージの真ん中に着いたところで顔をあげた。
客を向いた顔を目にした時、私は、あ、緊張するんだ、と思った。
何となく緊張しない人だろうと、勝手な想像を描いていた自分に気づいた。

ギターの前奏に続いて歌がはじまった。
私の身体中、穴という穴から汗が吹き出るのを感

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2020年大みそか

2020年大みそか

今日は年の瀬にふさわしく、すこぶる明るい一日だった。
朝、目が覚めると窓の向こうの屋根はまっしろ。
テレビで、新聞で、散々聞いた「九州でも大雪」の予報ほどではなかったけれど、久しぶりの、たしか3年ぶりくらいの雪と
心の中で「やあ!」とあいさつをした。

朝ヨガのち お茶漬けをすすり、
すこし落ち着いてから 年末恒例の鶏の煮付けを作る。
庭で採れたりっぱな大根は二股で、かわいいあの子が小さかった頃み

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